第12話 信頼の証

空がエントランスで待っていると暫くして奏が戻ってくる。駆け寄ると目元がうっすら赤くなっているのに気づく、



そして空が喋り出す前に奏が口を開いた、




「遺体、自宅に送ってもらう事にした、お母さんとお父さん一緒にしてあげたいから」



「そっか...その方が良いと思うよ、僕の両親も同じお墓だから」




そのまま病院を後にする二人、



バスが来るのを待っている間、停留所で会話を交わす。先に話しを切り出したのは奏だった、



「青街くん一緒に来てくれてありがとう、凄く心強くて助かってる。」



「うん。それは全然だよ、それより辛かったら言ってね。抱えてる想い、わかるなんて簡単には言えないかもしれないけど」



そこまで紡ぎ、一旦視線を外してから再度気持ちを強く込め伝える。



「それでも僕はわかりたいとは思っているから」



真剣な眼差し、奏はその真っ直ぐな眼に思わず戸惑う、前に生気を失ってた自分に言葉をくれた時もそうだったが、彼は本当に優しくそして強い



年の差が極端にある訳でも無いのに、どうして彼はこんなに成熟した考え方と接し方なのだろうか、脳裏に浮かべながら奏は答える。



「うん。私は青街くんの事信じてる。」



真剣な眼差しを空に向けながら続けて言う



「だから私も信じて欲しい、落ち込んだり迷惑かけたりばっかな私だけど、それでも青街くんに信じてもらいたいから」



その言葉は空にとって特別な意味を持っていた、



人を信頼する事と人から信頼される事。

人生の中で、この二つを同時に形成出来る間柄はいったいいくつあるのだろうか



血族でも無い赤の他人がその関係性を築く

事の難しさ、所謂唯一無二の親友や腐れ縁などがどれほど尊く、強く望む物か



空がこれまで今のように生きてこれた原点はこの信頼関係による。両親を亡くし頼る者が無い中今まで育ててくれた血縁関係の田島清一郎、



そしてどんな苦しい時も側に居てくれた友である大原陸人と大原凛。



今の自分は皆んなが居てくれたから存在している。



境遇に似ている要素を感じて、辛い状況を側で支えたいと伝え、信頼を行動で示し、九条奏の心に寄り添ってきた、


二日間だ、たった二日かもしれないが濃密な時間だった。



奏からの想いに空は答える。



「僕も九条さんを信じる...ううん。信じている。」



真っ直ぐに返す。その言葉と共にバスがやって来るのが視界に入った、


お互いの距離感が少し縮まり、進展する関係性、バスに乗車し奏が問いかける。



「家に着いたら聞きたかった事聞いても良い?」



「うん。遠慮せずに何でも聞いて、」



そこに二人のスマートフォンにメッセージの表示が、送り主は陸人だった、グループに投稿された様だが、彼はまだ部活の最中のはず...



陸人

[皆んな土曜日の時間と集合場所決めようぜ!場所はモールがある隣の星海駅で良いとして時間はどうする?十時くらい?]


[場所は駅集合で問題ないと思う、時間もモール開くの十時だし良いんじゃない、それよりりっくん今部活中じゃないの?]


陸人

[部活休憩中、来週の月曜練習試合あるからって明日昼練だから今のうちに決めとこうかと思ってだな]


[なるほど、理解]



[私もそれで良いと思う!]



[賛成です!あとお兄ちゃん。帰りに卵買ってきて]



陸人

[グループの場で兄をパシるか我が妹よ]



[だって持ってけないから中学生は帰りがけ買う事が出来ないんだもん。]



八雲

[時間と場所了解したわ、持ち物とかは特に何か必要な物とかあるかしら?]



陸人

[ぎっしり詰まった蛙口]



[財布だね。当たり前だけどりょーかい]



八雲

[よく今のわかったわね。一瞬何を言ってるのか理解に時間がかかったわ]



[そだね。まぁ付き合い長いと段々とって感じ]



[お兄ちゃんくだらない事言ってないで練習戻ったら?決まったんだし、]



陸人

[妹が冷たい、昔はどこ行くにも後ろを付いてきた可愛い奴だったのに...]



[グループで昔話やめてよ!?]



陸人

[あれは小一の夏だったか、俺が凛の視界から消える度にお兄ちゃんどこ行ったのって叫びながら泣いていたなぁ...]



[何それ凛ちゃん可愛すぎ...]



八雲

[意外ね。幼少期は後ろにべったり付いて回っていたなんて]



[そのエピソードを話したら...]



[イエニカエッタラオボエテロヨバカアニキ]



[ほら言わんこっちゃ無い...]



陸人

[練習もーどろ、卵忘れない様に買ってかーえろ]



[逃げんなー!]



[戻ったみたいだね。]



[都合が悪くなると直ぐ逃げる...空兄ちゃんからもアホ兄貴になんとか言ってやってよ!]



[あはは善処してみるよ、とりあえず予定決まったし土曜よろしくね皆んな]



八雲

[ええわかったわ]



[はーい!]



凛[ラジャです。]



[それじゃまた当日に〜]




スマートフォンの電源ボタンを軽く押し鞄にしまう、バスも最寄りまで到着し下車する二人



「土曜は決まったね。それでさっきの話だけど、家着いたら僕も聞きたい事聞いても大丈夫かな?」



「うん。勿論だよ、それじゃ早く帰ろ」



「ありがとう、夜ご飯も冷蔵庫に食材あるし帰ろっか」



帰路を辿る。途中で奏が問うた



「ところでさっきの蛙口が財布ってどうしてなの?」



「蛙って種類にガマ蛙いるでしょ、だから財布を意味するガマ口に引っ掛けたんだよ」



「あ〜そうだったんだ!今意味わかったよ〜」



新たな発見

驚き納得する九条奏を見て意外と天然な所があると感じながら家路に着く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る