決断のスピード
「こんにちは」
「あれっ、アオ。どうしたの?」
「む、高山か」
今は繁忙期に入る少し前で、時間にはまだ余裕がある。本来ここの施設に用事のないはずの高山が来ているということは、ここにいる個人に対する用件だと考えるのが自然だろう。まあ、大方同じサークルの川北だろうが。
「学生課の張り紙を見ました。単刀直入に言えば、ダブルワークを始めようと思っていて」
「そういうことなら事務所で聞こう」
高山を事務所に通し、細かい話を聞いていく。高山と言えば、青山さんがバイトをしていた写真屋(カメラ屋とも言うのか?)でバイトをしているはずだ。スタジオ撮影の子供には泣かれるが、写真編集や撮影の腕はいいと。
以前春山さんが冗談めいて情報センターのスタッフになる気はないかと勧誘をしていたが、まさか本当に来るとは。いや、今から思えばあれは冗談だったのかどうかも怪しい。ダブルワークからでもいいとは言っていたが。
センターはいつだって人不足だ。今まではオレと春山さんが缶詰になることで誤魔化してきたが、春山さんは卒業でいなくなったし、土田は当てにならん。烏丸は歴が浅い上に4年で忙しくなる。自称研修生を省くと、川北にかかる負担は大きい。
「カメラ屋のバイトはどうした」
「青山さんがいなくなるので募集をかけたら思いがけずいっぱい来て。経験者のパートさんも入ってきたので私のシフトが緩くなりそうなんです」
「そうなのか。では、カメラ屋のバイトは続けつつ、センターでダブルワークをしたいと」
「そういうことになります」
アルバイトの面接はバイトリーダーに一任されていた。本来は那須田所長という人がいるのだが、あの人は「誰をどのように採用するかは学生スタッフさんにおまかせします」と代々のリーダーに面接を投げ、判子を押すだけの係なのだ。
現に、川北や烏丸は春山さんの面談を受け、春山さんの一存で合否が決められて今現在に至っている。仮に今ここで高山をどうするかとか、自称研修生の手を借りねばならんという状況が来れば、その決定権はオレにある。
「学科は確か都市環境だったな」
「はい」
「お前の場合、B番に関しては多少教えれば問題なしと見ていいだろう。しかし、A番適性が問題になってくる」
「あー……わかります。アオが受付って感じじゃないもんなあ」
「私はミドリみたく愛想ばっかり良くはないから」
「何かチクッときたなー」
「やっぱり受付は媚びを売らないといけないんですか」
「カメラ屋と違って一般客相手ではないからそこまで愛想ばっかり振りまく必要もないが、一応な。現にオレも春山さんも愛想を振りまいたことなどない」
「センターが怖いって言われる原因ですもんねー。でも、どっちかに適性があるんなら問題ないんじゃないですか? 他の人でカバーできますし」
しかしながら、A番適性のことをお前が言うなというのはご尤もだろう。A番適性のなさからB番ばかりに入っているオレという例がある。それに、自称研修生の話にはなるが、B番適性皆無でA番はまあやれんこともないという奴も。
「実のところ、ステータスをB番に極振りの奴がいても問題はない。オレもいてあと1年だからな」
「えっ!? 林原さんいなくなっちゃうんですか!?」
「来年の今頃にはもうおらんぞ」
「えー!? ウソだー! ちょっと何とかなりませんか!? 2年生の先輩が実質いないようなものなのにー!」
「まあ、川北はわーわーウルサいが、センターは人手不足でな」
ある程度能力があれば、来てもらうに越したことはないのだ。受付はともかく、B番の能力のある自宅生というのは本当にありがたい。長期休暇のシフトの回し方もこれで少しは何とかなるかもしれない。
「一応、履修登録からが繁忙期に入る。それまでに研修を兼ねて一通りの仕事を教えるから来て欲しい。それと、スタッフは各々のマグカップと飲み物を持ち込んでいる。お前も何か用意するといいだろう」
「採用ということでいいんですね」
「ああ、採用だ。カメラ屋との兼ね合いもあるだろうからシフト希望は早めに出してくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
「って言うかそれくらい即決めれるのにカナコさんはどうして……」
「アイツはゼロどころかマイナスからスタートしている。Bが0でもAが100になればスタッフ登用を考えんこともない」
しかし、春山さんからも呪いのように釘を差されたが、自称研修生の処遇をどうするかはそろそろ本格的に考えねばならん時に来たようだ。
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