新卒女子の受け持つ仕事は異世界を治めることでした。

東江 怜

第1話 いきなり転移しました

「ちょっと、給湯室でなにしてるんですか?」



 月曜日、午前8時50分。


 新卒として入社したわたしの最初の大事な仕事は、部署全員へとお茶を出すこと。花形と呼ばれる第一営業部に配属され、そこで出撃する先輩社員たちに激励の意味も込め、朝イチでお茶を出すことが新しく配属された者がする、大事な仕事であった。


 最初の一週間は部署が同じ梨花りか先輩についてもらって、しっかりと誰にどのようなお茶を出すかをしっかりメモり、今日からわたしが一人でお茶汲みをする。



 そんな大事なときだったのに。



 給湯室には、梨花先輩がカッコイイと言っていた小花沢おばなざわ陽斗はるとさんがいた。

 日本人離れしたルックス、洗練された振る舞い、仕事の早さ。どこを取っても完璧な小花沢さん。今日は外回りの予定だったのに、なんで?



 しかも、小花沢さんの格好は……少女漫画で見たような王子様の姿であった。

 それが給湯室の狭いところで、襟元のふぁさーっとした真っ白な絹のタイを一生懸命直していた。




「あ……杜若かきつばたさん……だよね?」



 ヤバい、見つかった。


 怪しいことをしているのは小花沢さんなのに、わたしは逃げようとした。が、手首を捕まれ、そのまま小花沢さんの胸に転がってしまう。


 かなりイケメンの小花沢さん。そして扮装は王子様。その人の胸に抱かれるわたしは一気に顔から火が吹き出るぐらい、真っ赤になってしまった。


 だって、夢のようなシチュエーションでしょう、これは。



 目がキラキラになりかけたとき、小花沢さんの胸に引っかかっていた懐中時計から小さなオルゴールのような音が聞こえた。



「あのさ、ごめん。一緒に来てくれるかな?」



 そういうと小花沢さんは、わたしをいきなりお姫様抱っこする。


「きゃ……!」


「静かに。目をつぶってて」



 覆いかぶさるように小花沢さんの顔が近づき、ま、まさかキス……!? あまりにも心拍数が上がったわたしは、そのまま意識がブラックアウトしてしまった。

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