第6話 アイドル、矢口君
今日も矢口君と佐久間は仲がいい。
「バカ、やめろよー」
「なんで、いいじゃん、いいじゃん。」
何かしらジャレている。
私はその様子を舐めるように見ている。
いいね、いいね。男同士のじゃれ合い。
私は鼻の穴を広げていやらしい目で見ていると佐久間が気付いた。
「何、ニヤけてんだよ、水戸。気持ち悪い!」
「あ?ニヤけてた?いいのいいの、気にせずに。ほら、続けて。」
私は自然に頬が緩みあらぬ妄想をしていた。
私の頭の中では、矢口君と佐久間があんなことやこんなことを。うひょー。
「ふん、この腐れ女子が。」
佐久間が唾棄する勢いで言ったので
「腐れって酷い・・・。」
と泣きまねをした。
「かわいくないんだよ、そんなことしても。」
そう言いながらすたすた行ってしまった。
もー、もっとジャレ合えよー。つまんないなあ。
「あーあ、私ももうちょっと見たかったなあ、ジャレ合い。」
そこには黒ずくめの大女が立っていた。
「あ、おはよう、佐藤。」
相変わらず黒ずくめのひっつめ髪。
この女のすごい所は、自分のスタンスが揺るぎ無いことだ。
陰で密かに、「喪女」と呼ばれている。
「まあ、私は佐久間君派ですけどね。」
佐久間は背が低いけど、かわいらしい顔をしている。
中身は悪魔だけど。
「私、毎日、佐久間君で妄想することだけが、楽しみなんですよ。」
ウフフと佐藤が笑う。
「佐藤、ほんと、あんたキモいね。」
「それ、最高の褒め言葉ですよ。」
矢口君は、とても腰が低く礼儀正しくて、笑顔がとびきり素敵だ。
矢口君は、農機具の修理部門担当で、他の仕事もマルチにこなす
何をやらせても器用で、まさに販売員の鑑のような青年だ。
だから、おじいちゃんに絶大な人気がある。
「矢口君、おる?」
店に年配の男性から電話がかかってきた。
ああ、いつもの、関谷さんか。
「あいにく、矢口はただいまレジに入っております。
何かお伝えすることがあれば、伝えておきますが?」
すると年配男性は突然ヒステリックな声で喚きだした。
「すぐそこにおるんじゃろう?アンタが代わればええことじゃないの。
矢口君に代わってよ!わしは、矢口君に用が」
「はい、わかりましたっ!」
途中まで何かゴネていたのを強制的に電話を保留して言った。
「矢口さんじゃないといけないそうですよ。関谷さんからお電話です。」
そう矢口君に伝えると、無言でレジを離れた。
ホント、気持ち悪いなあ。
爺さん、あんたは矢口君の彼女か!
この前はこの前で、来店したおじいちゃんが矢口君呼んでというから
呼んだら「呼んでみただけ♪」みたいなことを言う。
おかげで矢口君に私が睨まれたじゃないか。
ホント、女子か!
まあ、それほど矢口君が人気があるのは、本人の人徳ってものなんだろう。
「若いのに、本当にすごいな、矢口君は。」
私がそう呟くと、佐久間が
「水戸も少しは見習えば?」
と憎まれ口を叩いてきたので、
「やなこった!そんな面倒くさいこと!」
そう言って、佐久間に向かって中指を立てた。
「わー、さいてー、この女。」
最低で結構。
女子みたいなおじいちゃんに付きまとわれるなんて
まっぴらゴメンよ!
ホームセンター戦記 よもつひらさか @yomo2_hirasaka
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