第11話 向き合う真実

放課後、帰る準備をしていた空と八雲の元に奏が声をかける。


「青街くん。八雲ちゃん。かーえろ」


「ええ、大原さんは?」


「りっくんは部活だよ、」


「そうなの、部活してたのね。」


「バスケ部で、今年のエースなんだ、夏の大会に向けて練習していて、三年生はそこで引退だから殆ど毎日練習してる。」


「大原くん体育での運動神経も抜群だし、高校では最後になるから気合い入ってる様に見えたよ、大会が行われる場所が、凄く遠いわけじゃないから試合応援しに行きたいな」


「僕も行くつもりだったんだ、そしたら当日一緒に行こうよ九条さん」


「うん!行こう、それまでにバスケのルール、私が理解出来てない部分勉強しておかなきゃ」


「運動得意だとは思っていたけど、まさかバスケットボール部のエースだなんて知らなかったわ」


「八雲ちゃんも、試合の日空いてたら応援しに行こ」


「夏だと...七月や八月とかよね。」


「うん。去年は七月の中旬に大会だったから今年もそれぐらいだと思うよ」


「それなら行けそうかしら、八月中旬以降は私も忙しくなるから決勝戦とかまで観に行けるかはわからないけど」


「それじゃ決まり!凛ちゃんも誘って四人で行こうね。」


「この学校、これまでバスケ部の功績ってどんな感じなの?」


「一番良かったのは去年の地区大会決勝だったはずだよ、今年こそ全国へ行くんだって、りっくん意気込んでた。」


「なるほど、結果の為にも頑張って欲しいわね。」


そんな話をしながら校舎を後にする三人。横を通った時に体育館から熱の入った音が聞こえた、


「練習の声凄かったね!」


「去年の後一歩だった功績もあって、今年は更に力入れてるみたいだよ、」


「正に体育会系って感じね。」


「選手の人たち運動神経抜群でチームワークも良いんだろうなぁ」


「奏は何かやらないの?部活とか」


「私はもう三年だし、それに転校が多かったから部活はやらないんだ。」


「そう...青街くんは部活入っているの?」


「僕は興味を惹かれる部活が無くてね。雨霧さんこそどうなの?」


「私は...部活やる時間なんて無いから」


遠い目をする。

吹奏楽を考えた事も、一度だけある。だが演奏を、部活動レベルでは雨霧八雲が求めている水準では無かった、彼女の求めた物は猛者が集まるコンクールにしかない、


八雲を見つめる空と奏、それに気づき紡ぐ



「とにかく、私たちの中だと大原さんだけだから大会応援行きましょう、あと凛さんも何かやってるか聞きたい所ね。」



「そうだね。確か凛ちゃんは料理研究部に入ってるって聞いた事あるよ。」



「へ〜凛ちゃん家庭的な部活動してるんだね。青街くんは凛ちゃんの料理食べた事はあるの?」



「いや無いよ、リクエストした時はまだ恥ずかしいって言ってたけど、手料理食べてみたいよね。」



奏が強く頷き、八雲も口を開く

「そうね。気になる。...それじゃ私家あっちだから、昨日見た限りじゃ大丈夫そうだけど、くれぐれも異性なんだから、共同生活は倫理ある行動を心がけてね青街くん。」



八雲が強めに釘をさす。

「わかってるよ、ってか何故僕にだけ?」



「奏は大丈夫だもの」



「えぇ...まだ信用されてないの雨霧さん。」



「それはこれから次第...かしら」



「八雲ちゃん大丈夫だよ!青街くんは優しい人だから」



「そう、なら奏を信頼するわ、それじゃ二人共また明日学校で」



「うん。また明日、バイバイ」



手を振り雨霧八雲は歩いて行った

「青街くん。中々八雲ちゃんに信用して貰えないね。」



「うん。警戒度が高いよね雨霧さんって、」



「小さい時から八雲ちゃん。かなり親しくならないと心開いてくれないんだ」



「そうだったんだ、まだ喋る様になってから数日だしこれからって感じかな、」



「週末出かけて皆んなで話してれば仲良くなれると思う、八雲ちゃん。昔から警戒心凄いけど、一回仲良くなれれば本当に信頼してくれる子だから」




そんな会話をしながら家へと帰る二人、帰る途中奏の携帯に着信がかかる。番号が表示されるが見覚えのないナンバー


「はい、もしもし」



「九条奏さんのお電話でしょうか?」



「はい、そうですけど」



「私、明成総合病院の棚町と申します。二日前の九条奏さんのお父様についてお話があってご連絡させて頂きました。今お時間宜しいでしょうか」



病院からの連絡だと知り奏の表情が少し変わる。


あれから二日が経ち向き合わなければならない事実に目を背けず相対さねばならない、だがまだ自信がなかった、十八歳の少女は若干動揺しながら答えた、




「...はい、大丈夫です。父の遺体搬送についてですよね。」



「はい、お父様を亡くし心苦しい胸中お察しします。九条雪彦さんの搬送先はご自宅で宜しいでしょうか」



「そのお話なんですが、これから病院に向かうので、そこで決めたいです。ご相談したい事もあるので...」



「なるほど、わかりました、それではお待ちしております。到着しましたら門脇と言う名前を受付にお伝え下さい」



「わかりました、ありがとうございます。」



電話を切り一旦落ち着く為呼吸してから空に伝える。



「ごめん。青街くん。私今から病院行ってくる。」



「九条さん。何か出来る訳じゃないけど僕も行くよ」



「ありがとう青街くん。お願い」



そして二人は制服姿のままバス停から病院へと向かう、明成病院は坂の上にある病院で歩くには遠いし中々な勾配がある。


だが車なら十分ほどで着く為、利用する人の多くはバスを使う、今日も平日ながら多くの乗客が明成病院前のバス停に停車すると降りて行く、二人もバスを降り病院内受付へと進んだ。


