第27話 二人で訪れる遊園地

六月頭、昨夜の演奏会で見て聴いた感覚が覚めやらぬまま今日は今日とて一大イベントがある。それは十五歳の少女にとって一大決心を秘めた勝負の日


時間は朝七時、少女はまだ夢の中




「空兄ちゃん...あのね。伝えたい事があるの」




夕陽に染まるテーマパークが一望出来る観覧車の中、向かい合った二人、二人きりの空間




「何?どうしたの凛ちゃん。」





「私...ずっと、ずっと何年も前から空兄ちゃんの事が」





凛がそこまで紡いで空は向かいの席から隣に移動して、細い人差し指を唇に重ねた。観覧車は頂点へ到達、最高のムードが漂う




「待って、そこからは僕にも言わせて...凛ちゃん。いや凛、出逢った時から僕は凛の事が...」




「えっ、嘘でしょ...嬉しい、本当に凄く嬉しい」




「凛...朝ごはんだよ?早く食べて準備しなきゃマズイんじゃないのか?」




「?」




次第に景色が歪みロマンチックな空間から現実の時間へと引き戻される。




「あぁ、まだ最後の一言聴けてないのにぃ...」





目を開けば天井が視界に入り、陸人が立っている。兄は欠伸をしながら再度言う




「早く起きろ凛〜、朝ごはん冷めちまうぞ、遅刻しちまうぞー」




ガバッと起き上がり、眠気まなこを擦りながら兄を睨みつける。良い夢見てたのに最悪なタイミングで邪魔しよってからに




「な、なんだよ」




「別に、何でもない...」




そのまま階段を降りて朝ごはんをいただく



灯里がバッチリ朝食を作って待っていた。...いつもより朝が豪華だ、と言うか朝からボリュームが凄い




「凛おはよ、これしっかり食べて今日は決めてきちゃいなさい」




「おはよう、...お母さん私こんなに朝から食べられないよ」




「エネルギー取り込んでおかないと、大事な場面でガス欠状態になるかもよ?きっちり食べときな」




「わかったけど食べ過ぎても、嫌だから程々に食べる!」




待ち合わせてお腹が出てる姿を他ならぬ空には見せたくない、椅子に座って朝食に手を伸ばす。



点いていたテレビで天気予報がやっている。日曜は終日晴れらしい、天気は少女に味方している様だ



チャンネルを他のに回すと占いがやっている。誕生月占いの模様




「八月生まれのあなたは、今日は外出してみよう!意中のあの人と行動すれば幸せを呼び込む事が出来るかも!?」




占いまでもが、少女に味方している。

合わせて空の誕生月も見てみよう




「十二月生まれのあなたは、思わぬ発見があるプラスで刺激的な一日になるかも、家の中からどこかに出かけてみよう!」




そちらの占いも良好、これは期待が高鳴る。...普段はこういった類は信じないが



「よし!」



程々に食べ進め気合いを入れる。




「やる気満々だな凛。頑張って来いよ!」




「ありがとう!お兄ちゃん。私頑張る。お母さんとお兄ちゃんが手伝ってくれたチャンス絶対に掴むよ!!」




「その意気、アンタは私の娘なんだし相手は空なんだから大丈夫、自信持ちな」




黙って強く頷き席を立つ



「じゃあ準備して私行くね!」



気合いを入れ自室に戻り、服選びや髪型を整える。服はいつもより大人びた感じでコーディネート、淡い黄色のブラウスにブラウンのスカートを履いて準備万端


入念にチケットが鞄に入っているのを確認し、少女は待ち合わせ場所に向かう




八時十分。天川出駅


待ち合わせ時間は駅に八時半だが、早く着き過ぎた。鞄に忍ばせた手鏡で髪をチェックしリップクリームを塗る。


準備OK、胸のドキドキが止まらない、早く来て欲しい反面来たら緊張してしまう。


昔は二人でいてもこんな事なかった、あるきっかけから意識する様になり、自分の正直な気持ちに気づきだして全てに反応してしまう



それから五分もしない内に見覚えのある姿が視界に入る。優しくて一緒にいると安心感があって大好きな青街空だ




「凛ちゃんおはよう、待たせちゃってごめん...」




こちらが予定より早く到着してしまっただけで、遅刻でも時刻ギリギリでも無いのに申し訳なさそうな顔をする私の大好きな人




知れば知るほど、どんどん好きになっていく。ありったけの笑顔で駆け寄る。



「おはよう!ううん。私もちょうど今来たところだよ!今日はありがとう空兄ちゃん。」




「そっか、それなら良かった。じゃあ行こっか?」




「うん。あっ、案内は任せて!」




改札を通り到着した電車に乗り込む。




「ドリーミンランドまでは天川出駅から四十分くらいで到着するみたいなんだけど、空兄ちゃん。乗ってみたいアトラクションとかある?」



