第22話 好意の行方、結ぶ約束
五人の嬉々とした土曜日が終わり日曜日、今日は昨日と同じで学校は休み
だが部活の練習はどこもある様で例に漏れず天川出バスケ部も本日体育館にて絶賛練習中、大原宅では大原灯里と大原凛がリビングでテレビを見ている。暫くして時計を確認した凛が立ち上がった、
「お昼ご飯。お母さんペペロンチーノで大丈夫?」
「もう十二時か、ありがと凛。冷蔵庫に昨日のスープが残ってるから、...あとは何か野菜系お願い」
「うん。分かった、じゃあサラダでも作るよ」
慣れた手付きで、下ごしらえ等の準備をしていく。麺を茹でている間にサラダを仕上げ、昨日のスープを電子レンジで温める。
まな板の上で素早くニンニクを刻み、弱火のフライパンにオリーブ油を垂らし刻んだニンニクを投入、香ばしい香りが広がりだしたら鷹の爪を追加しフライパンを傾け馴染ませる。
そこに茹で上がる一分前のパスタを鍋からすくってフライパンへ、弱火から強火に切り替えて絡めていく、事前に用意していた皿に盛り付け黒胡椒をふりかけて、空になったフライパンに流れる様に生卵を二つ割り入れ火が入った半熟の卵をペペロンチーノに乗せる。
「ん〜良い香り」
テレビを見ていた灯里が反応する。
完成した料理をテーブルに運んでいく凛
「お母さんお待たせ、はいフォーク」
半熟卵のペペロンチーノ、コンソメスープ、サラダと並べられていく
イタリアンの店でランチセットとして出て来そうなラインナップだ。
「ありがと凛。なんか最近更に料理の腕上がったんじゃない?」
「ってまだ食べてないのに何でわかるの」
「見りゃわかるわよ、そーいえば確かあんた料理研究会に入ってたんだよね?」
「うん。そうだよ、それより見た目じゃ味はわからないじゃん」
椅子に座った灯里はフォークでペペロンチーノを一本口に運ぶ
「ほら美味しい、やっぱり見た目から美味しいかわかるよ、けど凛。料理上手くなったのって料理研究会のおかげだけじゃないでしょ?」
核心を突いた唐突の指摘に椅子に座りながら同様する中学三年生
「えっ、料理研で色々な料理勉強したからだよお母さん...あっほら、入ってから二年以上経つ訳だし成果が出て来たんだよきっと!」
咄嗟に取り繕う、嫌な汗が額に滲む
「ふーん。そっか、二年いたらこれだけ変わるのかぁ、中学入りたての頃は卵すら上手く割れなかったのにぇ」
物思いに耽る灯里、凛が必死に合いの手を入れる。
「卵上手く割れる様になったでしょ私、ねっ二年も勉強すれば人は成長するんだよ〜」
上手く焦点を逸らそうと思案しながら話す。だが、そこを母灯里は見逃さなかった。
「あの時って、確か空が出汁巻卵美味しいって言ってて、それ見て作りたいって言ったんだったけ?」
「...うっ、ち違うよお母さん。私が出汁巻卵好きで自分が食べたいから作りたいって言ったんだよ!?」
口にサラダを運びながら灯里がとぼける。
「あれ〜そうだったっけ〜、おかしいなぁ私の記憶違いだったのかー」
酷い棒読みである。
どんどん頬が紅潮する凛。恥ずかしそうな表情に追撃の言葉がやってくる。
「それで...最近どうなのよ、少しは進展したの、昨日もそうだし泊まりに行ったりしてるんでしょ?」
「なっ、何のことかなぁ?私には全然わからないよ」
「その様子じゃ特に何もなさそうね。あんた頑張んないと、知らない間に席埋まっちゃうわよ?」
席が埋まると言う言葉に反応した、
「そっそんな事ないもん!!空兄ちゃんに限って、そんなの有り得ないよ!」
つい言葉と同時に立ち上がってしまった。言い終わった瞬間、口を押さえ表情を隠す。
溜息交じりながらコップの緑茶を飲み言葉を漏らす。
「...あんたねぇ、好きになって何年になるの、親公認パターンなんだからもっとアプローチしてアピールしなきゃでしょ」
「...私だって色々頑張ってるよ」
「でも気付いてもらえてないんでしょ?なら気付くまでもっと強く押さなきゃ」
「かっ、簡単に言わないでよぉ...って言うかそもそもお母さんには関係無いじゃん!」
「大いにあるよ、あの子は私にとって三人目の子供ってぐらい見て来たんだから」
「なら私より一人目であるお兄ちゃんの心配すればいいじゃん!もう高三なんだよ!?」
「陸人は部活に夢中で、そんな状態じゃないでしょ、それにあの子は意外と交友関係広いからタイミング来たら勝手に進展してると思う」
「何それ、それじゃ私が交友浅いって事」
「学校で異性の友達何人いる?」
「.....一人だけど」
「クラスメート?いや多分料理研の子でしょ、しかも下級生」
「うぐっ、何でそこまで分かったの」
「あんたの性格的にね。凛は同性の友達は多いと思うけど異性はからっきし、陸人はああ見えてどっちも友達多いから」