「すみません。先ほど電話でご連絡していただいて来た九条です。門脇さんいらっしゃいますか」



「こんにちは、門脇は只今別の患者を診ているので、こちらの番号札をお持ちになってロビーでお待ち下さい、順番が来ましたらお呼びします。」



二十九番と書いてある紙の札を貰い、軽い会釈をして、呼ばれるまで待つ事に



エントランスの椅子に待っている間、二人は沈黙していた、奏は向き合うのに意識を向けて考え事をしていた、空はどんな言葉をかけていいのかわからなかった、



やがて番号札二十九番を呼ぶ声が聞こえ、立ち上がり向かう奏に空が声をかける。




「九条さん!その...一人で抱え込まないでね。側にいるから」



「ありがとう青街くん。うん。信じてるよ」



そして奏は受付の案内で、九条雪彦の執刀医だった門脇医師の医療室へ、空は遺族ではない為エントランスで待つ事になった。



部屋に入ると椅子に座り白衣を着た男性がカルテに目を通していてこちらに気づくと



「九条奏さんですね。先日は九条雪彦さんをお救い出来ず、申し訳ありませんでした、」



深々と頭を下げる。

それにつられ奏もお辞儀をし、医師に感謝を述べた、



「こちらこそ父の手術担当して頂きありがとうございました、先日はちゃんとお礼も言えずすみません。」



「いえ、目の前でお父様を亡くされた直後だったので、仕方ないです。それで遺体搬送の事なのですが」



「はい、搬送は自宅へお願い致します。父には母と同じお墓がいいと思うので」



「わかりました、ではそれで搬送手続きを取らせて頂きます。また今回の事故について、私から詳細を口にしてよいのか考えたんですが...」



一旦考えるそぶりを見せ、門脇医師は続けて述べる。



「実は、九条雪彦さん。事故に巻き込まれた形ではなく、車道を歩いていた幼い子供を庇って、代わりにぶつかり助けたみたいなんです。」



「えっ...それって」



「事故で病院に搬送されたあの日に、軽い打撲で済んだその子供はご両親と一緒に当病院まで来たのです。九条雪彦さんに感謝の言葉と、容態を確認しに」



「お父さんが、助けた...」



「ええ、病院に駆けつけた時会わなかったのはちょうど入れ違いになってしまったからかと、その子のご両親は...あなたに九条奏さんに、会って直接謝罪したいと言っていました。」



「私に...謝罪、ですか」



「事故自体はそもそも運転手の前方不注意による物らしいので、あの一家に非は無いみたいですが、それでも申し訳なく思っているのでしょう」



「そんな...」



事故の詳細を知り愕然とする奏、ここ二日間。徐々に笑顔を取り戻しつつ週末にも更に心の傷を癒すイベントがあったが、



説明を受け、再び暗い底無しの恐怖が押し寄せる。心で響く音が負の連鎖を招く




(タスケタカラオトウサンガシンダ)




事故であれば、本当に唯の事故であれば今とは違かっただろう、


対象がいてしまったら例えその人が何も悪くなかったとしても、湧き上がる感情に乱される。



自分でも思ってはいけないと感じているが、止まらない、奏の中にある濁りつつある心をぐっと抑え発した。



「その一家とは、しばらくは...少なくとも全部受け止める様になるまではお会い出来ません。」




「...わかりました、それではその言葉をこちらからお伝えしておきます。受け取れる様になったら病院にご連絡して下さい、そちらもお伝えしますので、」



「はい、ありがとうございます。」



「お話は以上です。他に何かあればお伺いしますが」



その言葉を受け、奏は必死に気持ちを切り替え伝える。



「お聞きしたい事が有ります。私の動かなくなってしまった右腕について、」



門脇医師はそれを聞き施術時の様な真剣な表情に一際変わり問いかける。


「動かなくなってしまった...と言うことは、タイミングはいつでしたか、...おそらく二日前の夜ではないでしょうか。」



「はい、あの日からです。父の手を握り離したあの時から全く動かせなくなってしまったんです。」



「なるほど.....であれば外的要因では無く内的要因でしょう、ショックなどから自身を守る為にメンタル部分で防衛が機能して、その反動で一時的に右腕が脳からの伝達を停止してしまっていると考えられます。」



診断を聞き即座に反応する。



「一時的って事は治せるってことですか!?」


頷く門脇医師


「トラウマなどから来る障害は治りはします。ですが、外的要因とは違い体では無く心が影響して来るので、手術をすれば治せる訳ではありません。」



続けて


「つまり、治るかどうかは患者の心次第と言う事で、心理的療法を受けたとしても完治の見込みが早くなるかどうかはあなた次第です。」



「そう...ですか、心」



「具体的な治療案を提示できず申し訳ないです。今の解説も症状や状況からの判断なので、外的要因の可能性は無いとは言えないですし、一応レントゲンで詳しく診て見ますか?」



「いえ、大丈夫です。打ちつけたりとか無いですし、それにタイミングで考えるにあの日からなので」



「わかりました、また何かございましたらご連絡して下さい、私にお答え出来る範囲であればお力になります。」



「はい、わかりました。今日はありがとうございました。失礼します。」



医療室を後にし、エントランスで待つ空の元へ戻る前に女性トイレに入る。




誰もいない事を確認して、




そして必死に堪えた涙を流した。

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