お礼参りは電撃戦
「おーし、粗方集合したね。それじゃあ資材集めるよ」
今日はつばめをリーダーに、ホームセンターでの買い物。今日これから行われるのは緑ヶ丘へのお礼参りだ。お礼参りと言っても襲撃などではない。ちゃんと、ありがとうございましたという方のお礼参り。
昨日、果林から召集があって各大学の代表者、主にミキサーが緑ヶ丘大学のサークル室に集まった。そこで行われたのが使っていない機材の分配だったのだ。緑ヶ丘は顧問の関係で機材がよくお下がりでもらえるんだけど、如何せん使わないからと。
処分をするにも捨てると後が面倒だから、どうせなら他大学に渡して使ってもらう方がいいだろうと。そして俺たちは各々の希望で好きな機材を持ち帰り、緑ヶ丘は部屋が広くなって万々歳。これでめでたしめでたしかと思われたが。
「それでつばめ、何だってこんなところに」
「果林がさ、広くなったトコにイス置きたいって言ってたじゃん。だからイスを作る」
「すげーな、買うんじゃないのかよ」
「朝霞班に買うって概念ないから。使える物はその辺の枝でも拾って使うからね」
「朝霞さんマジパねえ」
リーダーのつばめとDIYガチ勢の真司、それからステージの大道具制作などが得意な直クンが主にイスの製作を行う。設計はツカサが担当。ちなみに、1年のミドリが監修した図面がいくつかあるらしい。お察しかと思いますが、俺はガヤです。
要は、山ほど機材をもらったのにもらいっぱなしというのも申し訳ないから何かお返ししようということだ。果林は「うちが助けてもらってるくらいだから気にしないで」と言っていたらしいけど、それでつばめの気が済まなかった。
真司と直クンも同じ考えだったようだ。真司はつばめの発案に進んで車を出してくれているし、直クンは機材のお礼ついでにそれとなくLに探りを入れて、どんなイスを置きたいかのリサーチまでしてくれたと。マジでLに直クンはもったいなさすぎるだろ。付き合い始めたとか俺が許さない。
「昨日それとなくLに聞いてみたんだけど、理想としては3人くらいが座れて、中に掃除機を入れるスペースのあるイスがあればいいのになーって。L、見えるところに物を置きたくないそうだから」
「あー、部屋の見栄えとか、掃除しにくいから的なことか」
「つばめ、そしたらこのボックス型の図案に従う感じになるのかな。あ、ミドリにしかわからないこだわりはスルーしてもらって大丈夫だから」
「いや、出来るだけ図面に従うよ。ガチ勢の設計だし。よーし行くぞー」
「おー!」
――と、出陣してからは早かった。俺は本当について歩いてるだけで、つばめと真司があれよあれよと物事を進めてしまうのだ。この間直クンはLとコンタクトをとって緑ヶ丘に乗り込める日を確認してくれている。
現地でバタバタする時間を極力減らしたいからと、材木の下拵えなんかも一気にやってしまう。あとは組み立てれば完成というところまで来た。俺にはつばめと真司が何をやっているのか全くわからなかったぜ!
「つばめ、ハマちゃん、ボクらが着く大体の時間を教えてくれたらその頃にサークル室の鍵開けるって」
「マジで! ナイス直クン! よっしゃハマ男、乗り込むよ」
「おうよ、行くぜつばみ!」
「……何だかなー」
「何ボケッとしてんだ野坂。はい、アンタ荷物持ちね」
「えっ、てか重っ!」
「重くない。さー行こー」
「おー」
有無を言わさず荷物持ちに任命されてしまったけれど、本当にそれくらいしか出来ることがないからなあ。これもガヤの運命か。こんなことだから俺たち向島(律を除く)は青女の愉快な下僕と呼ばれるんだな、わかったぜ!
きっと俺は現地でも何も出来ることはなくつばめと真司の電光石火のような組み立て現場をボケーッと眺めていることになるのだろう。そもそも、俺が呼ばれた意味もわからなくなりつつある。いや、荷物持ちという大役をいただけて嬉しいです!
「マーシー、荷物たくさん持ってくれてるけど重くない? ボクも少し持とうか」
「いえ、俺が持たせていただきます!」
「でも、大丈夫?」
「あの、いや、マジでこれくらいしか出来ないんで……何かすみません」
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