アライさんと

@kotachanX

お星さまをアライさんの宝物にするのだ!


 さばくちほーに雨が降るのはとっても珍しい。

 しかもこんなに激しい雨ともなると、年に一度あるかないかだ。普段は恵みの雨でもこれだけ激しい雨は砂漠に洪水を引き起こす可能性だってある。

 だからフェネックは、巣穴の中で丸まってじっとしていることにした。激しい雨音にじっと耳をそばだてながら……。


 そうしているうちにフェネックは、ウトウトとしていつの間にか眠ってしまった。数分か数十秒か、ほんのちょっとの間だったのだが、近くで何者かの気配がした気がしてフェネックは目を覚ました。

 もしやセルリアンかと思いハッと身を起こしたが、どうもフレンズのようらしい。向こうもこちらに気がついたようで、驚きすくみあがっている。雨宿りに入った穴の中に、思わぬ先客がいたので固まっているというところだろうか。


「えっとー、……キミはたぬきのフレンズ……かな?」


 フェネックが聞いてみると、固まっていたフレンズは、ぶるぶるぶるっと水滴を飛ばして口を開いた。


「ち……」

「ち……?」


「ちがうのだーぁ! アライさんは、たぬきじゃないのだー!」

「おー、アライさんのフレンズ……?」

「ちがうのだーぁ! アライさんはアライグマなのだー!」

「アライグマのアライさんかー。私はフェネックギツネのフェネックだよー」

「……雨がざーっていっぱい降ってきちゃったから、ちょっとだけ雨宿りさせてほしいのだ……」

「いいよー。砂漠にこんな雨が降るなんてすごい珍しいからねー。止むまでここにいいるといいよー」

「ありがとうなのだー」


「それにしてもアライさんは、どーしてこんなところまで来たんだい? 暑いのが得意そうなフレンズには見えないけど」

「昨日、夜中に空を見てたら、お星さまがずーっとあっちの方に落っこちるのを見たのだ! お星さまはすっごいキラキラだから、近くで見たらきっとものすごーくきれーなのだ!! だからアライさんは落っこちたお星さまを見に行くのだ!」 

「それって、サンドスターが落ちたとかじゃないのかい?」

「違うのだ。噴火じゃなくってお空の星がぴゅーって落ちてったのだ!」

「へー、じゃあアライさんは落っこちた星を探しにここまで来たんだ」

「そーなのだ! 見つけたらアライさんの宝物にするのだ」

「すごいねー、アライさん。まー、がんばってねー」


 ふあーっとあくびをして、フェネックは巣穴の端っこで丸くなった。お空の星がどこに落ちようと特に興味はなかった。どっちかというとこの激しい雨がいつまで続くかのほうが心配だ。


「アライさんもたくさん歩いたから、眠くなってきたのだぁ」


 まるでここが自分の巣穴とでも言わんばかりにど真ん中で大の字になる。なかなかに太い神経の持ち主のようだ。


「まー、いっか」



 ガガーン!! と大きな音がしてフェネックは目が覚めた。近くに雷が落ちたらしい。砂漠でも雨雲が発生すれば雷が落ちるのだ。

今のは大きかったなぁとふと隣を見るとアライさんが震えながらお尻に抱きついてきていた。


「ふわわわわわ、か、雷さまが怒ってるのだぁ~」

「大丈夫だよー、アライさーん。この穴の中までは雷さまもこないよー」

「ほ、ほんとーかフェネックぅ。おへそ、取られないか?」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ」


 ガーン!! とまた近くに落ちる音が聞こえた。


「わわわわ、こ、こわいのだぁ」

「だいじょーぶだってー」


 あんまりにもアライさんが震えるので、しょうがないからフェネックはアライさんを抱いて一緒に丸まって眠ることにした。

 そしたらアライさんもなんだか安心したのか、すぐにスゥスゥ寝息が聞こえてきた。

 

 翌朝、昨日の激しい雷雨が嘘のように空は晴れ渡っていた。


「フェネックー、見るのだ! 昨日はなかったのに、朝になったらさばくに道ができてるのだ!」

「それは昨日の雷が落ちたあとだよ。アライさーん」

「キラキラの変な形の石もいっぱい落ちてるのだー!」

「雷さまが落ちると砂漠の砂が溶けて固まるのさー」

「すごいのだ! フェネックはなんでも知ってるのだ!!」

「前に一回だけ砂漠に雷さまが落ちたことがあったからねぇ。さて、アライさんはこれからどうするんだい?」

「お星さまはあっちに落っこちてったのだ、だからあっちへ行ってみるのだ」

「じゃんぐるちほーのほうだねー」

「いろいろと世話になったのだ、フェネック! さらばなのだ!」

「真昼の砂漠はとっても暑くなるから気をつけてねー。アライさーん」

「わかったのだー! ありがとうなのだー!」


 アライさんは右手を突き出して、「行ってくるのだー!」と叫ぶと、すごい勢いで雷でできた道を走り去っていった。


「だいじょーぶかなー」


 でもフェネックはそれからすぐにアライさんと再会することになった。


「あ、暑いのだぁ」


 ジャパリまんをもらいに行く途中で、倒れてるアライさんを見つけたからだ。


「だいじょーぶじゃなかったかー」


 フェネックは倒れたアライさんに、辺りで見つけてきたサボテンを食べさせてあげた。


「ちゃんと水分取らないとダメだよアライさーん」

「ありがとうなのだ!! またまたフェネックの世話になってしまったのだ」

「困ったときはお互い様だよー。それにしてもアライさんは元気だねえ」

 お空の星には興味はないけれども、アライさんには興味が出てきた。


「なんだか面白そうだから、私もアライさんについて行っていいかなー?」



 アライさんはフェネックの期待を裏切らなかった。

 じゃんぐるちほーではツタに絡まったり、底なしの沼にハマったり。

 さばんなちほーでは、トラのフレンズのしっぽを踏んで追い掛け回されたり。

 どこへ行ってもドッタンバッタン大騒ぎで、退屈するヒマがない。


「アライさんは見てて飽きないねー」

「見てないで助けてほしいのだー!」


 そんなこんながありながら、何があってもズンズンと進むアライさんと、落ちた星を探しながら色んな場所を冒険しているうちに、ついに島の果て、日の出港へと辿り着いた。


「おかしいのだ。お星さま、どこにも落ちてなかったのだ……」

「うーん、もしかしたら、もっとず~っと遠くに落ちたのかもしれないねー」

「遠くってどのへんなのだ?」

「この海の向こうのず~っと向こうかもしれないねー」

「アライさんはそんなに遠くまで泳げないのだ……」


「諦めるかいアライさん?」


 フェネックはアライさんに聞いてみた。


「諦めないのだ! きっといつか海の向こうに行く方法を見つけるのだ! そしてお星さまが落ちてる場所を見つけるのだ!」


 思った通りの答えが帰ってきたのでフェネックは嬉しくなった。そう、アライさんはこれぐらいじゃあめげないのだ。


「海の向こうに行く方法かー。あるといいねぇアライさん」

「きっとあるのだ! その時はフェネックもアライさんと一緒に海の向こうに行くのだ!」

「いつか一緒に行けたらいいねー」


 ――アライさんとフェネックが、キョウシュウチホーを飛び出すのは、もう少し先のお話……。

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