推理は的を得ていた、陸人は部活でもクラスでも、誰とでも分け隔てなく良く喋るタイプ。凛は仲良くなった子とは喋るが、自分から交友を築いていくタイプではない
「だからおそらく似てる傾向な空とは相性良いと思うんだ、これ渡しとくからほんと頑張んな」
母が鞄から取り出したのは遊園地のフリーペアチケット、仕事先の飲み会で上司から無理矢理渡されたらしい
「お母さん...ありがと、私頑張るよ!」
愛娘の髪をわしゃわしゃと撫でる。
「あんたなら大丈夫、なんせあたしの子なんだから」
同時刻、田島家
こちらも昼食時、ハムチーズトーストとインスタントのコーンスープ、そして手軽グラタン。
冷凍ほうれん草にパスタソースをかけてチーズで覆った具材をオーブントースターで加熱、簡単だが見た目や味は中々
テーブルに並べられた料理を挟んで向かい合い座る空と奏、昨日の夜食べたディナーのボリュームが凄かった為、今日は昼が一食目
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせてからフォークで食べすすめていく、一口食べて奏が思わず喋る。
「美味しい!!空くんこのグラタンってトマトソース?」
「そうだよ、前に登校する時トマトの話したから、良く作る簡単で美味しいレシピ試してみたんだ。」
「そうだったんだね。グラタンって一見作るの難しそうに感じるんだけど、こんなに美味しく出来るなんて凄い!」
「喜んでもらえて良かったよ、あっそうだ奏さんがその時言ってた甘くない卵焼き、夜ご飯の時作ってみるね!味付けの好み合えば良いんだけど...」
「えっほんと!?ありがとう、大好きだから楽しみになったよ〜、けど毎回作らせちゃってごめんね。」
「ううん全然、それに奏さん毎回手伝ってくれてるし昨日夜だってご馳走になってるんだから気にしないでよ、むしろ美味しいって言ってくれてほんと嬉しいし楽しいから!」
「だってそれは嘘なしで美味しいんだもん。私びっくりしてるんだ、空くん同じくらいの年で、ここまで料理出来るなんて...」
「そんな事ないよ、料理は毎日作ってたら自然と上手になってくものだと思うし」
「ほんと?私料理とかあんまりしないから...」
「なら、今度一緒に作ろうよ、それで皆んなに食べて貰ったりして、調理サポートするからさ」
「やってみたいかも、ありがとう空くん」
微笑む空、食べ終わって立ち上がり食器を流しに置いて洗濯機の電源を入れる。洗剤を入れスタートボタンを押しながら奏に問いかけた
「奏さん。洗濯物あったら今から洗うから中に入れてね。」
「うん。わかった、ネット借りるね。」
奏は二階へ上がり着て畳んであった服を持ち下着をネットに入れて、階段を降りる。そしてそれらを洗濯機の中へ
食べ終わった皿を洗っていた空のスマホに新着メッセージ、送り主は叔父の田島清一郎
[空、仕事なんだが予定より早く終わるみたいでな、明日の夜帰れる事になった。だから前話してた雨霧んとこの娘さんに、そう伝えといてくれ、話早く聞きたいんなら予定空いてたら明日来なさいって]
[わかったよ、清一叔父さん明日夜御飯食べないで帰ってくる?一応用意しておくね。]
[多分食わないで帰る。悪りぃな、それと例の子と上手くいってるか?心配はあんましてないが、くれぐれも年相応の距離感で頼むぞ]
[安心してよ叔父さん。こっちは大丈夫だよ、それよりお仕事大変だと思うけど頑張ってね。]
スマホを置き再び皿を洗う、左手で食べ終わった食器を持って来た奏に空が伝える。
「今連絡来たんだけど清一叔父さん予定より早く明日帰れる様になったんだって」
「そうなんだ...じゃあ明日夜ちゃんとお礼言わなきゃ、そして帰らなきゃ」
「奏さん。無理しないで、遠慮しなくていいんだから辛いんだったら全然うちにいてよ、清一叔父さんも許可してくれると思うし」
「空くん...わかった、ご厚意に甘える事になって申し訳ないけどお願いします。」
「任せて、こっちも奏さんがいてくれて助かってるんだからお互い様なんだし」
皿を洗い終え、スマホを取る。メッセージを送る相手は雨霧八雲
単刀直入に叔父が明日帰って来る旨を伝えた、それを自室で確認した八雲は言葉を漏らす。
「...いよいよ全てを聞けるのね。私が知りたかった全てを」
短く了解夜に伺う、ありがとうと返し、ピアノの練習をする為部屋を後にする。残された部屋には写真が置いてある。
そこには若き雨霧音也と田島清一郎が肩を組みその横で、幼き八雲と空が写っていたのだった
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