第6話 ゲームスタート

リビング、調理を再開する空、腕を組む凛、椅子に正座する陸人、椅子に座って様子を伺う奏と八雲。


口を開いたのは陸人だった


「...という事で今日空ん家集まるって話になったんだよ凛」


家に集まってる大まかな流れを説明する。すると凛は腕組みを解除して言う


「お兄ちゃん。そんな大事な事伝え忘れるなんて事普通無いと思うんだけど、その点はどうなの?」


問いに対し

「いや忘れてただ」


「お兄ちゃん?」間髪入れずにもう一度強く訊く、


「うっ、少しだけ驚かせようと思いました。」


「そうだよね。お兄ちゃん...私割と本気で怒ってるからね?」

笑顔で怒っている。可愛らしい顔なのに鋭く兄を睨みつける。


「驚く反応が見たくて、ほんの出来心なんだよ凛。それにほら二人とは初対面だろ?、ちゃんと挨拶した方が...」


「...それもそうだね。お二人共初めまして中学三年大原凛です。先ほどは兄共々お恥ずかしい所お見せしてしまいすみませんでした、よろしくお願いします。」


「高校三年九条奏です。お話は青街くんや大原くんから聞いてました、こちらこそよろしくお願いします」


「高校二年雨霧八雲です。さっきは突然驚かせてしまってごめんなさい、よろしくお願いします。」


「お二人は学年が違うのですね。兄や空さんと同じクラスなのですか?」


「そうそう、俺が九条さんと同じクラスで空と雨霧さんが同じクラスなんだよ」


「私はお兄ちゃんに聞いてません」


口を尖らせる陸人

「そんな事言うなんて兄ちゃんショック」


「お兄ちゃん?黙ってて貰える?」

また笑顔で睨みつける。だが、それに怯まず喋る


「そもそも、その喋り方なんだよ!いつもと違うじゃんか!凛らしくないぞ、そうだよな空?」


「ちょっとお兄ちゃん!本当に黙ってて!」


「確かに凛ちゃんはこんな感じじゃ無かったよね。なんと言うか他人行儀って言うか」


「ち、違うんです空さん。これは」


「まず凛が空さんってのが、変だ」


「お兄ちゃん!いい加減グーで殴るよ!」


「凛ちゃんどうしちゃったの?昔に比べてよそよそしくてなんだか壁を感じるよ...」


心配そうに聞いてくる空を前に大原凛のキャパシティが限界を迎える。


「うぅ、...あーもう!せっかく今までより大人に見られたくて口調とか気をつけてたのに!陸兄ちゃんも空兄ちゃんも鈍感!」


年頃の女の子による心の叫びは止まらない


「だいたい泊まりに行くのもそうだしグッズ持ってきてってのも急過ぎだよ!準備大変だったんだから!」


そう言いながら鞄から何かを取り出す


「あっ、あまかワン」

凛が手に持ったぬいぐるみを見ながらボソッと八雲が呟いた、鞄から次々出てくるあまかワングッズたちに八雲の視線は釘付け


「つまり猫被ってた訳か我が妹よ」

正座を崩し腕を組む陸人


「ごめん。凛ちゃん気づかなくて...」


調理の手を止め申し訳なさそうな顔をする空


