第14話 兄妹の日常

翌日、大原宅



朝の起床時刻、大原陸人はまだ目を覚まさずにいた、





「陸人はまだ起きてないのか、凛起こしに行ってあげて」





そう発したのは兄妹の母親である大原灯里





「はーい、」





テーブルには湯気立つハムエッグにトーストとコンソメスープ。



朝食が出来たと言うのに寝坊助な兄を起こしに向かう、兄の部屋を開け手間の当て付けに大きな声で呼びかける。




「お兄ちゃん〜!朝ご飯出来てるよー!!」





「...zzz」





反応が無い、陸人は朝が弱いので、再び語気を強めて試みる。





「起きろー!起きないと遅刻するよー!」





「...zzzz」





またも反応が無い、三度呼びかける。





「はぁ...バ・カ・ア・ニ・キ!!起きろ!起きなきゃ学校遅刻に朝食抜きだよ!」





その家全体に聞こえる様なボリュームに寝坊助陸人が目を開ける。





「う、うるさぁ...凛。声デカすぎ...」





眼を擦りながら起き上がる。





「お兄ちゃんが何度呼びかけても起きないからでしょ!ほら!朝ご飯食べて学校行くよ!」





「へーい」





兄妹がリビングに向かうと既に朝食を食べてる母が視界に入った、




「陸人おはよ、今日も仕事夜遅くまでかかりそうだから凛と一緒に夜食べといて、」





椅子に腰掛けながら答える。





「おはよー母さん。りょーかい、凛今日夜どうする?」




「うーん。じゃあ偶にはお兄ちゃん作ってよ」




「そうしたいのは山々なんだが、生憎今日も部活で、終わるの遅いんだわ」





「相変わらずバスケ部は練習多いね。そしたら夜冷蔵庫にある物で適当に作る。」




そんな会話をしていると灯里が食べ終わると同時に口を開いた、




「陸人、凛。これ夜代置いておくから出前でも外食でも好きなの食べなさい、あとこれ今日のお弁当」





そう言うと机に千円を二枚置いた、灯里は食器を流しの中に置き肩がけの鞄を提げ兄妹に合図をする。





「それじゃ母さん。先出るから、二人共遅刻しない様にね。」






「うん。ありがとうお母さん。行ってらっしゃい!」






「母さん。明日は空たちと出かけて、夜は星海モールで評判のロコモコ弁当買ってくるから楽しみにしてて」






「へぇ、この前テレビで特集されてた奴じゃん。ありがと、楽しみにしとく、それじゃ行ってきます。」






「行ってらっしゃい」





淡い赤色のスーツをキッチリ着た二人の母親は仕事へと赴いた。






「凛。俺は夜何でも構わないから、食べたいの考えといてくれ」





「私も考えるけど、お兄ちゃんも考えといてよ、」





「いや、特に案が思い浮かばなくてなぁ」





「帰ってくるまでに一つか二つくらいは思いつくでしょ、それより早く食べて準備しないとお兄ちゃん遅刻するよ」





「そうだった、急がないと!」





ハムエッグをパンに乗せ頬張り、スープを飲んで流し込む、荒々しい食べ方だ。





「いくら急いでるからって、お兄ちゃん。...下品」





「はんぼぼぼぶえ!」





口いっぱいに頬張ったので、何と言ってるのか聞き取れない、



凛は呆れた顔をして、食べ終わった食器を運ぶ、





「明日皆んなでいる時それ絶対にやらないでよ?恥ずかしいから」





「はぶばべばいばぼう!」




「何言ってるかわかんないし...とりあえず飲み込んでから喋って、マナー悪いから」





「.....ングッ、やる訳ないだろ!」





そう言いながら皿を運ぶ、そして急いで着替えて大原兄妹は学校へと登校する。






天川出高校


三年四組、陸人が教室に入ると既に九条奏が席についていた、





「九条さんおはよー」





「あ、大原くんおはよう、今日は結構ギリギリだったね。」





喋りながら時計に視線を向ける。

クラスに備え付けられた掛け時計の針はチャイム二分前を指し示す。





「危なかったぁ、今日は起きるのいつもより遅くてかなり急いだわー」





「それって昨日夜眠れなかったとか?」





「いや寝たは寝たんだけど、あまりに疲れすぎて起きれなかったみたいで」





「部活そんなに大変なんだ、大丈夫?良かったら休み時間に次の時間まで寝たらどうかな?授業になったら私起こすよ!」





「ありがとう九条さん...でも大丈夫だよ、一回完全に起きたら動けるからさ!」





「そっか、わかった。でも辛くなったらいつでも言ってね。体調悪かったら無理は禁物だから」




「...聖母の様な優しさが心に沁みる。どっかの跳ねっ返りシスターと違って、」





「そんな大袈裟だよ、凛ちゃんと何かあったの?」





「何もないよー、ただ兄に優しくする心を失ってしまったみたいでね。」





「大原くん。お兄ちゃんだから、きっとついつい素直になれないだけなんじゃないかな?」





「そうなのかなぁ?」





「うん。照れ隠しもあると私は思う、あっ、先生来た」





「皆んなおはよう、ほら早く席につけ〜、出欠取るぞ」





同時刻、二年二組

雨霧八雲は考え事をしている模様




(明日出かける時の説明どうしようかしら、正直に言ってもお父さんが認めてくれるとも思えないし、かと言って嘘を付くのも気がひける...)




