第3話 一つ屋根の下
着替えや鞄などを手に持ち奏は空に問いかける
「青街くん。本当に街くんの家に行って良いの?」
「それは勿論。叔父青も話をして許可もらってるので大丈夫だよ、むしろ九条さんこそ大丈夫?」
「私は...今はあの家にいたくないかな、思い出がたくさんあって辛いから」
「...わかった、とりあえず叔父に挨拶してからこれからの事考えよう」「うん。ありがとう青街くん。」
そして程なくして田島家に到着、玄関を開けると明かりが点いていて、リビングに椅子に座って書類を眺めている田島清一郎がいた、
シャンプーの香りが部屋に充満して良い香りが広がる中、立ち上がり清一郎は口を開く
「おう、お帰り空。」
「ただいま、清一叔父さん。こちら九条奏さん」
「九条奏です。突然ご自宅に伺ってしまい」
そこまで言い清一郎が言葉を遮った
「ああ話は聞いてるから、そんなかしこまらなくてもいいさ、来てすぐは難しいと思うが、遠慮無く寛いでくれ」
その言葉で奏の緊張した面持ちは緩み笑顔が顔を出す。
「あ、ありがとうございます!」九十度のお辞儀、
その言葉を聞き清一郎は空に話そうとしていた事を説明した
「そういや朝渡した生活費諸々合わせて一万だったから二人じゃ厳しいだろ、これやっぱり財布入れておけよ」清一郎は机に置いた二万を指差し喋るのを続ける。
「んじゃ、明日早いんでもう寝るけど、一週間とはいえ何かあったら連絡...ってこれは朝も言ったか」
「うん。了解、本当色々ありがと清一叔父さん。困ったらすぐ連絡する。」
それを聞き清一郎は空に小声で耳打ちする。
「随分礼儀正しく可愛らしい子じゃねぇか、しっかり支えてやれよ」
空は強く頷いた、1階寝室に清一郎が姿を消し、奏は口を開く
「聞いてた通りとっても優しい方だね。」
「うん。喋りはぶっきらぼうだけど、思いやりがあって頼りになるから...尊敬してる。」
「そういえば、九条さん。お腹空いてない?昼から何も食べてないんじゃないかと思って」
そう言うと空は奏を椅子に案内してから、荷物をリビングに置きキッチンに入る。
「あ、うん。食べてない」
「ちょっと時間は遅いけど、とりあえず夜ご飯食べない?話もご飯食べながらすればいいし」
それを聞き奏は少し考える素振りを見せる。そして受け答えた
「今はまだお腹空いてないかな...それに明日学校があるし」
「あ...そっか、もう十時過ぎてるし明日の準備して寝た方がいいよね。そしたら急いで家の中案内するよ」
「ありがとう、何から何までごめんね。」
田島家は屋上付き二階建てで、一階にトイレ、浴室、リビング、部屋が一つあり、二階に部屋が二つと屋上にでる階段がある。
空は使われていない二階の部屋へ奏を案内した、
「ここの部屋何も無いけど、自由に使って、敷布団と毛布持ってくる。あっ、あと机も必要だよね。待ってて」
その部屋は六畳ほどと言った所か、何も無い部屋は殺風景でどこか寂しげな印象だが、奏は安堵の表情を浮かべる
「私の事してくれてるんだし手伝う、ありがとう青街くん!」
そして二階空の部屋から客人用の敷き布団を担ぎ毛布を抱え持ち運ぶ、奏は空が移動した後に小さめのテーブルを片手で運ぶ、
運び終わり一階トイレと浴室に移動、説明を終え空が提案する
「明日も学校だし、先シャワーどうぞ」
奏はやんわり否定
「えっと、色々気を回してもらって悪いから青街くん先入って」
「気にしなくて良いのに、...それじゃあ先浴びちゃうね。」
そう言うと空は浴室へと向かう、奏は内心ほっとしていた、今このタイミングで右手が動かない事を知られて心配をかけたくない、
