かりごっこ

徒家エイト

第1話

「うみゃみゃみゃみゃ!!」


 ネコ科の鳴き声が、広いサバンナに響き渡っていました。


「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 悲鳴もついでに響き渡っていました。


「こ、ここに……隠れれば!」


 悲鳴の主はサバンナの窪地に身を隠します。


「うーん、どこに行ったのかなぁ?」


 うみゃうみゃ言っていたフレンズは相手を見失ったようで一度立ち止まります。そして超音波をとらえる頭上の獣耳を研ぎ澄ませました。


 そしてかすかな音をとらえます。


「む? そっこだぁ!!!」


 サーバルキャット特有の大ジャンプ。迂闊にも音を立ててしまった悲鳴の主にとびかかります。


「サーバル! わたしの負けよぉ!」


「やった! 勝ったー!」


 サーバルは無邪気に飛び上がります。彼女に飛び乗られたサバンナシマシマ……、もといサバンナシマウマは涙目で起き上がりました。


「うう、また負けちゃった」


「でもシマウマ、だいぶん上手になったね! 最初、どこにいるか全然わからなかったもん!」


 サーバルが褒めてくれますが、シマウマの顔は晴れませんでした。


… … …


「……というわけで、最後は必殺技『サーバルスーパージャンプ』でやられちゃったの!」


「うーん。やっぱり『サーバルスーパージャンプ』が決まり手だよねぇ」


「でもね! あれさえ封じれば、我々も勝利は近いわ! はーっはっは!」


 さばんなちほー某所。まるで悪の組織の幹部のような高笑いをするは、先ほど涙目だったシマウマです。


「それができないから苦労してるんだよよぉ」


 対照的にため息を吐くのは、トムソンガゼル。


 実はこの二人、サーバルの遊び相手で、毎日のようにサバンナを駆けずり回っているのです。


 しかしながら、二人はいっつも狩られる側。そして必死の抵抗にもかかわらずサーバルに負けてしまっています。


 いつのころからか、二人はタッグを組みました。目標はただ一つ、サーバルを狩る。人呼んで、『しょくもつれんさのはんぎゃくしゃ』の結成でした。


 ちなみに二人とも、『しょくもつれんさ』や『はんぎゃくしゃ』の意味は知りません。なんかかっこいいな、程度の認識です。


 かりごっこの後、二人はいつも、こうして反省会を開いているのでした。


 ただ勝気なシマウマに比べ、ガゼルはちょっとあきらめ気味のようです。


「それにだよ、『サーバルスーパーイヤー』も強敵だもん。あれでサーバルはわたしたちの位置を把握してるんだからさぁ」


「ふふふ。ガゼル? あなた、大事なことに気付かないのかしら?」


 シマウマは不敵な笑みを浮かべます。


「大事なこと? そーだねぇ、シマウマの口元にジャパリまんの食べかすが残ってることぐらいしか……」


「ええ!? なんでもっと早く言わないのよ! っじゃなくてっ!」


 ごしごしと口を拭って気を取り直すと、シマウマはバーンと空を指さしました。


「『サーバルスーパージャンプ』と『サーバルスーパーイヤー』は二つ合わせないと使えないのよっ!」


「それがどーかした?」


「鈍いわねガゼル。つまりどちらかをふさげば、サーバルはあの特性を発揮できない! そうすればわたしたちの勝利に間違いないわ!」


「なるほど。それは名案だね!」


「でしょでしょ? さっすが私、賢い!」


 シマウマは悦に浸っているようです。二人はその後、具体的な作戦を練り始めました。『しょくもつれんさのはんぎゃくしゃ』たちの戦いが、今幕を開けます。


… … …


「ええ! 今日はシマウマとガゼルが狩りをするの!?」


 二人の提案を受けたサーバルは、目を丸くします。しかしシマウマは自信たっぷりに言いました。


「ええそうよ! わたしたちにだって狩りはできるんだから!」


「うーん。二人って狩りが得意なフレンズだったのかなぁ?」


「生まれ変わったわたしたちを見せてやるんだ!」


 なぜかガゼルも自信ありげな表情。何事も前向きなサーバルは、


「ま、いいか! 私、逃げる方もやってみたかったんだー」


 そう言って素直に二人の提案を承諾しました。


