これまでと、これからと

メーキモ

第1話

「ねぇ、どうして?」

 瞳を潤ませたサーバルが、ミライに詰め寄る。

「これからお客さんがたくさん来るって! これからだって言ってたのに!」

「……ごめんね」

 ミライがサーバルの頭を撫でる。

「きっと、すぐに戻ってくるから」

 サーバルの涙が床を濡らした。


 巨大セルリアン。

 それがジャパリパーク閉鎖の元凶だった。

 そして、ミライがジャパリパークを出て行った原因。

 ミライがこの島を去ってから、サーバルはこれまで以上に狩りごっこに励むようになった。

 ハンター達の動きを参考にして、セルリアンとの戦い方も研究した。

 あのセルリアンを倒せば、ミライが帰ってくるはずだ。

 そう信じてサーバルは戦い続けた。

 そして、その日は訪れた。


『サーバルがセルリアンに食べられた』


 その報せは瞬く間にジャパリパーク中に広がった。

 サーバルは元の姿に戻り、その行方は分からなくなってしまったとのことだ。

 自分よりも大きなセルリアンに出会ったら、ハンターに伝えること。

 決して、自分で戦おうとはしないこと。

 これまで以上に強く、フレンズ達に言い聞かせられるようになった。


■■■


 目蓋の向こうが眩しい。

 肌を焼く日光の熱さから、太陽が高い位置にあるのを感じる。

 真昼のサバンナ。

「あつーい!」

 目を見開いて、飛び起きる。

 どうしてこんな日差しの中で寝ているのだろう。

 お昼寝なら、木陰や木の上でした方が気持ちいいのに。

「あれ? ここどこ?」

 寝ぼけた頭で辺りを見回す。

 角の生えたフレンズと目が合った。

「さ、さ……」

「さ?」

「サーバルが生き返ったー!!」

「え、なになに?」

 目が合った相手は、踵を返して全速力で走っていく。

「狩りごっこ? 負けないよ!」

 同じく全速力でそれを追うサーバル。

 大きく飛び上がり、相手を押し倒す。

「うわあああ!」

「へへー、つかまえた!」

「お、お前サーバルだよな?」

「サーバル? 私の名前?」

「そうか、記憶が……」

「私のこと知ってるの? それなら教えて! 何も覚えてなくって……」

「お、追々な。まずは皆のところに行こう」

「じゃあ後で教えてね! 約束だよ」

「しかし、食べられたと思ったら2回目のフレンズ化? サバンナのトラブルメーカーの名は伊達じゃないな」

「えー!? 私トラブルメーカーなんかじゃないよ!」


■■■


「こんな感じでね、私の時は皆が色々教えてくれたんだ!」

 日が沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。

 林の中で寝そべりながら話す、サーバルとかばん。

「皆やけに私のことに詳しいんだよ。もしかしたら元の動物の時から知り合いだったのかなぁ」

 考えてみれば、これまで誰からもサーバルがフレンズになる前の話を聞いたことがない。

 サーバルが質問しても「そうだ、ジャパリまん食べる?」等と別の話題に変えられてしまうのだ。


 何かの間違いでサーバルの記憶が戻ってしまうと、再び巨大セルリアンを倒そうとするかもしれない。

『サーバルには昔の話を聞かせないこと』

 サーバルの過去を知るフレンズの中での決めごとである。

 もちろん、サーバルには伏せられている。


(知らないなら知らないって答えるはずなのにどうして?

 でも、ジャパリまんがもらえるんだから別に気にしなくても良いのかな。

 でもでも)

 気にはなったが、サーバルは思考を切り替える。

 今はかばんの件が先決なのだ。

「でも、かばんちゃんの場合は難しいね。やっぱり図書館まで行かないと分かんないかも……」

「うん……特徴が何も無いから」

「そんなことないよ! きっとすっごーく頭が良くて何でも作れちゃう、凄い動物だよ!」

「褒めすぎだよ。ふふっ。でも、ありがとう……最初に会った子が、サーバルちゃんで良かったな」

「そう? 他の子もみんな良い子たちだよ。私より頼りになる子だって居るし」

「うん。それでもだよ。サーバルちゃんと出会えたから、今、この旅がこんなに楽しい」

「みゃーーー!!」

 仰向けのかばんに、サーバルが飛び乗る。

 その表情は夜だというのに太陽のように明るかった。

「えー、何で!?」

「最初って、こうやって出会ったんだよね!」

「そうそう。すっごく恐かったんだから」

「ごめんねー。今も恐い?」

「今は恐くないよ。でも、ちょっとびっくりしたかも」

「ごめんね。何か嬉しくなっちゃって! あ」

 サーバルの目がかばんの横に置いてあった帽子にとまる。

「帽子がどうかしたの?」

「その帽子を見てるとね、少しだけ懐かしいような不思議な気持ちになるの。ねぇ……」

 かばんちゃんが何の動物か分かったら、その後どうするの?

 声には出せなかった。

 自分でもその理由が分からずに、サーバルは戸惑った。

 お別れをしたって、かばんがジャパリパークに居る限りいつだって会いに行ける。

 かばんが自分のなわばりを見つけて、そこで暮らすことになったって、会えない理由にはならない。

 これまでたくさんのフレンズと出会ってきたけれど、二度と会えなくなってしまった存在なんて居ない。

 そのはずだ。だけど……


 大切な何かを忘れてしまっているような気がする。


 急に黙りこんだサーバルを心配してかばんが声をかける。

「どうしたの?」

「ううん。何でもないよ。何でもないけど……」

「サーバルちゃん?」

「ねぇ、手を握ってもいい?」

「いいよ」

 かばんは優しく頷いてサーバルの手を取った。

 それでサーバルの胸のざわめきは少しだけ落ち着いた。

 かばんちゃんのなわばりが分かったら、そこで一緒に住んだりできないかなぁ。

 それはきっと楽しいだろうな。

 今度、かばんちゃんと話してみよう……

 両手に温もりを感じながら、サーバルは眠りにつくのだった。

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これまでと、これからと メーキモ @meitei_2007

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