第2話 プロポーズされました
小花沢さん。
花形の第一営業部ではトップの成績を常に維持。
英国のおばあさまを持つというクオーターで、目鼻立ちがハッキリしていてハニーベージュっぽい柔らかな髪。
梨花先輩いわく、全社内のイケメンコンテストという女子が行っている影の投票にていつも一位を独占しているスーパーイケメン男子。
なのに、似合うけど、いつものスーツ姿ではなく、青い上着とその肩の部分には金色のふさふさがついていて、まるでアトラクションに出てくる王子様の格好だった。似合うけど。
大事だから脳内で2回も「似合うけど」って言ってしまった。
だってさ! そんな破壊力のある小花沢さんがわたしを抱きしめるなんて、信じられない。きっと給湯室の湯沸かし器に頭をぶつけて、妄想しつつ夢落ちよ!
と、うっすら目を開けてみる。
……どうかここが会社の給湯室でありますように。
天井が見えた。ふわふわとした高級そうな薄い桃色の天蓋。
そして、心配そうにわたしを覗き込む、小花沢さんの姿があった。ちなみに王子バージョンで。
「もう大丈夫でしょう。初めての転移による転移酔いと呼ばれる症状だと思われます。レオンハルト王子」
「わかった、ありがとう。モルガナイト」
衣擦れの音がして、モルガナイトという人は去ったようだった。
「あの……」
わたしが寝たまま、小花沢さんに声を掛ける。
小花沢さんは心底申し訳なさそうな顔をして、言った。
「本当にごめん。あの状態で君を置いていってしまう訳にはいかなかった。会社には内緒だったし」
と、わたしを巻き込んでしまったことを謝る小花沢さん。
わたしはガバッと起き上がるけど、ちょっとクラクラしてしまった。
「大丈夫?」
わたしの肩に自然に手を回し、しっかり支えてくれる小花沢さん。
うう、キラキラのイケメンパワーが……!
顔を真っ赤にし、わたしはなにも言えなくなってしまう。
「でも、君で好都合だった」
一呼吸置いて、小花沢さんは言う。
「ここで、俺と結婚してくれないか?」
いけない、また意識を手放しそうに……。
と、わたしが目を回しかけたところで、小花沢さんはバカラのグラスのようなものに水を入れ、わたしに手渡す。
「とりあえず飲んで」
こくんと水を飲む。少し薔薇の香りがする。
「まだ早かったかな。少し寝るといいよ。……夕方にまた来るから」
と、小花沢さんはドアに控えていたメイドに何かを伝え、部屋を出ていった。
*
「大丈夫ですか?」
ベッドに脱力したままのわたしに、心配そうにメイドが声をかけてくる。
「うん。大丈夫なんだけど、ここはどこ?」
「ここはユークレス領です。レオンハルト王子さまが統治されている地区です」
はー、さっぱりわからない。時代も土地名もあれこれメイドに聞きまくるけど、帰ってくる返事は意味がわからないものだらけだった。
「レオンハルト王子さまと同じ故郷なら、奇跡の技が使えるんですよね?」
会話が落ち着いた頃、メイドが不可解なことを言いだした。
奇跡の技?
ああうん、と軽く返事をして、わたしは自分の姿を確認する。
ヒエッ、下着姿だった。
「あ、あのですね。メイドさん。なにか服を……ください」
「あ、はい。承りました。少々お待ち下さい」
メイドが持ってきたのは、見たこともない高級そうなドレスだった。まるでお色直しのときに着るような。
「持ってきてもらって大変申し訳無いけど、わたしがここに着てきた服はないのかな?」
とりあえず駄目元で聞いてみる。
「こちらをお召になってくださいと、レオンハルト王子さまが言っておりました」
うーん。
王子さまと呼ばれる人からの命令だとしたら、メイドは従わなきゃいけないだろうし……それにちょっと水色のキラキラしたきらびやかなドレスには興味があった。
なので、わたしはメイドの着付けにおとなしく従ったのだった。
「素敵です。ええと……」
「アリスっていうの。あなたは?」
「わ、わたしはターフェともうします」
それから夕方になるまで、ターフェにドレスを着たときの所作を習うことになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます