P候補生の精神修行

「うう、Kちゃん先輩、緊張しますー」

「肩の力抜いて。リラックスリラックス」


 今日はKちゃん先輩に連れられて執筆修行とか、プロデューサー修行に出ている。何か、書くこととかステージのことならこの人に聞いておけば間違いないっていう人をKちゃん先輩が紹介してくれるとかで、現在に至る。

 ファミレスの一席で、緊張しながらその人を待つ。だってどんなすごい人が来るんだろうって。それにあたし本当にずぶの素人だから、何をどう教わったらいいのかすらよくわかってないし。


「あっ、相馬さん。こんにちは。ゴメン、待った?」

「いえ、アタシたちも来たばっかりです」

「えっ、あっ、朝霞先輩!」

「何だ、プロデューサー修行をしたいって、ユキだったのか。まあそうか。青女の今の1年生だったらPっぽいのはサドニナよりユキだよな」

「えーと、よろしくお願いします」


 現場に現れたのは星ヶ丘の朝霞先輩。ゲンゴローから話には聞いてるけど、朝霞先輩はそれこそ本当に鬼のプロデューサーとまで呼ばれた人で、ステージの台本を書くことに命を懸けてたような人。

 実際に書かれた台本から出来上がるステージも、みんなの能力を最大限に引き出せて、かつ見ている人も楽しいっていうもの。ステージだけじゃなくて、ラジオドラマの脚本も担当していたとは聞いた。


「えっと、何か食べよっか。って言うか俺が腹減ってて。食べていい?」

「どうぞどうぞ。ユキちゃん、アタシたちも何か食べようか」

「食べましょう食べましょう」


 朝霞先輩はカルボナーラを、あたしとKちゃん先輩はケーキを頼んで、人数分のドリンクバーも。朝霞先輩は、自分が食べている間にあたしの現状と、台本を書く上での悩みを一方的に話して愚痴ってくれればいいと言ってフォークを握った。

 台本は書き始めたばかりで、枠は去年と同じであること。大筋も去年から大きく変えないけど、企画はやっぱり新しく用意したいということ。それと、悩みは基本的にサドニナのこと。ギリギリになるまで火がつかないから。


「ごちそうさまでした。で、ステージの話な。枠や台本の大筋があって、それが青女さんの伝統だったら大きく変える必要は特にない。植物園側からこうしてくれって言われれば話は別だけど、そうでないなら」

「わー、よかったー」

「よかったねユキちゃん」

「企画は、やっぱり子供が主な層だったらEテレを見たり、子供が多いところに実際に足を運ぶといいと思う。身近に保育士さんや幼稚園の先生がいればそういう人に話を聞いたり」

「ふむふむ」

「台本を書くとなったら、自分が止まっていて得られる情報量には限界がある。だから、やっぱり自分の体と感覚で引き出しの中身を稼ぎに行かないといけない」


 ここまでのことは、Kちゃん先輩と一緒になってよかったねーって確認し合うことも出来ている。


「ユキは目的のために遠出するのを厭わない方?」

「あ、それは大丈夫な方です。こないだも図書館の建築仕様を見に緑風と山浪に行って。今度ハンドメイドイベントに行きます」

「そういやミドリと付き合い始めたんだっけ。図書館のそれって建築デートって聞いたけど」

「えー! 3年生の先輩にも伝わってたんですかー!?」

「あ、たまたま高木君と会う機会があって、俺はそのときに聞いただけで3年生全体にはまだ伝わってないと思うよ」


 あー恥ずかしい。これから会う人みんなに言われ続けるのかな! って言うかタカティ~…! 何をどこからどこまで喋ってるの~! っと、そうじゃないそうじゃない、あたしは今修行中であって。


「で、サドニナですよ朝霞先輩!」

「まあなー……台本書いてるときに周りでちょろちょろしてる奴は殴っていいと思ってるからなあ俺は」

「あの、一応女子なので」

「そうだよなあ。俺は山口を殴ることで解決してきたから女子の扱いとなると正直お手上げだ」

「でもKちゃん先輩サドニナに手出してますよね」

「ユキちゃん、しーっ!」

「あれっ、相馬さんて意外に武闘派? 頭脳派だとばかり思ってたけど」

「あっ、えーと~……ほっ、ほら朝霞先輩っ、アタシのことはいいんでユキちゃんの悩みを聞いてあげてください?」

「あー、でも対策委員の3人娘は喧嘩っ早い的な話は聞いたことがあるな。戸田は短気だしわかるけど」

「朝霞せんぱーい、えーと、ユキちゃんの話をですねー…?」


 結局、サドニナのことに関してはインターフェイスで流行ってるっていう謎覚醒に賭けるか、サドニナを上手く調教しているこーた先輩に扱い方を聞くということで落ち着いた。2年生なんてまだまだ意識が出来上がる途中。周りに感化されることもあるだろうから自分がやるべきことをやっていたらどうかな、と。


「あまり力になれなかったけど、頑張って。時間作って見に行くし。自分もステージに立ちながらっていうのはただ書くだけより難しいだろうけど」

「頑張ります~」

「あと、良ければイベントに携わる人として卒論の参考にインタビューをさせてもらえると」

「えっ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る