一年後……

 ギーは事ある毎に我が主の小屋からボードゲームを見つけては引っ張りだし、説明書を解読して私と遊んでいた。

 一通り遊び尽くしたら、独自のルールを提案してまた楽しむ。

 幸いにして小屋にはそこそこの数のゲームがあり、私たちの退屈を紛らわせてくれた。


「ふぁーあ。オセロも飽きたな。次は何するか……」


 ――もうオセロはしばらくやらないでいい。チェスも。


「一号はこういうパターンものを覚えるとそればっかだからな。定石に頼りすぎるとつまんねーぞ」


 ギーはいつも私の予想のつかない戦法で勝利を狙ってくる。

 対策しようにも、それを読まれてさらに負けてしまうこともある。

 手堅い戦法で勝ちを拾うことも多いのだが、どのゲームでも勝率は5分5分といったところだ。


「『メダリオン』はどうだ?」


 ――それもカードの癖を覚えた。


「『暗殺者と神』は?」 


 ――リプレイ集をなくしたのギーだろ。探してよ。


「嫌だよめんどくせぇ。あー、一周回ってしりとりでもするか?」


 ――うん。3文字しりとりにしよう。


 と、私たちが合意を得たところで、不意にキューという音が鳴った。

 私とギーは顔を見合わせる。


 ――ギー、お腹減ったの?


「お前から漏れるマナだけで腹一杯だよ。一号こそ、おならか?」


 ――失礼な。そんな機能はつけてもらってない。


「じゃあ、なんだ?」


 ――さぁ……。侵略者かな?


 私たちは再度顔を見合わせ、周囲に視線を巡らす。

 もちろんギーが見るのは動けない私の背面だ。


 我が主、異常なし。


 転移門、異常なし。


 小屋、む?


 ――ギー! 小屋の中、なんか小さいのがいた!


「でかした! なんか知らんが遊んでやるぜ!」


 ギーは鼻息荒く小屋に突っ込んでいった。

 たまには暴れるのも気晴らしになると思ったのだろう。


 だが、ギーが小屋に突入してからも、私が予想したような破壊音はいつまでたっても聞こえてこない。

 それどころが、キューキューという鳴き声のようなものと、ギーの話し声が聞こえる。


 やがて、ギーは一匹の鼠を連れて小屋から出てきた。

 同じ鼠でも、大柄な凶鼠のギーと比べると半分くらいの大きさだ。


 連れ立って歩くギーの様子はなんだかそわそわとしていて、不自然だった。


 ――ギー、その鼠は?


「ばっかお前、ただの鼠じゃなぇ! 魔鼠のビビさんだ! さんをつけろよ!」


 キュー、と鳴くビビさん。

 どうやら先程の音の主はこの鼠のようだ。


 ――魔鼠ね。ビビさんは何のご用? 一緒にしりとりする?


 ビビさんはキューと鳴くが、私には意味が分からない。

 だが鼠同士らしく、ギーには分かるようだ。


「悪いな一号。遊びはまた今度だ。なんでもビビさんの住みかの近くに危険な怪物が出たらしい」


 またキューと鳴くビビさん。肯定だろうか?


「そこでおいらの出番。ちょちょいっと倒してやるぜ!」


 善は急げとばかりに、ギーは先程と同じように鼻息荒く駈け出して行った。

 キューと鳴きながらその後を追いかけるビビさん。

 残される私。


 ――3文字しりとりは?


 私は、今日は寝るまでギーと口をきかないことに決めた。

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