「そうだね...あれがちょっと怖いけど気になるかな、ジェットコースターで有名な奴」



「園内にいくつか絶叫系あるけど、有名なのだとライズライズコースターかな?」




「そう、それそれ!ホームページでも目立つ載り方してたから気になってさ、凛ちゃんは乗りたいのある?」




「私はスクリームマンションとブレイヴアドベンチャーに乗りたい!」




「じゃあまずその二つから行こうか、乗れなかったら残念だしね。...その前に絶叫マシンとか確か大丈夫だったよね?今も平気?」



前にも小さい時、小学生の頃に別の遊園地に行く機会があった...その時は陸人もいたし保護者として灯里も付き合っていたのだ



子供の時に経験した乗り物は今も大丈夫なのだろうか、正直違う意味でドキドキしてしまいそうな気がして



それが怖くてなのかどうかは乗ってみるまでわからないと言うもの



「...あっ、うん!多分平気だと思う、何年か前は大丈夫だったし、もし駄目そうだったらしがみついちゃうかもだけど、いいかな?」



身長差もあって上目遣いになる。空は問いを聴いて



「それは全然構わないよ、それに関して言えば僕も本当に平気かわかんないし」




微笑みながら、返答する。

程なくして電車に揺られながら目的地ドリーミンランド最寄りの夢場駅に到着だ




「やっぱり沢山の人がここで、降りるんだね〜。」



空が辺りを見回しながら漏らす。




「大人気だから、ドリーミンランド!今はまだ時期としては空いてる方みたい」




階段を降り改札を通り抜け、目の前に広がる景色はファンタジー色



「うわぁ!すっごーい、空兄ちゃん見てみて!入り口から凄い派手だよ!!」




「煌びやかだなぁ、駅降りてすぐに入園出来るんだね〜。凛ちゃん。ここからでも中のアトラクションが見えるよ?」




「わぁ本当だ!!凄い凄い、あれライズライズコースターだよね?早く乗りたい!」




持参したチケットを引き換え、園内へとずんずん進んで行く。まず最初に向かったのは入り口から近くにある目的の一つブレイヴアドベンチャー



最新技術の仮想現実、VRバーチャルリアリティを活用した新感覚のアトラクションになっていて、このアトラクションが凄いところは、十人に満たない集団が纏めて大きなカプセルの中に入り、機材を装着する事なくそのまま最新技術を体感出来る点だ。



もちろん体感はVR技術だけに留まらず、振動や匂い、触感まで拘られていて実際に冒険している様な体感が話題を呼んでいた



乗り込んだ者たちは探検者となり、舞台となる場所の謎やお宝に迫って行く構成になっている。一回に何人も収容するので、回転率が早い



凛と空はアトラクション待機列に並びながら、楽しみを膨らませる。




「仮想現実って言葉は知ってたけど、実際に経験するの初めてだからワクワクする!」




「一体どんな感じなんだろうね。映像が実際の視界から見えてるのに限りなく近いって事かな?」




「全然想像出来ない、きっと未知の不思議な感覚なんだろうなぁ」




「ふふふ、楽しみだね。意外と早く乗れそうだし」




「まだ開園して間もないから、お昼とかは行列凄そう...」




並びながら絶え間なく会話を続ける。最高に楽しい会話時間はあっという間に経過しいよいよ搭乗だ



係員に促されカプセルの中へ

中は暗く視界一面の天井も足元も壁も全てが液晶パネルで、定員の搭乗が終わるとドアが閉まり、備え付けられた椅子に座る様アナウンスが流れる。



二人は椅子に腰掛けワクワクしながら、発進を待つ、するとすぐに自分視点で目を覚ましたかの様な映像が流れ起き上がる。


カプセル全体を使った三百六十度全方位目に入るのは一人称視点でのジャングル奥地


まるで本当にその場にいるかの様なリアルさを搭乗した全員が肌で感じていた。


起き上がると、すぐさま仲間らしき女性が駆け寄ってきて言葉をかけてくる。このアトラクションにおけるガイドみたいな物だろう。



「良かった、気がついたのね。あなたここへ来る途中いきなり倒れたのよ、まだ目的地に到着していないのに、もうどうしようって感じだったのだけど...その様子だと問題なく動けそうね。立てる?目的を達成しに行きましょう」




中々どうして自然な展開に感心する。あと何より音は大人の女性だが、口調がちょっと八雲に似ていた



そのまま立ち上がり、女性の後をついて行く、野鳥の囀りや風や音、歩く振動までも伝わってくる。一つ一つに違和感が無いのが素晴らしい




「漸く入り口に着いたわね。ここからは何が起こるかわからないから心して慎重に行動するのよ」




そうこちらに警告すると遺跡らしき建物に入って行く。肩にとり付けた懐中電灯を点灯し奥へ奥へと...



