第28話 出立
アルニエとわたしは友達になった。
ハルトのことも知っているアルニエは、きっと相談相手にするならよくわかってくれる人だと思う。
「あ、あの……アリスに言っておきたいんですけど」
顔を真っ赤にしながらアルニエはわたしに話す。
「その……今おつきあいしている人がいるんです。アリスも知っている……」
「もしかして……ブルーノさん?」
ええ、とアルニエは小さく頷く。
「だ、だからレオンハルト様のことは好きだとかそういうことはないですから! ……あのときのことは完璧に終わっていますからねっ」
わたわたとアルニエは、へんな動きをしながらわたしに一生懸命ハルトとのことを否定する。わたしが落ち込んでいる気分なのを知って、アルニエなりに気遣ってくれているんだろうな。
「ん、ありがとう。アルニエ」
「は、はいぃ」
プシューと頭から蒸気がが出そうなぐらい、アルニエは真っ赤になった。
やっぱり、かわいいなぁ。
「今まで魔術の研究ばかりで、女性で仲の良い人がいなかったので……慣れてなくてすみません」
「わたしも異世界の友達がいなかったから、二人で一緒に慣れていこうね」
そうして、二人で当初の食料の準備を再開し、あらかた準備が終わった頃、アルニエが話す。
「不安なのは、レオンハルト様なんですよね。あのことが新しい記憶なら、これからどんな行動に出るのか不明で」
「そうだよね。そもそも男の人一人に女の子二人で旅行だなんて、ハーレムだよね。まあ、ハルトが浮気しないようにしっかりしたいところだけどなぁ」
ハルトがわたしに向ける態度は冷たいまま。
ハルトの中には、わたしの記憶はまったくないから、昨日初めて会った相手だし、アルニエに対しては仲間意識があり……たぶん一夜をともにした相手。
だったらアルニエのほうがハルトにとっては親しい相手だ。
「アルニエに言われるならまだしも、婚約破棄しかかっているわたしがハルトにいろいろ言うのはきっと駄目なんだろうなぁ」
「ええっ! あの儀式を大々的にやったのに、婚約破棄はできないですよ。っていうかひどいですね。レオンハルト様は」
「俺のなにがひどいんだ? アルニエ」
ハルトがいつの間にか家に戻ってきていた。
記憶を失う前のハルトの優しげな雰囲気はなくなり、なんとなく冷たそうな印象を受けた。
「あ、いえ、レオンハルト様がいろいろ忘れている事柄に対してです。と、いうかもうこんな時間なんですね。夕食の準備にとりかかりますね!」
水を飲みにきていたらしいハルトは、水を飲んだあとアルニエに台所から追い出されていた。ハルトは剣の手入れをして明日からの旅に備えるらしい。
わたしとアルニエは二人で夕食の準備をする。
「結構レオンハルト様って地獄耳なんですよね。以前の旅のときをだんだん思い出してきました。ブルーノがわたしに好きだと言っていたことには、レオンハルト様も気づいていたんですが――」
ブルーノはアルニエに何度も付き合って、と言っていたらしい。
ジェムボックスのときの顔を思い出してわたしはニヤッとしてしまった。
紳士な顔のブルーノさんが、そんなことを。
「ブルーノは腕のいい戦士なんです。わたしは何度もブルーノに護られていて、それがわたしが好きになった決め手でしたね。だから、魔王を倒したあとに付き合うようになったんです」
「そうなんだ。いいなぁ、わたしも早くハルトの記憶を取り戻して、アルニエに惚気けたいなぁ」
婚約破棄って言われたけど、正式に破棄をしたわけじゃないから、わたしは信じないことにした。だってハルトの記憶が戻れば、わたしも幸せになれるんだから。
「ですね。急がないとレオンハルト様の領地で反乱が起きるかもしれませんし」
……そうだった。
ハルトに呪いをかけた犯人も、探さないといけないよね。
「うわ――やることが山積みだ」
「それに、アリスも帰れないし、ブルーノもこちらに戻ってこれないから、それも急いでほしいです」
「だね。がんばろうね。アルニエ」
*
わたしとアルニエを先頭に、ハルトはゆっくりと後ろからついてくる感じで、のどかな山道を進む。
アルニエの転移魔法はポイントが限られていて、どこかに自由に行くのには不向きなので歩きで進むことになる。
「馬車を借りてもいいんですが、わたしの手持ちがそんなになくて」
わたしとハルトはお金を持ってこなかった。
ハルトはある程度財産を持っているんだろうけど、邸宅に今は戻れないので、まるっきりアルニエに頼ることになるから、わがままは言えなかった。
「ん、歩くのも気持ちいいよ。それでさ、お金を稼ぐ方法とかお手軽にないのかな? 湖に現れたようなモンスターを倒すとお金がチャリーンと落ちてくるとか」
「いいえ、そういうことはありません。冒険者ギルドに登録しクエストをこなせば賞金がもらえますが、そこに行くまでは歩きですね」
「テンプレートな展開だよ。ゲームみたいにお金が沸いて出て来るわけじゃないからな。しかし俺が着の身着のままとはおかしい。剣も初期の剣しかないとは」
後ろからハルトがわたしたちの会話に割り込んでくる。
道中にもしもモンスターが出てきたとしたら、ハルトはきっと強いんだろうな。そんな感じの雰囲気だった。
「レオンハルト様はわたしたちの旅のときも一歩引いていましたね。あのときの冷徹な感じに戻っています」
アルニエはわたしに耳打ちをしてきた。
たぶんこれからハルトに聞かれたくないことは、こうやって内緒話になるんだろうな。でも内緒話をしていても、ハルトは全然こちらに興味を示してこなかったから、頻繁にやらない限りは大丈夫かも。
山道がだんだん石畳の道になり、わたしたちは大きな街についた。
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