ニ年後……
「一号よぉ、おいら、子供ができちまった」
ある日、ギーは深い苦悩を露にして私に告げた。
――そうなんだ。おめでとう。
子供。ギーの子供。
なんともめでたいではないか。
これでゲームが皆で遊べる。
「いや、うん、まぁ、ありがとよ」
だが、ギーは珍しく歯切れが悪く、微妙な顔をしていた。
「なぁ。おいら、いつか強くなって侵略者どもをぶっ倒すって主殿に言ったけどよぉ」
――なんだ? 戦うのが怖くなったか?
「怖い、かぁ。そうだなぁ。怖いなぁ」
なんということだ。
好戦的、無鉄砲、向こう見ずなギーが怖いだと。
なにか悪いものでも食べたのかもしれない。
「おいら、ビビさんと子供と一緒に暮らしたいんだ。遠くに行くわけじゃねぇ。近くの住みかだ」
――そうか……。いいんじゃないか?
「いいのか?」
――ギーがそうしたいなら、すればいい。
もともと、ギーは我が主から、後を頼むという曖昧な頼みをされていただけだ。私のように侵略者と戦う使命はない。
それに侵略者が抑えられなくなれば、近くの住みかも無事では済まないだろう。
その時にまた、戦うか逃げるかすればいい。
「……ありがとよ。一号」
ギーは礼を言うと、部屋の隅にあいた穴、おそらくはビビさんが通ってやって来た道の前まで駈けていった。
そうして振り返り、叫んだ。
「たまには遊びに来るからな! おいら、いつか家族をたくさん増やして、一号の話し相手も遊び相手にも困らないようにしてやるよ!」
穴の前にはビビさんと、子供であろう小さな鼠が待っており、3匹は仲良く穴を通って行った。
――ひとりになってしまった。
虚しく響く独り言に応える者は、いない。
我が主は長き眠りについた。友は、さきほど私を置いて行ってしまった。
私に別れを悲しむ心はあるが、涙を流す機能はない。
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