第4話 異世界での役割
「鍵……ですか?」
「そう。俺にとってはアリス、君が必要だったんだ。給湯室へ君だけが来るのを待っていたんだよ」
ということは捕まえられたのも、だ、抱きしめられたのも……?
あのシーンを思い出して、わたしの頬は勝手に紅くなる。そんなわたしを見たハルトは、わたしの気持ちを読んだようにフッと笑った。
「ここへ転移するのは初めてだろうから、アリスがなるべく酔わないようにしていたんだけどね。まだそんなに転移術がうまくなくて、ごめん」
「え、えっと、あのとき……キス……したんですか?」
どうしても気になったから、聞いてみた。だってまだキスしたこともなかったし、男の人とあんなに顔を近づけたりすることも、なかったから。
今度はハルトがわたしの言葉で、真っ赤に……ならなかった。
悔しいけど、ハルトは落ち着いた表情でおもむろに立ち上がって、座っているわたしの前にひざまずく。そしてわたしの左手をそっと取り、両手で挟む。
それは騎士が、姫へ忠誠のポーズを取るときのようなものに近い格好だった。
「キス、してほしかった?」
わたしを見上げるようにして、ハルトは聞いてくる。とたんにわたしの顔は火が出るぐらい熱くなる。
「……ちょっといじわるだったかな。今回はこれで」
とハルトは言い、わたしの左手の甲にキスをした。
*
ハルトにはいろいろと聞きたいことがあった。
でも、いざハルトを目の前にするとわたしの頭はぼうっとしてしまい、なにも聞けなくなってしまう。というか、仕事は!? いきなり居なくなったらマズいんじゃ?
ふと、向こうのことを考えて、わたしは焦ってしまう。
「その顔は、仕事のことを考えてるって顔だね。アリスは非常にわかりやすくていいね。表情によく出てるよ」
嬉しそうにハルトが言う。
「う、うるさいですよっ。そもそもこの世界って一体なんなんですか?」
「ここは現実の世界とは違う、別世界。時間軸も切り離されていて、向こうと同じ時間が流れているわけじゃない、と言えばいいかな?」
そして椅子に寄りかかったハルト。少し椅子が窮屈そうだ。今度はソファーに……とか一人で話している。
「あ、あの――」
「ああごめん。説明が途中だったね。この世界は簡単に言えば、俺が救った世界なんだよ。ほら、よく本屋さんとかで置いてないかな? 『ボクは異世界で勇者をはじめようと思います』みたいな小説とか」
「……見たことはないですけど、たくさん並んでますよね」
「架空の話だと俺も思っていたんだけど、俺は転移してしまったんだ」
なんでも、気まぐれに買った本がそんな内容の本で、そのページを開いたらここに飛んでいたという話だった。
「最初はやっぱり焦ったよ。何もかもが向こうの世界とは違っててさ。でも終わってみれば平穏な生活が待っていると思ったんだ。……実際は、違ったけどね」
そして、ハルトはここの王子としてこの世界を救ったのだ。
さらに独自で研究した秘術により『奇跡の技』を覚えた。それは元の世界とこちらの世界を行き来できる能力。
それを使い、わたしをこちらの世界につれてきたのだ。
でも、なんでわたしなの?
それだけが疑問だった。
「なんでアリスだったのかはこちらの世界に馴染んでから、話すよ。まずは俺の立場、そして君の役割について教えることにしよう」
ハルトはわかりやすくわたしに、こちらの世界での役割を教えてくれた。
それは、レオンハルト王子の妃になること、だった。
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