卒業のエピローグは唯の告白
大和さんのハイエースに乗り込んで私たちは住み慣れた地元を後にした。後部座席の私の隣には私を挟むようにのんちゃんと美和ちゃん。前列助手席には古都ちゃんで、運転席が大和さん。いつもの配置だ。
昨日の出来事があって私は自分の経験を思い出す。昨日の出来事とはメンバー全員が大和さんに抱かれたという事実だ。私は性的な話題とかが苦手だけど、ちょっと頑張って自分が経験したことを話したいと思う。これは私の秘密の告白だ。
実は私は、昨日の卒業式を迎えた時点で既に処女を喪失していた。これは私と大和さんしか知らない。そう、私の他に知っているのは大和さんだけだ。つまり、私に経験をもたらした相手はもちろん大和さんである。
それは高校3年の夏だった。夏休み中だったので、曲作りが目的の2泊のお泊りも両親から許しが出て、私は単身大和さんの部屋に泊まった。尤も単身での泊りだったことは両親には言っていなかったが、家出をしたこともあるのでこれは今更いい。
その2日目。曲作りは順調で、私は大和さんの手配で浴衣を着て、隣の市の花火大会に行った。大和さんとの花火大会デートに浮かれていたし、心から楽しかった。そして大和さんの部屋に帰って来てからだった。
「ごめん。少しだけこうしてていい?」
私の心臓は大きく跳ねた。大和さんが後ろから浴衣姿の私を抱きしめ、耳元でそんなことを囁いたのだ。しかし私の脳内はパニックだったのに、体はそれに反した動きをした。しっかり大和さんの腕を確保して、はっきり首を縦に振った。
ただその後は仲良く過ごし、会話もたくさんした。多少のスキンシップはあったが、その程度だと思っていた。しかし後になって知るが、この時既に大和さんは引き返せないところまで理性が崩壊していた。
それはお互いにそれぞれお風呂も済ませて、寝ようとした時だった。私は寝室の隅に寄せてあった布団を抱えようとした。家出をした時の約束が寝室は別というものだったので、それがずっと続いていた。だからリビングに敷こうと動いたのだ。
しかし大和さんは言った。
「あ、あのさ、もし唯が嫌じゃなかったら一緒に寝ない?」
まさかこんなことを言われるとは思っておらず、私は硬直した。この時はまだ照明も消していなかったので、真っ赤になった私の顔色ははっきり伝わっただろう。そんな状態なのにまたも体が勝手に動き、声も出さずに首肯した私の動作もしっかり認識された。
大和さんはセミダブルベッドの端に寄って体を寝かせた。タオルケットしか置かれていないそのベッドで私のスペースを空け、私が入ることを促している。私は緊張のあまりぎこちない動きで大和さんのベッドに入った。
「し、失礼します……」
私が体を寝かせると大和さんは慣れた手つきで枕棚のリモコンを操作し、部屋の照明を常夜灯に切り替えた。薄暗さがすごく雰囲気を出していて、静けさが私の心臓の音まで届けるのではないかと不安になった。それでも私はこの時、まさかあの大和さんが理性を崩壊させていたなんて気づかない、そんな男を知らない無知な少女であった。
それからすぐに大和さんに抱きしめられ、たくさんキスをされた。それ自体は私も喜びを感じた。しかし動作は流れて大和さんは私の体を触るようになる。それが怖くて、不安で、けどキスとハグが気持ち良くてそれに酔った。何より自己主張が得意ではない私だから拒否もできず、それ故にされるがままであった。
そして幾通りの過程を経て私に覆いかぶさった大和さんは、切なそうな瞳で私を見下ろして言った。
「いいかな?」
今でも意外に思う。私は潤む瞳で大和さんを見上げて、首を縦に振ったのだ。怖いと思う気持ちがあったのは事実だが、それに反してどこかで期待していたのだろうか? そんな葛藤を大和さんが気づくはずもなく、私は服を脱がされ、とうとう大和さんの侵入を許した。
ただ卒業式の日ほど大和さんは獣化しておらず、私は時間をかけてゆっくり身体を慣らされ、とても優しく抱いてもらった。確かに大変な行為ではあったが、けれどとても幸せだと感じる時間だった。
しかし情事が終わって大和さんの腕枕に収まっていると、どうやら冷静になった大和さんは罪悪感に蝕まれているようだった。