先に進んで行く、徐々に道幅が狭くなって行き不穏な予感がする。



突如、何かが作動する音と前方から大きな

岩が転がってくる。



「!?あなた、何か作動させたわね!くっとにかく一度走るわよ!」



振り返り全力で来た道を戻る。転がる岩から逃れる為に死にものぐるい



間一髪のところで外に出て、岩の軌道外に逃げ無事避ける事に成功



「はぁはぁ、危なかったわね。迂闊に作動させないで、これじゃ命がいくつあっても足りないわ」



再び中へと進んで行く、先程の場所は慎重に確認しながら通過、そのまま奥に進むと行き止まりになってしまった。




「行き止まりね。...もしかしたら何か、隠し扉があるかもしれない、調べてみましょう」



一人称視点で周辺を見回すと何やら他の壁とは色が微妙に違う箇所を発見する。



先程やってしまった事もあり視線を一度女に向ける。女は反応しこちらに駆け寄りながら



「何か見つけたのかしら?...これは他と違うわね。何が起こるかわからないけど、試しに押してみましょう、周辺に意識を向けながら」




一呼吸置いて、同時にゆっくりと押し込む




押した瞬間壁だと思われていた場所が動き出し開閉したのだった、しかも二箇所、彼女らの目の前に広がる光景は歓喜も出来尚且つ落胆も伴った。




「開いたわね。...けどこれは」




ひらけた視界に飛び込んだ金銀色鮮やかな財宝、これぞ探して求めていた宝



だがその喜びは手前に見える奈落の底へと繋がった穴が全てかき消した。



渡る方法が無ければ為すすべはない



「ここまで来て...悔しいわね。何か、何か方法はないのかしら、手分けして探しましょう」



部屋の辺りを調べる女、それならばもう一つの部屋を見てみよう、開閉したもう一つに何か仕掛けがあるかもしれない



そちらに入るとすぐ目に入ったのは使い古されたロープだ。そして血の文字でこう書いてあった



示せ、己が持ちうる全ての勇気を



そして部屋奥にはさっきの部屋と同様に穴が空いていて、その奥に台座があり、お誂え向けにボタンらしき物が見える。穴を覗くと針の山に乾いた血がこびりついている。


天井にはロープを引っ掛けるバーが付いていて、しかしよく見ると非常に心許ない気が、主に強度面で



何度も確認し、意を決してロープを投げ引っかける。引っ張りながら、呼吸を整え勢いよく走る。穴に差し掛かった所でロープにしがみつき、向かい側にダイブ



バーが加重の嫌な音を立てながら、なんとか渡りきる。安堵しつつ立ち上がり台座のボタンに触れた




凄まじい音と共に通路が現れ、違う部屋にいた女もこちらに来た。驚きながらも嬉しそうだった



「あなた、いったい何をしたの!?突然音がしたと思ったら急に足場が出来て、...とにかくこっちに来て、いよいよ待望の瞬間よ」




移動し出現した足場を歩く、目の前には煌めき輝く金銀財宝がザックザック



それをどんどん袋に詰めてく、ここである程度回収した時に地響きが鳴る。




「!?これは、何の音かしら...とても嫌な予感しかしないのだけど...」




財宝をある程度入れ、底が見えた時だった。そこには何かが書かれている。隠れた部分を手で退けながら見てみると




おめでとう、君はまことの勇気を持つ者のようだ...だが最後に、もう一つだけ示してもらおう、生きて帰る為に...




「これは...急いで脱出した方が良さそうね。」




地響きが増す中、手にした袋を担ぎ来た道をひたすら走る。全力で走る。



壁や通路がどんどん崩れ落ち、逃げ遅れれば生き埋めになるだろう



走る。走る。出口に向かって体勢を崩しながら走る。光差す方へと持てる力全て使って



そして...脱出、瞬間遺跡は完全に崩れ



もう二度と入ることは出来なくなる。

女が息を整えながら声をかけてきた



「ハァハァ、何とか逃げ切れたわね。あなたには感謝を言わなければならない、一緒で良かった。目的は達成されたわ」



握手を求められる。その差し出された手を握り映像は終了した。

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