第23話 力の開放

 わたしはアルニエと一緒に、森の中にある湖のほとりにきていた。

 予想以上に大きな湖だけど、ぐるっと森に囲まれていて誰もいない。


「儀式を始める前に、こちらに着替えていただきます」


 薄い生地の着物のような、手術着のようなものをアルニエから手渡される。

 わたしはこの場で全裸になり、着替える。

 少し躊躇するものの、アルニエにこの場で着替えるように言われた。

 茂みに隠れようと思っても虫とか獣がいたら、対処できないためだそうだ。


「裸を気にしなくても大丈夫です。ここ一帯には人払いの結界と防御の結界の二重結界を張ってありますから」


 自信がないスタイルだけど、アルニエも女の子だし大丈夫だよね。

 わたしは急いで薄い服を羽織るけど、薄すぎて半透明になっているからなんだかすごくエッチな服装に思える。


「……恥ずかしいんですけど、これ」


「気になるのは今だけです。力を開放するとそんな余裕はなくなりますので」


 アルニエは気になる言葉を話したが、そのあとに湖の水を頭からかぶったり、いろいろやっているうちに質問するきっかけを失ってしまった。

 というか、忘れてしまった。エッチな服装だったし。


「では、その円の中心に立ってください」


 白いチョークのようなもので、円状の幾何学模様が複雑に描かれている。

 その絵を崩さないように、わたしはそおっと歩いて、円の中心に立つ。


「リラックスしていてくださいね。緊張しているとその……痛いですから」


「えっ!? 痛いって……?」


 アルニエはうーんと考える仕草をしたあと、顔を真っ赤にして言う。


「そ、その……初体験の痛みみたいな感じです」


「初体験、してないんですけど……」


 アルニエにえっ、という顔をされる。


「あの、レオンハルト様とは?」


「いーえ! ヤってません!」


 激しく否定したわたしに「まぁっ!」とアルニエは叫んだ。

 いやそのまあ、ちょっと下品だったかなぁ。あ、でも。


「アルニエってその、初体験を済ませているの?」


 見た目の年齢が同じぐらいのアルニエはきれいだし、それなりに恋愛経験もありそうだった。


「う、そ、それは……トップシークレットですっ! ていうかとっとと始めますからねっ」


 なにか触れてはいけないものに触れたみたいで、しっかりしていたアルニエが妙につんけんしていた。

 でも、この会話でなにか緊張感が取れたみたいだった。


 すーはー、とアルニエが深呼吸する。

 わたしもそれに合わせて息をする。

 紫のローブをはためかせて、右手に持った長く節くれだった木の杖の先についている宝石にアルニエが力を込めると、紫色の宝石が明るく光りだした。


「では、アリス様。ご覚悟を」


 あ、なんか時代劇みたいだなぁ、と思った瞬間、わたしの身体がふわりと浮かぶ。

 地面から三十センチほど浮かんだあたりで止まり、胸とお腹のあたりが暖かくなってきたと思ったら、熱くなって息が苦しくなる。


「…………っ!」


「息を止めないでくださいっ。わたしの息に合わせて呼吸をお願いします」


 必死にアルニエの呼吸に自分の息を合わせる。

 まるで水の中にいるように呼吸がしづらい。

 浅くなる呼吸をできるだけゆっくり、深く吸い込んで吐き出すようにすると、少し苦しいのがなくなった。

 呼吸の苦しさを感じなくなったころ、身体全体が燃えるようにあつくなる。

 心臓から湧き出る自分の血が、溶岩みたいに身体全体に行き渡った感じがした。


「……成功しました」


 アルニエのその一言で、わたしもアルニエもその場に崩れ落ちる。

 わたしはその場にへたり込んだ状態だったけど、アルニエは突っ伏して寝転がっていた。ものすごく疲れたんだろうな。


 そして、身体はものすごく暖かく開放するまえよりも血の巡りがよくなったぐらいの感覚だった。

 これで本当に非常に強い力を手に入れた、ってことなのかな?


 あまり変わらなさすぎて、わたしは不安に思ってしまった。


「……呼吸を止めてしまっていたら、アリス様自身が爆発していました。なので、成功してよかったですぅ」


 ヒエッ、失敗したらわたしは死んでいたってこと?


「救世の女神とも言われるグラナティスの乙女ですから、もっのすごく緊張してました。怖かったぁ」


 あ、なんかアルニエのキャラが崩壊している感じ。

 いつもはこんな感じなのかも。


 突っ伏したアルニエに手を貸し抱き起こすと、アルニエは思いっきり泣いていた。


「だって……ぐすっ。ブルーノもレオンハルト様もいなくて……たった一人でこんな大魔術を行うだなんて……ううっ」


「うん、よく頑張ったよ」


 肩を抱きながら、アルニエの頭を撫でる。

 かわいいな、アルニエ。


「ぐすっ……魔法陣を消さないと、ここ一帯の結界が消えませんので、手伝ってくれますか? アリス様」


「わかった。足とかでゴシゴシすればいいのかな?」


「はい、なんでも消せば大丈夫なんです。でも、その……」


「ん?」


 ごしごしと魔法陣を足で消し始まったわたしに、アルニエは言った。


「その服、着替えてからのほうがいいと思います」


 うはっ、そうだった。エロい装束だった。

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