「はぁ……、武村さんとの約束破っちゃった。何より唯のお父さんとの約束が……」
私のお父さんに対しての罪悪感の方が重いと感じているような声色だった。けれど私には後悔がなく、最高潮に感じた幸福の余韻に浸っていたから大和さんにも悔いてほしくなかった。
「あ、あの……、凄く幸せです」
「え?」
大和さんの胸に頬を預けていたから表情は見えなかったが、大和さんは意外そうな顔をしていただろう。自分でも自分の口からこんな言葉が出るとは思ってもいなかった。それなのに私の口は止まらなかった。
「大和さんに求められて凄く嬉しかったです」
よく言う。期待も確かに否定はできないが、間違いなく恐怖もあった。もし大和さんが配慮のない抱き方をしていたら、途中で泣いていただろう。それくらいの抵抗もあったのだ。ただ言葉も嘘とは言えず、幸福と恐怖が絶妙なバランスを保って、最後まで達成できたという結果論だ。
「唯……」
すると大和さんは体を横向きにして私を強く抱きしめた。私もしがみつくように大和さんに腕を回した。相手の肌が直に感じられる。大和さんの体温を直接感じる。初めて知った好きだと思える感覚だった。
その後の話で知ったことだが、この日の時点で18歳を迎えていたのは私だけで、大和さんは私の歳を強く意識してしまった。加えてお風呂の前まで私が浴衣姿だったから、大和さんは私に色気を感じてくれた。それでどうしても収まらなかったらしい。
けどだからと言って、他のメンバーが18歳を迎える毎に大和さんはそのメンバーに手を出すことはなかった。実際に卒業式の日の行為で確信もできた。それは事務所との約束でもあるからだ。加えて保護者のことを考えたらしい。尤も私との間では約束を破ってしまったが。
しかし一度交わった者同士のガードは緩くなる。私はそれを知ったし、大和さんも例外ではなかった。不定期ではあるが月に1回か2回ほどの割合で、私たちは大和さんの部屋で逢瀬を重ねた。その度に私は大和さんの求めに応じた。
こうして私とは何度か営みがあったことも、大和さんが他のメンバーに対しては我慢ができた要因だったかもしれない。
そんな中、回を重ねる毎に私の体はどんどん慣れていき、私は大和さんから女の喜びを教えてもらった。私は大和さんに抱かれることが日に日に好きになっていった。
学園祭後、ステージやレコーディングで使うベースがなくなって、大和さんと一緒に買い物に行った日もそうだ。買い物が終わるなり私は部屋に誘われて、喜んでついて行った。けどその返事をするのはとても恥ずかしいことなので、表面上は真っ赤になって俯いていた。
その日は大和さんが買い物で不足分のお金を出してくれた。それに私は遠慮したものだが、大和さんはこう言った。
「高校生のカノジョを持つ社会人なんだから、格好つけさせて?」
それでも遠慮をする私に大和さんは続けた。
「それに唯はさ、僕と一番進んでるカノジョだから」
これを言われては私の頭は茹で上がってしまい、まともな思考が働かなかった。すると大和さんは一度笑って付け加えたのだ。
「だからたまにはメンバーに隠れて依怙贔屓」
ただ1つ。他のメンバーの名誉のために言うと、大和さんは間違いなくメンバーに向ける気持ちに差がない。冷静になってから思えば、大和さんのこの言葉は遠慮する私のハードルを下げさせたかったための口実だと気づく。それでもその日の私は大和さんの手のひらの上だった。
大和さんはいつもメンバーに振り回されてばかりだが、ベッドの上では私をしっかり手なずけた。私はそれを理解するが、大和さんのことが大好きなので改めるつもりもないし、それができるとも思っていない。
東京までの長い道中で、私はそんなことを思い出していた。寝た振りをしている俯いた状態で薄く目を開けて、チラチラと周囲のメンバーを見る。
メンバーの皆、ごめんね。私はせっかく先陣を切れたのに当時は羞恥が強くて言えず、一度そうなるとタイミングが掴めなくて今に至る。お父さんと武村さん、ごめんなさい。約束を破りました。
この秘密は当面人に言うことはないだろう。私と大和さんの2人だけで共有された体験だ。
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