第19話 反応と私の変化
[皆んなお待たせ、用事終わったから今から合流するわ、フードコートでまだ食べてるかしら?とりあえず向かうわね。]
そのメッセージは五人のグループに投稿された新着メッセージ。八雲以外の四人はプラントエリア二階にいて、先ほど行われた圧巻の演奏に驚き呆気に取られていた。
空が口を開く
「雨霧さん。弾いてる姿いつもと違う顔だった、九条さん...確か雨霧さんのご両親って有名な演奏者だったよね。」
「...うん。そうだよ、私と八雲ちゃんが出逢った頃から、八雲ちゃんのお家にはピアノとバイオリンが置いてあって、私が遊びに行くと八雲ちゃんのお母さんが演奏してくれたんだ。」
陸人が携帯の画面を見ながら言う
「雨霧さんの母親が有名なピアニストで、その腕前は海外にも招待されてる程らしい...名前は雨霧響さん。ファンの間ではこう呼ばれてるんだって、ノーブルレゾナンス。」
「海外に呼ばれてるって、それじゃ八雲さんも一緒に行ったりしてるのかな?」
「それは...わからないな、ただ少なくとも雨霧さんのお父さん。雨霧音也さんも有名なバイオリニストだったみたいなんだけど、どうやら九年前に現役を引退して今は講師として教えてるみたいだ」
「なるほど...つまりそれは八雲さん本人に聞かないとわからないって事か、ありがとお兄ちゃん。」
「気になる事がたくさんあるし、とにかく雨霧さんと合流しよう、グループみたらさっきのフードコートに向かったみたいだし」
「そうだね。私も聞きたい事ある。それじゃ皆んな移動しよう」
皆黙って頷き、プラントエリアからフードコートに小走りで戻る。
再びフードコートエリア
四人が到着するとファーストフード店でコーヒーを購入している雨霧八雲が視界に入った。
「八雲ちゃんいた、飲み物買ってるみたい。」
まるで奏の言葉に反応するかのように、八雲が会計を終えた後振り返り
視線が合った、すると小走りで近づいて来て近くに来るなり頭を下げる。
「皆んな、勝手に別行動して待たせてしまってごめんなさい、もう食べ終わって移動してるなんて思わなくて」
八雲は反応を探る為に敢えて四人があの場にいたのに気づいてる事を黙っていた。
それに対して陸人が答える。
「いやあの後結局食べる席確保出来なくて、それで一先ず空くまで時間ずらそうって皆んなと話してさ、なぁ空?」
「あっ、うん。そうなんだ、だから僕らもまだ昼食べれてなくて...良かったら雨霧さん。時間経って空いてきたみたいだしこれから昼食って事にしても良いかな?」
「なるほど、そうだったのね。さっき確かに混雑してたものね。ええ、構わないわ」
「じゃあ私席抑えてきますので、皆さんはお昼買いに行ってきて下さい!」
「それなら私も凛ちゃんと席見ておくから三人共、先にどうぞ〜」
「サンキュー!ならお言葉に甘えて行って来るわ、空と雨霧さん。何にするか決めた?」
「僕はさっき気になったあれにしようかな、あんかけ炒飯。」
「私は...そうね。ドリアかラザニアかどちらにしようかしら」
そんな会話をしながら離れて行く三人を確認した奏と凛は五人席を探しながら会話する。
「奏さん。八雲さんも一緒に食べる事になって嬉しいですね!」
「そうだね!八雲ちゃんが気負わない様にって咄嗟に言葉を返した大原くんと青街くんにも後でお礼言わなくちゃ、皆んな揃ったらさっきの気になる事聞いてみよう」
「ですね!けど、先ほどの演奏についてやご両親について本当に聞いてもいいか不安になってきました。知りたいけど考えたら、八雲さんにとって触れられたくないから自分から話さなかったんじゃないかって思ってしまって...」
「...かもね。だから私が様子を見つつ聞いてみる。それで話したくなさそうなのであれば聞くの止めるよ、誰だって触れられたくない部分はあると思うから」
「わかりました、奏さんお願いします。」
「まかせて!」
丁度空いていた席に座り、三人を待っているとやがてトレーを持って一人戻ってきた。
「二人共お待たせしちゃってごめんね。今度は僕が座ってるから行ってきてよ、」
テーブルにあんかけ炒飯を置いた空が声をかける。
「ありがとう青街くん。凛ちゃん私たちも行こっか」
「はい」
二人が買いに行くのと入れ違いでトレーにどんぶりを乗せた陸人が帰ってくる。
「ラーメンにしたんだね。」
「つけ麺と悩んだが、これから季節変わったら食べなくなるし熱々のこっちにしたわ、しかも特製な!」
「もう夏の事考えてるのちょっと早くない?」
