十四

 生活指導部職員室に戻ると栗山先生が来ていた。

「戻ってきたか。事件のことで話したいので、隣の部屋に行こう」

 あまり気がすすまなかったが別に断る理由もないので、生活指導部職員室の隣の部屋の普段は特に使っていない部屋に行った。

「まあ、まず事件のあった日のことだけど、その日体育科に来たときは『自分の指導方法もあまりうまくなかったから、西田を学校に残す方向で考えて欲しい』と言ってなかったか。ところが、さっきの職員会議の最後に言っていたのは、どちらかと言えば、進路変更という処分でも構わないということだな。そこは考えが変わったのか」

「考えが変わったという言い方もできるかもしれませんが、事件の当日はまだきちんと考えることができていなかったということだと思います。そこは、自分がよくなかったと思います」

「うーん、それが正直なところなのかな。それで、本当に西田は進路変更でもいいのか。そうなったら沢田さんは、かなりいろいろと困った目に遭うかもしれないぞ。PTAが騒ぎ出すかもしれない」

「でも事件当日、栗山先生は進路変更ということを言ってましたね」

「それもそうなんだけど、いろいろ考えてみるとなかなか難しい」

「やはり、自分の今後に関することですか」

「確かにそれが大きな要素だ。自分のクラスだからいろいろ噂は聞くんだけど、沢田さんはやっぱりああいう生徒たちは苦手だろう」

「そうですね。なかなか大変です」

「経験を積むと、『こういう子はこうやって注意するといい』とかだんだんわかってくる」

「そうですか。それは雲をつかむような話です。向き不向きもあるような気がします」

「向き不向きもあるけど、わりあい経験でなんとかなるところもある」

「そうですか」

「うん。まあ、沢田さんには変わってもらわないと困るな」

「校長からも似たようなことを言われました。でも、正直、変われと言われて変われるとは思えません。自信がないのがよくないのでしょうか」

「それはでも、だれだって最初は自信がないよ」

「そうかもしれませんね。」

「それで、校長とはどんな話をした」

「やはり『自分の指導の仕方がよくなかったので事件が起きた』ということを職員会議で言うしかないという感じでした」

「そうだなー。やはりそれしかないかな。それで、問題は『どこがどうよくなかったか』というところだけど、なんか思いつくことはあるか」

「この1年半くらい教えた経験だと、確かにうまくいっていないことは確かなのですが、どこがどううまくいっていないのか。何が自分のとって重要なのか。というところがどうもよくわからない」

「それじゃ、少し質問を変えて、この学校の生徒はどんな生徒だと思う」

「どうも自分の高校時代に比べると、どうでもいいようなことを気にしますね。本当にどうでもいいようなことに傷ついたり喜んだりしているイメージがあります」

「うーん、その見方は大事だな」

「そうですか」

「まあ、それがわかっていれば、目の前の生徒をよく見て苦労しながら手探りでやっていけばなんとなくわかっていくから、悲観することはない」

 最近の栗山先生はつまらないいたずらをする人という印象だったが、こうして話してみると勉強になる。

 当たり前のことかもしれないが、自分の高校時代のことは忘れて、目の前の生徒をよく見て教えた方がいいのだろうと思った。

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