「いい? この木の影が、こっちの石にかかったら探し始めるわよ」


「わかったよシマウマ! 頑張って逃げるからね!」


 そういうとサーバルは駆け出しました。


 しばらくして、木陰が約束の石に差し掛かります。


「時間ね、行くわよガゼル!」


「よーし!」


 二人は草をかき分けて進み始めました。


「シマウマ、サーバルはどこに隠れたんだろうね」


「サーバルは狩られる側に慣れていないわ。きっと普段自分がいるところに身を潜めているはず」


「だとすると、あの辺の木の上に……」


 ガゼルはサバンナにまばらに生える木々に目を向けます。やがてそのうちの一本に、


「……いた」


 サーバルが潜んでいました。二人は息をひそめてゆっくりと近づきます。


「いい? ガゼル。作戦通り、ガッと行ってどーんと行くわよ!」


「了解だよ!」


 二人は一斉に駆け出しました。


 元々、単純な走力ならシマウマもガゼルもサーバルに引けを取りません。サーバルは隠れているところに飛び込んでくるのが得意なフレンズだからです。


 こうして全速力で走れば、サーバルに追いつくこともできるでしょう。


 しかし聴力に優れたサーバルは、二人の姿を見るより前に彼女たちが接近していることに気付きました。


「むむむ。こっちに来てるね……」


 楽しそうに笑うと、サーバルは動くことなく木の上に寝転がりました。


 単純に、シマウマとガゼルの二人がどのようにしてかりごっこをするのか興味があったのです。それにもし危なくなっても、自慢のジャンプで逃げ出せますし。しかし念のためそっちの方向に耳を傾けます。


 そして二人の姿がすぐそばまで来た時、


「キィィィィィヤァァァァっ!!!!」


 とんでもない轟音が、サーバルの耳を襲いました。


「うみゃああああ!?」


 びっくりしたサーバルは木の上から転げ落ちてしまいます「。


「よし! 聞いてるわ!」


「大声で叫ぶ作戦成功だね!」


 そう、シマウマはこちらに耳を澄ましているだろうサーバルに向かって、思いっきり金切り声を上げたのです。


 かすかな音すら逃さないサーバルの耳は、その叫びを思い切り正面から受けてしまったのでした。


「うう。こんなのズルだよぉ」


 サーバルは顔をしかめます。しかし、シマウマもガゼルもお構いなしです。


「サーバルぅぅぅぅ覚悟よぉぉぉ!」


「うわっ」


 飛びかかってきたシマウマをギリギリでかわします。


「捕まえたぁぁぁぁっ!!」


「ひゃぁ!」


 滑り込んできたガゼルをすれすれで避けます。


 二人はサーバルにジャンプさせる隙を与えません。これもまた作戦でした。


 やがて持久力に劣るサーバルが、息切れを起こし始めました。シマウマはそれに目ざとく気づきます。


「ガゼル! サーバルはもう限界よっ! このまま前後で挟み込んで一網打尽にしましょう!」


「よーし! これで終わりだぁ!」


 前からシマウマ、後ろからガゼル。サーバル、絶体絶命の大ピンチ!


 その時、サーバルの脳細胞に電撃が走りました。


「……、えい」


 サーバルはその場に屈みこみます。


「「え?」」


 彼女のとっさの判断を理解できないまま、シマウマとガゼルは一斉に飛びかかり、


「「ぎゃぁっ!!」」


 サーバルの頭上で正面衝突したのでした。


… … …


「うう、賢くなったわね、サーバル」


「また負けちゃったぁ」


 ひりひり痛む鼻を抑えながら、シマウマとガゼルはサーバルの健闘を称えました。


 サーバルもとても満足そうに言います。


「わたしもすっごく楽しかったよ! たまには逃げるのもいいね。またやろう!」


「ええ。今度こそ捕まえてあげるわ!」


「負けないよ!」


「言ったなー!?」


 夕暮れのサバンナで、三人は笑い合いました。こうして、さばんなちほーの一日が、いつものように過ぎてゆくのでした。


 


 


 





 


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かりごっこ 徒家エイト @takuwan-umeboshi

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