自然と眉間に皺が寄る。煮詰めて思考する時に彼女は無意識にそうなる。


担任が出欠を取る。




「会田」





「はい」





「青街」





「はい」





「浅沼」





「はい」





「姉川」





「はい」





「雨霧.....雨霧、いるなら返事しろ〜」





慌てて空が声をかける。





「雨霧さん。先生が名前呼んでるよ!」





顰めっ面のまま斜め後ろからの囁き声に反応して我に返る。





「は、はい!」




鳩が豆鉄砲を食ったような表情と音をだして、クラスメートたちの笑い声が少しこだまする。




「雨霧がぼーっとするなんて珍しいな、寝不足か?」





「すみません。少し集中が途切れてました、」





「体調悪かったら無理せず保健室で休むんだぞ?じゃあ続けて石田!宇崎!江藤!...」





引き続きそんな流れで朝の時間が終わり、一時間目前、空が心配そうに八雲に話しかける。





「雨霧さん。何だか上の空みたいだったけど大丈夫?」





「ええ大丈夫、ほんとにちょっと考え事して集中途切れただけだから、それより青街くんありがとう。気付かせてくれて助かったわ」






「ううん。それは全然だけど、今までこんな事無かったし、驚いたよ」






「そうね...私も、びっくりしてる。でももう大丈夫だから」






「なら良いんだけど...」






「心配してくれてありがとう、それじゃ着替えあるしまた後で」






そう言葉を残し、他の女子たちと同じ様に体育着を持って移動する。


雨霧八雲は頭の中で自分に言い聞かせた、



(もっと集中しなきゃ駄目ね。考えすぎて気もそぞろもいいところだわ、とにかく休み時間にでも説明どうするか考えなきゃ)




そして内容に絶句する。




(うっ、今日はバレーボール...尚更集中が必要になるわね。)




音楽家庭で過ごした彼女は品行方正且つ成績も良く、模範生徒の様な規律を遵守し走る速度も上位だが、こと球技に関しては要領を得なかったのであった。


つまり球技運動音痴である。






そこから時は進み針が十二時を過ぎ、空がいつも通り鞄から弁当を取り出す。すると八雲が話しかけてきた。





「今日も音楽室行くのよね?」





「うん。りっくんは部活練習あるから今日は三人だね。それじゃ行こうか」





教室を出て音楽室へ向かいながら会話する。




「奏は迎えに行かなくて大丈夫なの?」





「先に伝えてあるから大丈夫だよ」





「...抜かりないわね青街くん。」





「ほら朝登校しながら結構喋る時間あったからさ」





「なるほど、共同生活でしかも同じ高校だとそれだけ長く一緒にいるから会話出来るものね。」





その八雲が発した言葉は少しだけ羨望が含んでいる風に聞こえる。




三階音楽室の扉を開く、中には既に九条奏が窓から外を眺めていた。






「奏、おはよう、来るの早いわね。」






八雲の言葉に振り返る。






「あっ、八雲ちゃんおはよう!授業終わって直ぐに来ちゃった、大原くんにも同じこと言われたよ〜」





空いている椅子に各々座って食事に入る。






「りっくんは今頃体育館で練習に打ち込んでるだろうね。」






「うん。同じ部活の人と一緒に急いで向かってたよ、その時部活に向かう表情が普段より真剣な表情してたの」





「今日も放課後あるんでしょ?、正に運動部って感じよね。」






「運動系の中でも特にバスケは顔つきが変わるから、あんなに真剣なりっくん他では見たこと無い」






「私更に試合が楽しみになったよ!バスケってユニフォームが格好良いし、ルールも調べてみたんだ、確かダブルドリブルは反則なんだよね。」






「あの後調べてたんだね九条さん。そうそうダブルドリブルはボールを持った選手がドリブルを始めてから両手で触ったりする反則行為だよ」






「まだ試合まで二ヶ月先なのに奏応援する気満々ね。」






「私運動があんまり得意じゃ無くて、だから見るのは好き、でもただ見るだけじゃなくて頑張ってる姿を応援したいと思ったんだ。」






「りっくん喜ぶと思うよ、前に言ってたんだけどコート内にいる時に知り合いの姿見つけたり声援が聞こえたりすると、活躍してるとこ見せる為に集中力が上がるって話してた。」






「へぇ、声援で俄然やる気になるなんて大原さん珍しいわ」






「昔から注目されるの好きだったしその上逆境にも強いから」







「ピンチにもチャンスにも強いなんて、とても羨ましい、だからこそエース足りうるのね。」








「活躍する姿見たいな!布とかに応援メッセージ書いて応援しても大丈夫かな?」








「問題無いと思うよ、結構応援に熱が入る人も多いし」







「運動部は応援に力入れてるとこ多いわよね。学校にとっても功績を残す最優先事項みたいな扱い」







「そうだね。新入生の入学理由にもなるし優先されるのも頷けるけど」






「中学で部活動してたら、それを基準に考えるもんね。私でももし部活してたらやっぱり有名なとこに行きたいって思うもん。」






会話を続けながら八雲は小さな声でぽつりと呟く




「...けど応援なんて、本当に意味があるのかしら」







「?八雲ちゃん何か言った?」







「いえ、何でもないわ...それより明日の予定についてなんだけど、星海駅に十時集合で変わりないわよね?」







「うん。とりあえず回る店とかどうするかは、混雑具合によってって感じで」







「了解、楽しみだなぁ!八雲ちゃんと凛ちゃんと洋服だったり雑貨みたりして、皆んなでご飯食べるの」







「ええ、そうね。私も楽しみだわ奏、」







「星海モールは凄く広いからもし逸れたらグループに落ち合う場所書くね。」







「そんなに広いんだ、楽しみ〜!ありがとう青街くん。」






「それじゃそろそろクラスに戻りましょうか、昼休みも終わる事だし」






「そうだね。それじゃ教室戻ろうか」






「うん。それじゃバイバイ青街くん八雲ちゃん。」



昼が終わり五時間目の授業が始まる。皆が頭の中で考えるは明日のイベントについて、少年少女たちそれぞれの想いは交錯していく。

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