第27話 読心の魔法
見えたシーンは、ブルーノがテントみたいなところで寝ていて、アルニエと一緒にわたし……? が焚き火を囲んでいるところだった。
「あの、レオンハルト様にお話があります」
真剣な表情のアルニエが、わたしにルビー色に光る瞳を向ける。
そして顔はほんのり桃色に染まっていて、すごく色気のある表情だった。
「ん? どうした、アルニエ」
しばらくこっちを見つめたあと、アルニエは目線を落とした。
そして小さな声でアルニエは言った。
「あの、無事に魔王を倒したら……その……わたしと結婚してほしいのです」
その言葉を聞いたわたしは、どうでもいいとなぜか思ってしまった。
今の状態のアルニエに、もしもわたしが告白されたのなら、ものすごく戸惑ってしまうけど、どうして?
そう思ったとき、わたしは理解してしまった。
この心の動きはハルトのもの。
ずれた心の動きに違和感があったけど、この状態をわたしは見続けるだけだった。
そして口が勝手に動く。
「ごめん。俺はアルニエとは結婚できない」
はっきりとした言葉に、アルニエはものすごくつらそうな顔をする。
だけど、そのあとすぐに顔を切り替えたアルニエは、濡れた瞳とつややかな唇を動かして言った。
「ではお願いがあります……レオンハルト様との一夜の思い出だけ……わたしにください」
切なそうに言うアルニエ。
その言葉を聞いたわたし……いやハルトは心が冷えつつも身体が熱くなるのを感じた。そして、無言でゆっくりとアルニエを抱きしめる。
「……初めに出会ったときから、愛していました。そんなわたしの願いを、どうか」
抱きしめたアルニエの体温を感じる。
そしてアルニエの柔らかな身体に、ドキドキした。
抱きしめたアルニエの首筋にキスを一度だけする。そのあとハルトは何かを発言するところで、わたしはハルトの意識から離れ、急激に目の前にいるアルニエと景色が遠くなり、チカチカと目がくらんだ。
チカチカが収まったとき、目の前でハルトがわたしの手首を掴んで、手ぬぐいを取るところだった。
「貧血みたいだな。大丈夫なのかアリス。顔色が悪いようだから家で休んでいろ。それと……また勝手に湖まで出ないように。昨日みたいなことが起こるかもしれない」
手ぬぐいをぽんと投げてわたしに返すハルト。
今のハルトのぶっきらぼうなところよりも、さきほどのシーンが衝撃すぎて、わたしは適当に返事をし、家に入る。
読心の魔法を使ったためなのか、すごく身体がだるい。
ベッドに横になりながらわたしは、さきほどのシーンを思い返していた。
「あれはハルトの記憶……だよね。つまり」
『魔王を倒したら』の言葉があったから、あれは過去の出来事。
つまりハルトとアルニエはそのときにもしかしたら……そして、今のハルトの記憶はそこまで戻っているということなのかな。
「わたしの記憶はすべて消えてるってこと、だよね」
現実世界の時間で、いつハルトが魔王を倒したのかはわからない。
だけどわたしが初めてハルトに連れられて転移を行ったときより前に、すでに魔王は倒しているはず。
ハルトがその頃の記憶に戻ってるのなら、まだわたしとは出会っていないんだ。
わたしは頭を振る。
いつの記憶だとしても、もうすでに今は終わっていることで、わたしにできることはハルトの記憶を取り戻すこと。
頭ではそれがわかっていても、心は……。
その感情を振り払うようにわたしはベッドから出て、アルニエを手伝うことにした。少しだるいけど、荷造りを手伝うぐらいならできそう。
台所にアルニエはいた。
「あ、アリス様……」
テーブルの上には荷物が乱雑においてあって、アルニエはその前に座っていた。
なにか疲れた様子のアルニエに、わたしは静かに話しかける。
「ハルトの記憶を見ました。その……アルニエのトップシークレットと思われる部分を見てしまったの。ごめんなさい」
駄目だ。
わたしは単刀直入に聞いちゃう部分が、きっと暴れ馬って言われるところなんだろうな。でも上辺を取り繕ったまま、魔王の城までの旅を三人で行くことは、わたしにはできなかった。
「えっと、あの……?」
急にオロオロしだすアルニエ。
そして小さな声で、
「……レオンハルト様のことですよね」
とアルニエは昨日あった出来事を話してくれた。
「実は昨日、アリス様が出ていってから、レオンハルト様に聞かれました。わたしの体調を気遣う様子が魔王を倒す前のあのときと同じで、わたしはあのときまでレオンハルト様の心が戻ったんだな、とわかりました」
アルニエはわたしに向かって頭を下げてくる。
「アリス様が気づいたときに言おうとしたんですけど、分からないならそのまま言わないようにしようか迷いました。もうすでにわたしにとっては過去のことでしたから、わたしから言ってしまったらいたずらにアリス様を傷つけそうな気がしたんです。だから……ごめんなさい」
「ん、わたしも本来は知っちゃいけないアルニエとハルトのことを読心の魔法で見てしまったから、それは悪いと思う。だからアルニエが謝らなくてもいいよ」
「でも……」
二人で乱雑なテーブルの対面に座ったまま、無言になる。
わたしはこんな空気を吹き飛ばしたほうがいいと思って、アルニエに言う。
「あのさ、お互いに敬語をやめないかな? 同じ歳ぐらいなのに堅苦しいよ」
「そ、そうですか? でも、アリス様はこの国の王妃になるわけですから……」
「ん、わたしがいいって言ったらいいの。それでさ……友達になってくれないかな? なんでも話せるような友達に。こっちにまだいろいろ話せる友達がいないから、アルニエがなってくれたら、うれしい」
アルニエはわたしの目をじっと見て言った。
「わたしで良ければ……よろしくお願いします、アリス」
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