「あっという間だからな時間経つのは、特に部活集中してると尚更さ」
「そういうもんかな、そうだりっくん。さっきはありがとね。機転効かせてくれて」
「たいした事ねぇよあれぐらい、それにわざわざ見に行ったって伝えるのもどうかなって思っただけだしな」
そんなやりとりをしていると八雲が戻ってきた。手に持つトレーには小さなサイズのドリアとラザニアの二つと先ほどのコーヒー
「お待たせ、二人は中華にしたのね。」
「雨霧さんは迷ってたどっちも買ったんだ、」
「ええ、どちらも食べたい気分だったからサイズを半分にしたの」
「良いね。ピザのハーフアンドハーフみたい、」
「フードコートって一つのお店に入るのと違って、好きな物を選択出来るのがいいとこだよね。」
「だな、足りなかったら気軽に買いに行けるし好きだわ」
「こういった場所で、あまり家族と食事摂らないから新鮮だわ」
「そうなんだ、雨霧さん家って外で食べる比率と家で食べる比率どっちが多いの?」
「...外かしら、両親が忙しいから外で済ませる事が多い気がする。」
そこに二人が戻ってくる。凛はハンバーガー、奏はトルティーヤを選んでいた。
「皆んなお待たせ〜、何の話をしてたの?」
奏の問いに空が答える。
「食事の頻度家が多いか外が多いかについて雨霧さんに聞いてたんだ。」
「そうだったんですか、それで八雲さんはどちらが多かったんですか?」
「外よ、私の家は普通の家庭より少し特殊だから家に母も父も仕事でいない事が多いの、まぁそれはともかく皆んな揃ったしいただきましょう」
「そうだね。食べよう、いただきます。」
五人は手を合わせて食べ進める。各々口に運ぶ中で奏が八雲に問いかけた、
「そう言えば八雲ちゃんのお父さんお母さんってお仕事何してるの?」
拒否反応を示すかどうか様子を伺う
その問いを受け、一拍置いてから答える。
「...母はピアニストで父はバイオリン教室の講師をしているわ」
「子供の時に八雲ちゃん家で、私たちにピアノを弾いてくれたの今でも覚えてるんだけど、そっかピアニストなんだ、確かその時八雲ちゃんも弾いてたよね。」
「十年前なのによく覚えてたわね。ええ、弾いてたわ、あの頃から私も母の様な技術を身につけて恥ずかしくない演奏を出来なければならなかったから」
返答を受け、奏は意を決し切り込む
「だからあの場所で弾いてたんだね。実はさっき見たんだ、八雲ちゃんが演奏している所を」
「そう、見ていたのね。」
意外にもあっさりした返しだった。凛が口を開く
「八雲さんの演奏してる佇まいがとってもかっこ良かったし綺麗でした。」
「雨霧さんは朝見に来ても退屈なだけだって話してたけど、僕は正直びっくりしたよ」
「ああ、俺も驚いた。演奏中の姿がまるで別人の様で、音楽はあまり詳しくないけど、音が無くなるまでずっと見てた。」
三人の【雨霧八雲】に対する感想、その言葉に少し笑みが顔を出す。
「別にたいした事無いわ、けど皆んなありがとう。ツマラナイ時間じゃなかったんなら嬉しい」
「八雲ちゃんが転校してから今日まで、どんな風に過ごしていたのかわからない部分沢山あるけど、少なくともずっとピアノに打ち込んできた事はさっきので伝わったよ」
「奏...」
「なぁ雨霧さん。今後演奏する機会とかって決まってたりするの?」
「ええ、五月に規模は小さいけど演奏会があって八月にはコンクールがあるわ」
「その演奏会は見に行けたりする物なの?」
「制限なく解放されてるから大丈夫なはずだけど、まさか見にくるの?」
「雨霧さんさえ良ければそうしたいんだけど、駄目かな?」
「私も見に行きたいです!」
「僕もりっくんや凛ちゃんと同じ、是非見に行きたい」
「さっきの演奏聞いたら次もまた聴きたくなるよ八雲ちゃん。」
「...別に構わないけど、」
「マジ!?よし!そうと決まったら飯食べて、服屋行こうぜ!」
「服屋?なんで服屋?」
「決まってるだろ〜、演奏会に恥ずかしく無い服装の為だよ!」
「別にわざわざ買わなくても大丈夫よ、今日みたいな普段着なら何の問題もないわ」
「そうなの?ならこの後は予定してた残りのスケジュールで動きますか!」
「了解だよ」
「はーい」
「うん!」
「わかったわ」
昼を食べ終わり、トレーを片付け次の目的地へ向かう。音楽をピアノを続けていて良かったと心底感じながら四人の後ろに位置どり、雨霧八雲の人生で初めての眩しい笑顔が彼女の新たな一面を露わにした。
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