第21話 写真と呼称の意味


人は本当に美味しい物を食べた時、思わず表情が緩むもので斑鳩の和菓子はそのレベルの確かな味わい、最初に口を開いたのは雨霧八雲だった。





「...驚いたわ、和菓子でこんなにも美味しいなんて」




目を見開き、片手を口に当て呟く、そこに陸人が口に運んだ団子を飲み込みながら




「ここのは本当美味い、しかもハズレが無くて天川出周辺じゃ和菓子ナンバーワンだと個人的に思ってる。あむっ」




串に刺さったみたらし団子が次々と陸人の胃袋へと入っていく、八雲も水羊羹をどんどん食べ進める。甘さが絶妙で、一緒に提供されたあったかいお茶との相性はベストマッチ




饅頭を少し頬張りながら凛は得意気に語る。




「実はお店あるの最初に発見して入ろって言ったの私なんです。お兄ちゃんは洋菓子が良いって言ってお母さんは甘いの苦手だから険しい顔してたけど、押し通して三人で食べて、そしたらお母さん美味しいって物凄く驚いたんです。どんどんお饅頭食べ進めてあっという間に完食、」



きなこもちを美味しそうに食べながら奏が反応する。



「凛ちゃん。こんなに美味しかったら嫌いでもついつい食べちゃうのわかるよ、だって甘さのバランスもそうだし見た目も凄く美味しそうに見えるもん!はむっ」



左手で口に運んだ後、そのまま左手でほっぺを摩る。同様に食べていた三色団子の串を皿に置き空が発した



「そういえば、確かこの前テレビで放送されてたの見た気がする。人気の和菓子特集みたいなので、大々的に宣伝されるくらい味も場所も良くて凄いよね。」




「テレビでやってたんだ、空兄ちゃん実際に店で食べたの初めてだもんね。」




「うん。前にりっくんにお土産でかりんとう饅頭貰って、叔父さんと二人で食べたんだけどその時も美味しくて清一叔父さん驚いてた、この店はどこにあるんだって」




「あったな〜、半年くらい前だっけか?」




「それくらいだったと思うよ」




「時間経つの早いよなぁ、前まで新入生だった気分なのに気づいたらもう三年であっちゅー間に卒業の年だもんなぁ」




「卒業...そういえばりっくんは卒業した後はどうするかとか決まってるの?」




「いや未だに絶賛悩み中」




「そっか、まだ春だし割と皆んなそうなのかもね。」




「どーだろな、とりあえず来年は凛が新入生になるから母さんも進学どこにするかで色々調べてたみたいだけど」




「うん。お母さんに聞かれたよ、凛はお兄ちゃんと同じ学校で大丈夫?それとも他の行きたい学校ある?って」




「どう返答したの凛さん。」




「天川出が良いって答えました、やっぱり家からも近いし、それに制服が可愛いから」




「なら凛は俺たちの後輩になる訳だ、受験大変だろうけど頑張れよ我が妹よ」




不敵な笑みを浮かべながら煽る。




「私お兄ちゃんよりは勉強出来るから大丈夫だよ、安心して先輩」




そこに皮肉で返す。そのやり取りの横で奏が呟く




「この先どうするか、今はまだ私も決まってないなぁ」



よもぎ餅を半分取り分けながら八雲が返す。



「焦らず奏がどうしたいか、ゆっくり探していけばきっと見つかるわよ」




「ありがとう八雲ちゃん。まだ時期じゃないと思うけど八雲ちゃんはやっぱり音大とか考えてるの?」




「私は...そうね。どうかしら、音大なのかそれとも卒業後から演奏技術が認められれば或いはって感じ」




「そっか、青街くんは考えてたりする?」




「僕もはっきりとは纏まってないかな、まだ色々模索してる感じで」




「高二の春じゃ、俺も同じだったし普通そーだよな」




それぞれが未来について考えを巡らせる中、凛が閃いた様に声を出す。




「それじゃ皆さん。提案なんですけど、今を保存しませんか?」




言い回し方が妙で、理解しようと考え若干沈黙が流れる。慌てて凛が言い直す。




「ええっと、この今の状況を写真とかで記録しませんか?そしたら何年か後に私たちが今この場所で将来を考えていたのを忘れたとしても思い出せると思うんです。」




理解が追いつき八雲が問う




「つまりこの五人で写真を撮ろうって意味で合ってるかしら?」




「はい!そうです。ちょうど写真撮れる機械もモール内にあるゲームセンターにあるし」




「私もそれしたい!皆んなで写真撮ってそれを見返せば今日の出来事がいつだって思い出せるから」




「なるほどゲーセンか、今日の行程ラストにぴったりかもな!賛成だ」





「なら食べ終わったし向かおうか、でも凛ちゃんの帽子は見なくて大丈夫なの?」





「それはまた次来る時で全然だよ空兄ちゃん。今は皆さんと写真撮りたいから!さぁゲームセンター向かいましょう」





持ち帰りの商品を受け取り会計を済ませ斑鳩を後にしてゲームセンターへ、目当ての機械を発見し中に入る。




「うわっ、中真っ白だな」




「狭いかと思ったら結構広いんだね。」




「私全然使うことないから、流れわからない...八雲ちゃん凛ちゃんわかる?」




「いいえ、私も初めてだから何が何やら」




「一応大丈夫だと思うので私がやります。皆さん中央に集まって下さい...これをこうして、準備出来ました!今からカウント始まって撮影されるんで、ポーズとかあったらそのままシャッターまで我慢して下さいね。」