「ち、違うの!別に空兄ちゃんが気にする様な事じゃなくて、私が勝手にそう振る舞おうと試してみただけだから!」


決して空のせいでは無いと必死に説明する。さっき鈍感って言ったけれども


「それに久しぶりに清一叔父さんの家に来れて凄く嬉しいし、だから気にしないで空兄ちゃん。むしろ呼んでくれてありがとう!」


満点な笑顔

「凛ちゃん...待っててね。後で凛ちゃんの好きなホットケーキ焼くから!」


中断していた調理を勢いよく再開する

「本当、嬉しいけど私も手伝うよ!」


制服のままリビングに入って行く、すっかり機嫌は治った様子で、そのやり取りを見て陸人が小さな声で


「誘ったの空じゃなくて俺だぞー」...聞こえてないのか、はたまた聞く気がないのか、いずれにせよ嬉しそうに空の横で手伝いをしている。


八雲が痺れを切らして陸人に聞く


「大原さんこのあまかワンたち見せてもらってもいいかしら?」


「ああ良いと思うよ、なぁ凛。」


「あ、はい!どうぞ皆さんご自由に見てください。」


先ほどとは違いこれは聞こえてる模様、テーブルにはぬいぐるみやキーホルダーにクリアファイルと様々なグッズが並ぶ、八雲はキラキラした目でそれらを見る。


「八雲ちゃんはあまかワングッズお弁当箱以外に何か持ってるの?」


奏からの質問

「ううん。私の家はぬいぐるみとかそういうのは置いてないから唯一お弁当箱だけなの」


「へ〜雨霧さん家って結構両親が厳しいとか?」


「...普通じゃないかしら、特段厳しいと感じた事は無いけど」


「あのお弁当箱はどこで買ったの?」


「あれはこの町に来た時に寄ったショッピングモールで偶然見つけて購入したのよ」


「そうなんだ、私も今日お昼に初めて見たけど、本当可愛いね。」


「奏もわかる!?あまかワンのデザイン見た時に凄く惹かれて思わず弁当箱買ってしまったの」


「それわかります。あの弁当箱買われたんですね!私も高校生になったら絶対あれにしたいと思ってたんです〜。」


会話に凛も食いつく、陸人が立ち上がり空の近くに来て耳打ちする。


「なんか、すげー盛り上がってるな」


「今大人気だからあまかワン。グッズ展開の勢い凄いよね。」あまかワンで大いに盛り上がる三人。






そしてそのタイミングで夕食が出来上がった、時刻は十七時、まだ晩御飯には早い時間。なので陸人が提案する。


「そうだ今日人数集まると思ってゲーム持って来たんだ、ちょっと夜飯には時間早いし遊ばない?」


そう言うと自分のカバンからゲーム機とコントローラーを取り出す。奏はそれを聞き少し俯く、チラッと視線を奏に向けた後、空が陸人に耳打ちした


「りっくん。ゲームは無理だよ」


「いや大丈夫、右腕の件だろ?これ片手で遊べるパーティーゲームだから」


はて事情は説明していないが、把握している。おそらく奏から詳細は濁して使えない旨を聞いていたのだろう、陸人はパッケージを見せた、確かに片手で振って遊んでいる様子が描かれている。


