第二話 能力

水色のアパートの一室の201号室。

表札に『MAMIYA』と書かれたどこにでもあるアパートだが、その黒い扉の中は普通の部屋の姿ではなかった。


まるで森の中に迷い込んだかのように草木に覆われ、鳥たちのきれいな音色があちらこちらから聞こえてくる。

けれど、現実味のない風景であった。

さらにその奥に進むと、ハーブの楽器のような形のものを長い指先で滑らかに弾く女性がいた。




木漏れ日の光が腰まである金色の髪を照らし、スッとした鼻にふっくらとした頬と唇。

白いロングワンピースが時々吹く優しい風にふわふわとなびき、誰が見ても見入ってしまうほどの美女だろう。


その傍らにいろんな動物たちが気持ちよさそうに固まって眠っていた。

シロクマや犬や猫、ウサギなど…その中心にシロクマに寄りかかって眠る葵の姿があった。

そよそよと吹く風に促されるように、閉じていた目が小さく震えゆっくりと開き、眠気眼ねむけまなこの瞳が繰り返し瞬きをする。


寄りかかっていた体を起こすと、葵が起きたことに気付いた女性が弾いていた手を止めまだ眠そうな葵を優しく見守っていた。



葵が起きると動物たちも起き始め、『おはよう』というかのように葵にすり寄り無意識に動物たちを撫でる。

眠気も少しとんだ葵は女性に目をやり、「…おはよう。センちゃん」というとセンと呼ばれた女性はおかしそうにクスクス笑い、葵は何に笑っているのか頭を傾げると、センは森の奥を指さした。


葵も指をさした方へ顔を向けると、生い茂っていた木々たちが左右に分かれ『こっちだよ』と葵の視線を向けさせるとたどり着いたのは時計だった。

時刻は8時半を指していた。



「………やばい!!」


今日は大学の授業があるのに起きる時間がギリギリになってしまい、慌ただしく準備をし始める葵を横目に、センは音楽を奏で動物たちはのんびりとしていた。

洗面台に移動して鏡を見ると寝癖を発見したが、直してる暇がないのでセミロングの髪を後ろで束ね、軽く化粧もし、またセン達がいる場所に戻る。

葵は準備をしながらセン達に言った。



「みんな、出かけるから戻って!」



そう声をかけると、部屋を覆いつくしていた木々たちや動物たちが一斉に机に置いてあった一枚のまっさらの画用紙に入っていくと、何も描かれてなかった紙に次々と絵が浮かび上がっていった。


最後にセンは準備をし終わる葵のもとに近づき、額に軽くキスをすると音を発しない口から『気を付けて』と動きで分かり



「ありがとう。またあとでね」



微笑んだ葵に軽くうなずき、紙の中へと入っていき部屋はもとの風景に戻っていた。

机に置いてある紙を見ると、森の中で動物たちがすやすや眠り傍らにセンがハーブのようなものを奏でている絵が描かれていた。



「ふふ、行ってきます」



そう言い大切にその紙を引き出しの中に閉まって、ようやく大学へと行ったのであった。


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