ペルソナ・メディア
「あ、すみませ――」
「あ」
ないわ~って思ったよね。一昔、二昔前ほど前のドラマか少女マンガかっていう使い古されたテンプレートかなって。図書館や本屋で2人が同じ本に手をかけて、「あっ」てなるところからの出会いってパターン。
俺は今、そのテンプレを見事に再現していた。本棚を前にそのタイトルだけを追っていると本当に周りの状況が見えなくなっていたし、隣に人がいるなんてことにも全然気付かなかった。で、何が問題だったかって、会った人と、本のタイトル。
「議長サン」
「山口じゃないか」
「お久し振りデス」
ぎこちなく、ぺこりと会釈をする。しかし本当に気まずい。最近では朝霞クンや松岡クンと一緒に4人でパーティーをしたり~っていう機会はあったけど、議長サンと2人って基本的に間が持たないんだよね~。
そして、議長サンはご丁寧にもその本を間に持ってさてどうすると話を進めてくれるのだ。こんなときに議長の仕事をしなくたっていいのにネ。本のタイトルは、『「友情」とは何か ~人付き合いに疲れたら~』。
「で、本だけど」
「議長サンが持ってってヨ。うん」
「うちは買っても他の文献を先に読むし、しばらくは積むだろうから、どうぞ」
「いや~、ほら、俺ってステージスターだし~、別に議長サンほどマジな用事ジャないんだよね~。だからどうぞ~、持ってって~」
「うちにとっては卒論の参考文献だけど、経済学部がこんな本に何の用事なんだか」
「言いたいことがあるなら言ってよね~、前みたく~」
「お前のその“ステージスター”ってのは作られたキャラクターであって、そういうラベルを貼っただけの物だろう。ステージスターっていう売り物じゃない、地の自分と向き合ってくれる存在でも探してるのか」
「議長サンのそういうトコ、ホント大っ嫌い」
この「大っ嫌い」というのは言葉通りの悪い意味でもそうだけど、いい意味でもあった。俺の知ってる議長サンだっていう安心感とか。議長サンは言葉をオブラートに包むということをしない。それで人を傷つけようが何しようがお構いなしなんだ。少なくとも俺にはそう見える。
「議長サンの言ってることは半分正解、半分ハズレ。他の人は別にどうでもいい。俺は朝霞クンとの関係を悩んでるだけだから」
「ふーん」
「部活を引退してステージスターでなくなった俺の価値だとか、そもそも友情とはという問題。今のところ俺が一方的に友達だって押し通してるけど、朝霞クンの気持ちはまだ見えないからね。そもそも、部活に絡まない朝霞クンは、俺のよく知ってる朝霞Pとは別人。付き合い方もそれまでとは変わるしまた新たに関係を構築しなきゃいけないんだよ。3年目にして友達をゼロから始めてるの」
「お前、めんどくさいな」
「ど~も」
「ただ、言ってることはわかる。うちはそれを対全員でやっているからな」
話していて思ったのは、俺も議長サンも卑屈になり始めたらキリがないなっていうこと。まあ、だからこそ去年衝突してたんだろうけど。それはそうと、俺が朝霞クンという個人に対して悩んでるようなことを、友達全体に対して考えてるっていう議長サンの闇だ。
言ってしまえば、周りにいる全員を信用してないという風にも解釈出来るから。もしかしたら議長サンの完璧主義と豆腐メンタルが邪魔をしてるのかも。ひとつでも傷が付いたら再起不能になるから、すべての物事に対して期待せず、予防線を張っておかなければ耐えられないのかもしれない。
「……議長サンこそ本が要るじゃない」
「本当は読みたくないんだ、考えすぎて過呼吸起こすし」
「前から言ってるけど、心療内科行きなよ」
「費用と足の問題があるし、鬱とかじゃないのに行くのも」
「鬱以外にもあるからね、精神疾病って」
「お前の朝霞依存みたいなことか」
「何言ってるの、笑わせないでよ。自分こそ、高崎クンにでも駆け込んだらいいジャナイ。それとも野坂クン?」
「お前こそ笑わせるな、ヤンデレが」
「自分はメンヘラでしょ~?」
俺と議長サンの関係は、言うなれば「最も信頼出来る敵」なのかもしれない。今では少し関係も軟化したけど基本敵対してるし、行動パターンや何かも下手すれば味方よりもわかりきってる。だからこそ、慣れ合いの友達よりは核心を突くことに躊躇がない。
「それはそうと議長サン、重い話で気分沈んじゃったし、このままデートしない?」
「ふざけた表現をするな」
「ゴメ~ン、プリンが美味しいお店を知ってるから一緒に行こ~って意味だったんだけど~。それともタルトにする~?」
「ならそう言えばよかったんだ。もちろん行くぞ」
「じゃあ決まり~」
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