「あの、私」奏が申し訳無さそうに口にした時、

陸人が続けて言う


「このゲーム簡単操作で、しかも片手で遊べるから普段やらない人でも直ぐ楽しめるんじゃないかな?、人数も五人対応してるから皆んなで遊べるし」


大原陸人の魅力は此処にある。思いやる心と配慮が有り、人として尊敬すべき思考と行動力に溢れている。...割と騒がしめなのが偶に傷だが、


「私普段ゲームやらないのだけど、それでも大丈夫なら」


八雲が返答し続けて凛も言う


「お兄ちゃんソフト何持って来たの?すごろくの奴?」


「それとスポーツのソフトを持って来た」


「わぁ、テニスとかボウリング出来る奴だね!あれ好き〜」


「じゃあ早速準備しよう、テレビ前のソファで座って待ってて!」


そう皆んなに声をかけ陸人はゲーム機をテレビに接続しソフトを入れた、八雲と凛は促され椅子からソファに移動、


空は奏の肩を叩き声をかける


「ほら九条さんも一緒に、皆んなで遊ぼ」


「う、うん」


「わかんない部分もあるだろうから最初は説明しながらやろう!凛。ボウリングを選択してくれ」


コントローラーを各々に渡し、陸人が解説する。


「殆ど実際に投げる様に遊ぶんだけど、九条さん雨霧さんボウリングやった事はある?」


「私はやった事ないけど、何をするのかは知ってるわ」


すると八雲はコントローラーを持ち腕を振る動作をする。


「幼い時に遊んだ記憶があるから大丈夫だと思う」


奏も左手に持ち動きを真似る。

「そっか!じゃあゲームスタートだ、順番は経験者先にしよう、空一番ね。その後凛で雨霧さん九条さんで最後に俺」


「わかった、開幕からストライク狙う!」


空の第一投、ボールは真ん中のピンに向かって転がっていく、だがヒットして不運にも端と端にピンが残るスプリットになってしまった、


「空、開幕から一番スペア取りづらい形になっちゃったな」


「私もこの形取れた事無いよ〜」


「これはどうすれば残り全部倒せるのかしら?」


「青街くん頑張って!」それぞれ色んな事を言う、


「端に当ててピンでピンを倒す!」


第二投勢い良く投げる。ガターに落ちるか落ちないかのギリギリのラインでピンに当たる直前、

虚しく溝に吸い込まれてしまう、記録は八ピン。


「惜しかったな空〜、あれかすってればスペアの可能性もあったかも!」


「ガターに吸い込まれちゃったけどね。次凛ちゃんの番だよ」


「はい!ストライク狙いますよ〜」


凛の第一投、ボールは低速ながらも真ん中に転がっていく、次々と倒していくが、惜しくも一ピンだけ残ってしまった


「ん〜全部倒れなかった、悔しい」


「惜しかったね凛ちゃん。コントロール良いからスペア狙えそう」


「頑張るね空兄ちゃん!」


二投目は先ほどと同じ速度で真っ直ぐピンに向かい見事スペア、


「やった!次雨霧さんです〜」


「ありがとう妹さん」


陸人が突っ込む

「妹さんって、呼びやすいんだし下の名前で呼べばいいじゃん」


「初対面でいきなり下の名前は馴れ馴れしくないかしら」


奏に視線を送る八雲


「私は出来れば可愛らしい名前だから、凛ちゃんって呼びたいけど八雲ちゃんの言ってる事も一理あると思う」


凛が機嫌よく元気に言う

「凛って気軽に呼んでください!出来れば私も下の名前で仲良くなりたいです。」


「わかったわ、じゃあありがとう凛さん」


「ありがとう凛ちゃん。私も奏って呼んでね!」


「はい!わかりました、八雲さん奏さん!」


「よし、呼び名も纏まったとこだし次の投球行ってみよう」


「任せて、全て倒せば良い訳よね。」


八雲の第一投、とても綺麗なフォームから繰り出されるスピンした球はピン前で急激に曲がりガターへ落ちた、


「あちゃー曲がり過ぎちゃったね。でも初めてでいきなりカーブなんてすげー!」


「惜しい雨霧さん!二投目で取り返そう」


「八雲ちゃん頑張って!」


「八雲さん。変な形になるより全部ある方がスペアの可能性高いから頑張ってください!」


各々応援とか感想とか色々言う、


「次こそ」


二投目、またも綺麗なフォームから球が繰り出された、だが今回も強烈なスピンによりピン前で曲がる。ガター


「ぐっ、またなの!曲げるつもりないのに...」


そこに陸人が補足を入れる


「多分投げる時に手首の動きで回転加わったんだよ、次は手首そのままで投げれば真っ直ぐ行くはず」


「あ、ありがとう大原さん」


「礼には及ばんさー、それにしても俺は苗字なのか」


ぼやいたが、聞こえてない模様

「次奏の番」


「うん。頑張る!」


奏の第一投、利き腕じゃない事もあり、速度が出ない、だが進行方向はピンを捉え緩やかにぶつかる。一本ずつゆっくり倒れていき、なんとまさかのストライク


「九条さん!ストライクだよ」


「奏さん凄い!上手い〜」


「まさか一発目のストライクが俺じゃなくて九条さんだとは...お見事!」


「奏、本当に初めてなの?上手くてびっくりしたわ」


「皆んなありがと!うん。初めてだよ、偶然だと思うから次は無理そうだけど楽しいね。」


笑顔になる奏



「さて、次は俺だな」


陸人の第一投、普段遊んでいるからか又は運動神経が良いからか、ボールは速度をぐんぐん出してピンに当たる。気持ちのいい音が響きボールが通った後には何も残らなかった、


「おっしゃストライク!」ピースをしてハニカム


「さすがりっくん。文句無しの一投だった、けど一投目から全力だとバテるよ〜」


「大原くん凄い!ボールのスピード早かった、ボウリング上手いんだね。」


「どうして真っ直ぐでいて尚且つ速度が出せるのかしら」


「陸兄ちゃんは持ち主だから、遊んでる回数分有利だし、ハンデ無きゃずるい!」


賞賛だったり疑問だったりずると言われたり、


「さっきのストライクと扱い違うんですけど、何故だー!」


部屋全体に陸人の叫びが響きわたる。

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