コインを入れて、音声ガイドに従い操作する。三、二、一はいチーズ。シャッター音が切られる。



写真撮影が終わり機械の外にあるパネルで文字やエフェクトを付ける事が出来るので、凛がペンを持ち文字を書いていく



「へ〜撮った写真に書き込めるんだ、面白いね。」



「なんか皆んな白くない?写真加工されてる気が凄くするのだけど」



「加工物凄くされてますよ!白さや細さや目とかも別人かって思う程に」



「皆んな表情がバラバラでちょっと面白いかも」



「空の目線がカメラじゃないな、これどこに視線向けてんだ?」



そんな風に普段触れない驚きを楽しみながら、凛が字を書いていく




【星海ショッピングモール将来を語らった日】




五枚に切り分けた写真をそれぞれ受け取り、ショッピングモール出口へと向かう




「あっ、そうだ帰る前に弁当買いたいんだ、寄ってもいい?」




「僕は全然構わないけど、りっくん何の弁当買うの?」




「ロコモコ、前にテレビでやってて大原家の夜はそれにしようって話してたからさ」




「昨日夜話したんだよね。お兄ちゃん。」




「ロコモコって、目玉焼きとハンバーグの奴だっけ」




「ええそうよ、確かハワイの料理じゃなかったかしら」




「あっそうなんだ、ハワイなんだね〜。」




「九条さん夜ごはんりっくんたちと同じ弁当にする?」




「食べてみたいけど、青街くんは大丈夫なの?」




「問題無いよ、じゃあ買って帰ろっか」




「うん!」




「それじゃ買いに行こうぜ、ここからなら入り口向かう途中だからさ!」





移動する五人。向かった先はロコモコが大人気のデイリーハワイアン。店内に入らずテイクアウトカウンターで注文する。


店員が気づいて注文を聞きに来た、




「いらっしゃいませ、ご注文どうぞ」




「ロコモコ弁当三つ下さい」




「ロコモコ弁当を三つですね。お会計、千九百五十円になります。」




陸人は財布から二千円を取り出し店員に渡す。




「こちら五十円のお返しになります。カウンター横でお待ちください、次のお客様お待たせしました。」




「ロコモコ弁当2つお願いします。」




「かしこまりました、お会計千三百円でございます。」




空がお札を出そうとした時、奏がそれを制止し、財布から取り出して手に持っていた千三百円を店員に渡す。




「丁度お預かりします。お渡ししますので、カウンター横にてしばらくお待ちください次のお客様どうぞ」




そそくさとカウンター横にずれて、空が奏に話しかける。




「九条さん。財布から取り出すの遅くてごめん。これ代金」




差し出した手に、奏は首を振りニコッと笑いながら伝える。




「青街くん気にしないで、色々してくれたり助けて貰ってる。だからっ、ね。」




「そんな、気にしなくて良いのに」




困った表情を浮かべながら再度渡そうとする。奏は笑顔のままその手を両手で包み空の胸元に押し返す。




「気持ちだもん。これは受け取れないよ、それよりほら、陸人くん凛ちゃん出来たみたいだよ」



空が複雑な表情をしながら財布にお金を戻していると店員がレジ袋にそそくさと入れ声を出す。




「ロコモコ弁当三つでお待ちのお客様お待たせしました〜」




「はい、ありがとうございます。」




凛が受け取る。




「サンキュー奏ちゃん。でも良く気づいたね。」




「私耳が良いんだ、袋に詰める音聞こえたから順番的にそうかなって思って、あっ私たちのもそろそろかも、受け取ってくるね。」




