ジャパリ図書館にようこそ
みなかみしょう
第1話~ようこそ、かばんちゃん~
ジャパリ図書館。アフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手が住まう、ジャパリパークにおける知識の宝庫である。
相談事を持ったフレンズ達が図書館を訪れ、博士達から知恵を授けられる、そんな場所だ。
その日の来客は、サーバルキャットのフレンズとヒトのフレンズのかばんであった。
二人は少し変わり種で博士達に質問せずに自分達で図書館内の書物を漁っていた。主にかばんが。
かばんが資料を検索する中、暇を持て余したサーバルがこんなことを言った。
「そういえばさ、かばんちゃんと博士達ってどっちが賢いのかな?」
非常に危険な発言である。その証拠に、博士と助手は険しい顔で固まって動かない。
「…………」
「え? サーバルちゃん、突然何を言い出すの?」
焦った様子のかばんに対して、サーバルは素朴な疑問といった様子で話をする。彼女に悪気はないのだ。
「だってさ、ヒトってパークの色んな施設を作っちゃうくらい賢いんでしょ? だったら、かばんちゃんもすっごく賢いってことで、博士達よりすっごいんじゃないかなって……」
「そ、そんなことないよ。そもそも凄いのはパークを作った人達でボクは……」
サーバルの発言に面倒の予感を感じるかばん。しかし、遅かった。
プレッシャーを感じて背後を振り返ると、博士達がこちらを睨んでいた。
「……なかなか面白いことを言いますね」
「面白い、受けて立つので勝負するです」
「吠え面かかせてやるのです」
「ああっ。なんか怒ってる!」
サーバルの発言はジャパリパークの賢者たる二人のプライドをいたく刺激したらしく、とても怒っていた。
大変なことになってしまった。ヒトの知能で素早くその事実を察知するかばん。対してサーバルはいつも通り楽しそうだ。
「勝負! いいね! それで、なんの勝負をするの!」
「そうですね……空を飛ぶ速さで対決とか?」
「名案です。それで勝負しましょう」
博士達は意外と姑息だった。
しかし、それはかばんにとって好都合だ。
「あ、あの。ボク、飛べませんから負けということで……」
「ずるいよ! それじゃあ、かばんちゃん絶対勝てないじゃん!」
サーバルは心が真っ直ぐであった。この場合、それが面倒な方向に作用しているのが問題だが。
「我々は賢いので勝てる戦いをするのです」
「負けない勝負をするのです、賢いので」
「えー! ちゃんとかばんちゃんと賢さを比べられる勝負をしてよー! それともやっぱり、かばんちゃんの方が賢いのかなー?」
無意識に挑発したサーバルの発言は、博士と助手のプライドを更に刺激した。
「……いいでしょう。勝負です。リバーシを持ってくるです」
「わかりました。思い知らせるです」
少しすると、助手が小さな箱を持ってきた。
箱の中には板と、表と裏が白黒二色になっている丸い石が入っていた。
自分の色の石で相手の石を挟んで陣地を取り合う、例のゲームである。
博士達は手早くかばんにゲームのルールを説明する。
「以上が、このゲームの説明です」
「ふーん。自分の色で挟めばいいんだ。わたしでもできそー」
「これはヒトの考えたゲームで、簡単ですが奥深いのです」
「賢さを計るにはちょうど良いのです。勝負です、かばん」
「わ、わかりました。でもあの、ボクは賢さとか別にこだわっては……」
「勝負です」
有無を言わせない様子だったので、かばんは大人しく勝負することにした。
一戦目は博士達の勝ちであった。いくらヒトのフレンズといえど、経験者に勝てなかったのだ。
「やっぱり負けちゃいましたー」
「ふふふ、我々の勝利です」
「当然です。我々は賢いので」
負けを認めて一安心のかばん。
勝利でドヤ顔の博士達。
これで一件落着、そう思った時に、サーバルが言った。
「かばんちゃん、もう一回やろ! 見てて面白かった! もっと見たい!」
「え、でも……」
「いいですよ。何でも受けて立ちます」
「結果は変わりませんです」
困ったことに、二戦目は、かばんが勝利してしまった。
「すごーい! かばんちゃん、博士達に勝っちゃった! どうやったの?」
「えっと、隅っこを取るといいんじゃないかなって思って……」
「最初の一回でそこを見抜いたですか……」
「流石はヒトです……」
恐縮しながら言うかばんと驚く博士達。
「……もう一回やるのです。今のは練習です。手加減してたのです」
物凄い顔で睨んでくる博士達を見て、かばんはうっかり勝ってしまったことを後悔した。ここは2回連続で負けておくべきだったのだ。
「え、ボクはもう……。それに調べ物が……」
「いいから勝負です」
三戦目は、少し時間がかかったが博士達が勝利した。
冷や汗をかきながらほっと胸をなでおろすかばん。実はちょっと手加減したのだが、バレていないはずだ。
「や、やっぱり博士達は凄いです。負けちゃいましたー」
「当然です。さっきは油断しただけなのです」
「我々の勝利です」
再びドヤ顔を取り戻した博士達。これで調べ物に戻れる、そう思ったかばんを再び邪魔したのは、天真爛漫な様子で疑問を口にするサーバルであった。
「ねぇねぇ、思ったんだけど、博士達は二人で、かばんちゃんは一人で考えてるのって、ずるくないの? それともこれってそういうゲームなの?」
「サ、サーバルちゃん……」
サーバルに悪気はない、しかし、何故こうも的確に相手を挑発できるのか。生きた心地がしなかった。
ふと気づくと無言の博士達がこちらを見ていた。
「いいでしょう。我々が一人ずつでも十分賢いことを教えてやるのです」
「こうなったら、サーバルが満足するまで勝負です」
「ちょ……」
その後、かばんちゃんは日が暮れるまでリバーシ対決をさせられた挙句、夕飯まで作らされた。
ジャパリ図書館にようこそ みなかみしょう @shou_minakami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます