第8話 それぞれの思い
奏と凛は部屋に入り、敷かれた布団を見て驚く
「あー!私の分までお布団敷いてある。」
「ほんとだね。青街くんが用意してくれたのかな?」
「多分そうだと思います。明日空兄ちゃんにお礼言わなきゃ」
「凛ちゃんは本当にしっかりしてて礼儀正しいね。」
「いえいえそんな、...あの奏さん。その失礼かもしれませんが、聞いても良いですか?」
布団に座りながら伺う凛
「うん。どうしたの?」
奏も座り向かい合う、
「もしかして右手動かないんですか?」
心配した表情で問いかける。奏はそれを受けて、すぐさま返す。
「ああ、うん。凛ちゃんには事情伝えてなかったね。そうなんだ、ちょっと今動かなくなっちゃったみたいで」
ぎこちない苦笑い、
「でも心配してくれてありがとう」
精一杯の笑顔を凛に向ける。
「そうだったんですね...何かあったら言ってくださいね!私で出来る事ならお力になりたいです。」
真剣な表情で奏を見つめる。それに対し奏は
「...凛ちゃんは優しいね。お兄さんと似てるかも」
「兄とですか?」
「うん。誰かを思いやる優しさがあって兄妹なんだなって思ったよ」
「自分じゃそう感じませんが似てるんでしょうか、...騒がしい部分は似てるのは嫌ですね。」
「そこは...どうだろ?凛ちゃんは賑やかって感じじゃなくて、おしとやかかな」
それを聞いて喜ぶ中学三年生
「おしとやか...初めて言われました!奏さん抱きついても良いですか?」
奏はそのリアクションを見て即座に反応
「もちろん!おいで凛ちゃん」
ギュー、
「奏さんありがとうございます。私嬉しいです。こうしてるとまるでお姉ちゃんに抱きついてるみたいで幸せです。」
「私こそ妹いないけど、とっても可愛らしい妹が出来た気分だよ、ありがと〜」
二人の女の子はハグしお互いの顔を見つめ微笑む、
「私、今日奏さんと八雲さんに知り合えて本当に良かったです。これから宜しくお願いします。」
「私もだよ!凛ちゃんのお話二人から聞いてたけど、会えて喋って益々大好きになったの、これから宜しくね。」
左手で握手する二人、双方満面の笑みを浮かべ
「明日もあるし寝よっか」
「はい、それじゃ電気消しますね。」
消灯、そして同時に「お休みなさい」
奏の左手を凛が右手で手を繋ぎ二人は瞼を閉じる。
同時刻隣の部屋、空と陸人は横になりながら話をしていた、
「りっくん今日はありがとね。」
「おう、何に対してかわからんけど」
「色々だよ、心配してくれたり気を使ってくれたり盛り上げてくれたりさ」
「何言ってんだよー、普段通りの事しかしてないよ俺は」
腕を頭の後ろで組み天井を見つめる。
「じゃあ普段通りでありがとう」
陸人の方に向いて喋る。
「なんだそりゃ、普段通りにありがとうって変だろ」
少し笑う陸人
「そうかな?確かに変かも」
空も同様に笑う
「それより空、久々に泊まりで、夜ご飯美味かったから明日朝も期待してるぜ」
「ご期待に添える様頑張るよ」
お互い天井に視線を向け会話を続ける。
一時の間があり口を開く陸人
「今日昼の話、あれ何か隠してるだろ」
突然の鋭い指摘に短く返す。
「どの話?」
「仕事の都合で二人で一週間って話、...別に今話さなくてもいい、何か事情があるだろうから」
続けて紡ぐ
「けど、タイミングが来たら、その時は.....話してくれよ空」
「りっくん...気づいてたんだ」
「まぁな、昨日の今日で変化してる箇所や把握してる要素見てなんとなく」
「そっか、説明すべきとこなのに全部話せなくてごめん。」
「いいって、どんな事情かわからないけど、とりあえず言える事は困ったら頼れよ、空は割と一人で抱え込むからさ」
天井から空に視線を移す。
「うんわかった、りっくん本当いつも感謝してる」
「よせよ、そんな他人な間柄でもないだろ俺たち」
また天井を見つめ
「出逢ってからもう十年以上の付き合いになるんだ」
「そうだね。初めて出逢った記憶が未だに鮮明に覚えてるよ、あれから今までなんだかあっという間だった」
「あの時からどこ行くにも一緒だったよな、覚えてるか、昔近くの公園で野良犬に二人してビビっていたの」
「覚えてるよ、確か小学二年生の時だよね。あの時僕たち砂場で遊びたいだけだったのに結局占領されてて、仕方ないから滑り台で我慢したんだよね。」
「そうそう、んで犬が寄って来て滑り台から降りれなくなったんだよな、そこから作戦二人で考えてなんとか逃げるの成功したんだっけ、懐かしい」
「あの計画よくよく考えたら滑るのと階段で降りる二手に別れたけど、野良犬が結局滑る方にいて僕が囮になっただけだったんだよね。」
空が苦笑する。それに笑いながら
「二分の一だったから恨みっこなしって当時指切りしたの思い出すよ」
二人の遠い思い出話、それはお互いにとって大切な過去の記憶。忘れたくない、いつまでも覚えていたい、同じ気持ちの記憶。
「改めてこれからも宜しくりっくん。」
「ああ、宜しくな空」
幼馴染二人は瞼を閉じ、精神を休ませる。そこで陸人が急に思い出し言葉を発した、
「あっ、そういや雨霧さんに狼の件聞くの忘れてた」
「明日学校で聞けば?ふぁぁあ」あくびをしながら返す。
「それもそうだな」
数時間前、雨霧八雲は帰り道に考え事をしながら帰っていた、
「青街くんの家、見えた限りじゃお父さんとの繋がりがある様に見えなかった、やっぱり田島清一郎さんと何かがあったから隠されてると考えるべきかしら、それに奏...昼の時も思ったけどやっぱり右手を全く動かしていなかった、何があったのか気になる。」
洞察力の高さで考察していく、
「あと伝え忘れたわね。狼に警戒する様にって、まぁ四人なら大丈夫だろうし、心配ないか」
立ち止まり貰ったペットボトルのお茶を飲みながら一息つく、
「...皆んなとご飯食べたかったな」
そんな事をほんの少し思いながら自分の家に到着する。
「ただいま」
「お帰り八雲、今日は帰ってくるの遅かったね。」
出迎えたのは雨霧八雲の父である雨霧音也
「ただいまお父さん。ちょっと昔友達だった子と久しぶりに会って話してたの」
「そうだったのか、夜ご飯はピラフとビーフシチューだから手を洗ってきなさい」
「うん。お母さんはまだお仕事?」
「まだホールで練習してると思うよ、コンクールが近いからね。」
「そっか、」
「八雲も規模が小さいとは言え、五月の演奏会に備えて体調整えて万全な状態で臨むんだよ」
「うん。いつも通り、演奏を届ける。そして結果を出す。」
「そうだ、忘れないうちに言っとく、春から生徒さんが増えてレッスンが忙しくなってきたから、今までみたいに一緒にご飯が食べれなくなる。奏には悪いが、もう高校生だし大丈夫だよね。」
「お仕事が忙しいのは仕方ない事だから気にしないでお父さん。それに私にはピアノがある。もっと技術を磨いて、誇りとなれる奏者になるから」
「なら大丈夫だね。それじゃ僕は明日も早いから先に眠る。おやすみ八雲」
「うん。おやすみお父さん。」
八雲の視界からフェードアウトする父音也。一般的な家庭と違い、彼女の家では他愛ない会話が殆どない、それもあるからか先刻の皆んなで遊んだ時間がなお八雲にとっては価値のある瞬間に感じる。
「最後にお父さんお母さんと一緒の思い出、いつだったかな」
過去に想いを馳せる。しかし雨霧八雲は感傷に浸るのを振り切り
「演奏もっと上手くならなきゃ」
自らを鼓舞して諸々明日の準備をし、現実ではない夢の中へと吸い込まれて行った。
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