「ロコモコ弁当二つでお待ちのお客様お待たせしました〜」





「ありがとうございます。」





袋を受け取り合流する。五人は出口へと歩き出し、外に出るとすっかり陽は傾いていた。夕暮れの光に照らされながら駅に向かう



「綺麗な夕焼けだね。」




「カメラ無いけど写真映えしそうな風景だな」




「携帯で撮ればいいじゃん。でもほんと綺麗、お母さんにも見せてあげよ」




立ち止まり写真機能を起動し、シャッターを切る。




「普段あまり空は見上げないし、この時間帯は基本室内にいたから、素敵、自分の眼で見るとこんなにも心に刺さるのね。」




「うん。綺麗、眩しいくらい綺麗、なんだかまるで映画とかのワンシーンみたいって思っちゃった。」




「今日凄く楽しかった。また皆んなで来たいね。」




空が夕焼けを見つめながら言葉をこぼす。




「また来ようぜ、何せまだまだ星海モールには楽しいスポットたくさんあるし映画もあるんだしな!」




「その時はまた皆んなで来ようね。この五人で!」




「必ずです!私予定絶対に空けておきますから、次はプラネタリウムとかも是非」




「ええ、正直言って楽しめるか不安だったけど、そんな不安杞憂だったみたい、皆んなありがとう楽しかったわ」




駅に着き電車に乗る。最寄り駅は全員天川出駅だった為、下車し帰り道途中まで歩いていく、分かれ道で挨拶する面々。




「それじゃ皆んな、また明後日学校で会おう、じゃーなー」




「皆さんさようならです。また近いうちに会いましょう〜」




大原兄妹が去っていく、それを見送りながら




「うん。また明後日学校で!」




「バイバイ凛ちゃん陸人くん〜」




「二人ともさようなら...それじゃ私もこっちだから、奏、青街くんさようなら」




そう言い残し八雲も歩いて行く、バイバイと言いながら手を振る。姿が見えなくなり二人も歩き出した、





辺りはだいぶ暗くなりあと二十分ほどで完全に夜が来るだろう、極めて濃厚な一日だった。考えてみたら普通の高校生たちが送っている休日だったかもしれないが、奏にとっては特別な一日となった。



水色のワンピースが翻り空に向けて言葉を向ける。





「青街くん。今日は楽しかったね!」




「うん。楽しかった!、それに帰ったら話題の夜ご飯も食べれるし」




「ロコモコだね〜私も楽しみなんだ」




「けど九条さん本当に代金良いの?無理してない?それに袋持とうか?」




「大丈夫だよ、気持ちだって言ったでしょ...もう青街くんは優しい、優し過ぎるよ!」




頬を若干膨らませながら、提げていたロコモコ弁当の入った袋を空に渡して、代わりに空が持っていた枕の袋を左手で握る。




「持って貰ったからそっち持つよ、渡して」




勢いに押され袋を渡す。




「九条さん...ありがとう」




「ううん。こっちこそありがとうだよ...あのね。ずっと気になって言いたかったんだけど」




若干恥ずかしそうな表情を浮かべながら、彼女は言い放った。




「名前で呼んでもいい?」




少し間を空けた後答える。




「...名前?あぁ今日の斑鳩で話したみたいにって事、うん全然いいよ」




奏は嬉しそうな表情だ。




「じゃあこれからは私空くんって呼ぶね!」




「わかったよ、そしたら僕は...奏さんって呼ぼうかな」




「やった、嬉しいな」




呼び方が進展した所で家に到着する。空が鍵を開け二人は中に入り一日の終わりを告げた

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