「今日一日で色々あり過ぎたし、明日きちんと打ちあけよう」そう呟き殺風景な部屋に戻り、持参した荷物から明日の準備をする。
十分ほど経ち、部屋まで香るシャンプーの匂い、
「九条さん。お待たせ、次どうぞ」
階段を上がり歯ブラシを持ちながら空が促す
「うん。ありがとう、使わせてもらうね。」
そして入れ替わりで奏は浴室へ、空は自分の部屋に戻り明日の準備
「学校あるの完全に忘れてた、それぐらい立て続けに色々あったもんな」
歯ブラシを動かしながら考える。
「これから先叔父さんが支えてくれた様に、僕も九条さんを支えていきたい、父さん母さん。自分に出来る事やってみるよ」
一方奏は慣れない左腕のみでのシャワーに苦戦しながら物思いに耽っていた
「家にいないだけで、全然辛さ違うな、全部青街くんのおかげだ、...ありがとう青街くん。」
タオルで体を拭きパジャマを着ていく、そして空の部屋へ向かい声をかけた
「青街くんシャワーありがとう」
「いえいえ、じゃあそろそろ今日は寝ましょうか、明日朝ご飯出来た時間に起こしますね。」
「そんな、悪いよ!何時に起きる予定なの?その時間に私も一緒に起きるから」
「わかりました、そしたら7時にしましょう。それじゃお休みなさい九条さん。」
「うん。歯磨きで洗面所借りるね。それじゃお休みなさい青街くん。...」
奏はそう言って階段を降りる途中小さく口にした
「お休みなさいか...なんだか嬉しいな」
翌朝7時、仕掛けていたアラームが鳴り奏は起床した。階段を降りると、洗面所で顔を洗っている空の姿が、
「おはよう青街くん。」
「おはよう九条さん。よく眠れた?」
「うん。寝れないかなって思ってたけど、気づいたら眠ってたみたい」
「それは良かった!、叔父さん朝早く出発しちゃったから、これから一週間よろしくね。」
「うん。こちらこそよろしく!」
洗い終えリビングでエプロンをつけた空は昨日食べた味噌汁の鍋を確認し火をつけ、
冷蔵庫から卵とハムに梅干しと鰹節を取り出した、混ぜて小皿に梅鰹を仕上げフライパンにサラダ油をひきハムを乗せ生卵を落とし加熱、
野菜室からカット野菜を取り出し木のボウルに投入、更に缶詰のシーチキンにコーンを入れ和える。
そこに空お手製特製オリジナルドレッシングをかけ、ミニトマトを添えたらサラダの完成。
炊飯器のご飯をよそい味噌汁をお椀に、香ばしい匂いのハムエッグを皿に盛り付けテーブルの上に運ぶ
「お待たせ、簡単なのでごめんね。」
目の前に広がる温かなご飯を見て奏は意を決する。
「青街くんこんなに美味しそうなご飯嬉しい...でもね。聞いて欲しいんだけど、」
そこまで言い出来るだけ表情を崩さない様に心に決め言い放つ
「私今右手が動かないんだ、だから食べるの下手かもしれない、左手で良い?」
精一杯伝える。たどたどしい言葉だったかもしれない、空はその告白を受け間が一時あった後答える
「そうだったんだ...打ちあけてくれてありがとう、左じゃ箸持ちづらいよね。待っててスプーンとフォーク用意するよ」
優しい言葉に感情が揺さぶられる。奏の頬を雫がつたい若干濡れた、それを急いで拭い
「ありがと...ありがとう」異変を断定出来るレベルではなかったが、何となく違和感に気づいていた、だが、突き止めようとせず自ら打ちあけてくれるのを待っていたのだ。
「じゃあ食べよ!頂きます。」笑顔の空
「頂きます!」笑顔の奏
「んっ!すっごく美味しい!」
奏の絶賛が部屋に響き渡る。
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