数年後……
「イチゴーさん、鉄のカードが1枚欲しいのです」
――うむむ、仕方ない。土のカード1枚と交換なら渡そう。
「イチゴーさんはけちなのです。鉄1枚くらい気前よく渡して欲しいのです」
ある日のことだ。
私たちは、『カルン島の開拓者たち』を遊んでいた。
そう、私たち、だ。
「その背中の管を引っこ抜かれたくなかったら、鉄を渡すのです」
物騒な事をいいながら私にカードを要求するのは、鼠耳の少女だ。
――やめておきなさい。漏れたマナの中毒でろくなことにならないぞ。
「ちょっと酔っぱらうだけなのです。ギギはもう大人なのです」
この勝ち気な鼠耳の少女は、名をギギという。
ギーとビビさんの子供か、孫か、ひ孫かは忘れたが、とにかく血族だ。
あのギーの種からこんなに愛らしい娘が生まれるとは思わなかったが、性格はギーに似ている。ゲームが好きだし、熱くなりやすく、無鉄砲だ。
彼女が冒険と称する迷子の旅を経て私の前に辿り着いたのは、いつのことだったか。
久しぶりの来客に気前が良くなった私は、少女をゲームに誘い、ルールを丁寧に教え、一緒に遊んだ。
もちろん、手加減はしなかった。手心を加えては相手に失礼だからだ。
ギギは負け続けて泣きながら帰ってしまったが、翌日にはまたやって来た。
「昨日は調子が悪かっただけなのです。今日はきっと昨日の分の運が回って来てるのです」
『昨日は調子が悪かっただけだぜ。へへっ。今日はきっとツキが来てるぜ』
ギーと遊んだ頃を思い出した私は懐かしさからか、しりとりに始まり、ポーカー、ボードゲームなど、あらゆるゲームの遊び方を少女に伝授した。
そしていま、ギギは恐るべき好敵手として私の前に立ちはだかっている。
「もういいのです。イチゴーさんのカードは貰わずに勝ってみせるのです」
粘り強く交渉する忍耐力、突拍子もない戦法、そしてゲームを飛び出した対価を要求する発想力。
三拍子揃った我が好敵手は、どんなゲームでも毎度なかなかに手強く、楽しませてくれる。
――望むところだ。また泣かせてやろう。
「ふん、かかってくるのです!」
そうして私とギギは、飽きることなくカードをめくり、ダイスを振り、言葉を交わした。
願わくば、このまま時が止まれば良い。
ギギと遊ぶときはいつもそう思うのだが、いかに天才魔術師ガルネクスが生み出した 魔術人形ゴーレムである私であっても、時を止める機能はない。
だから私は、この一時を存分に楽しんだ。
この試合には負けた。
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