ハイリターンで行く道

「は、林原さん……」

「どうした川北、顔面蒼白だぞ」

「こないだ一緒に宝くじ買ったじゃないですかー」

「ああ、あったなそう言えば」


 先月、川北と飯を食いに行った帰りのことだ。チャンスセンターの前を通りかかるとジャンボ宝くじの宣伝をしていたから、何の気なしに買ってみるかと2人で少し買ったのだ。オレはジャンボ宝くじを、川北はミニの方をそれぞれ6千円ずつ。

 外れても1日のバイトがなかったことになるだけだし、という設定での6千円だ。それにバラにせよ連番にせよ20枚買えば600円は戻ってくる。軽い気持ちで遊ぶかと。しかし、そんなことがあったのも少し忘れていた。


「抽選があったみたいなんで見てみたんですよー、なんか俺、数字がパってなってわかんなくなっちゃって、わーって、ひゃーって」

「いいから落ち着け」

「とにかく、一緒に見てもらっていいですかー?」

「ああ、構わんが」


 くじを握る川北の手元がガタガタ震えている。先に確認をしていたようだが、その結果がもしかするのか。川北が買ったのはミニの方だから、その画面を開き1枚1枚確認していく。


「この2枚が6等300円だな」

「そうですよね」

「で、これが5等3千円」

「ですよねえ」

「で、これが……オレの目には1等前後賞の500万に見える」

「そうですよねえ!」

「足して、500万3600円か」

「これが本当ならすごいですよねー。もし大学院に行きたくなっても学費や生活費の心配がちょっと軽くなりますもんねー……」


 ――と、出てきた最初の使い道を見るとそこまで心配する必要もなさそうだと。川北のことだから工芸品や何かにパッと使ってしまいそうにも見えたが、その辺は案外と言っては失礼かもしれんが、しっかりしているようだ。

 と言うか、現実味がなさすぎてまだ何に使いたいのかが定まってないだけという可能性もゼロではないだろう。これでオレや春山さんと言ったタイプの人間なら即趣味に全振りしかねんが。


「林原さんが買ったのは当たってますかねー」

「さあ。宝くじなど当たると思って買う物でもないからな。6000円しか買ってない、つまりローリスクで戻って来るのは精々600円だろう」

「見てみましょうよせっかくですし」

「どこにしまったかな。ああ、あった」


 先程と同じように1枚1枚確認して、当たり外れを分けていく。さすがに高額当選ではなかったが、バレンタイン賞というヤツで2万が当たった。オレの当選金額は7等300円が2枚とバレンタイン賞で、正味20600円になる。


「6000円で2万はまあ悪くないぞ」

「そうですよね、十分ですよね」

「川北、当選金を引き換えたら少しグレードの高い焼き肉にでも行くか」

「えっ、もしかしてその2万で!? いやいやいやそこは俺が」

「お前はそうやって周りを気遣うことで気も金もすり減らすだろう。本当に使いたい道が出来るまでは触らずに取っておけ。時として、道は金で切り開かねばならんこともある」

「ありがとうございます」


 目先のことで言えば大学院の進学。それだけではなく、将来的にまとまった金が必要になることが出てくるかもしれない。勢いや気遣いで少しずつ削られて、いざというときになくなってましたとなっては本末転倒だ。


「でも、何か人生の運を使い切っちゃったような感じがしますー」

「フッ。その点オレは運を使い切ってはおらんし、運以外の要素で成る物は己の力で引き寄せるのみだ」

「宝くじ当たったの、顔でバレませんかね、大丈夫ですかね」

「純で可愛い川北だと春山さんを欺けている以上、心配なかろう。童貞の振りと同じ要領で問題ない」

「あの要領でいいならいくらでも出来ますけどー。でも焼き肉楽しみですー。滅多に行けないじゃないですか焼き肉なんて」

「春山さんがいなくなって初めて回す繁忙期だからな。スタミナを付けるのか慰労会かは知らんが、そんなようなことだ」

「あっはい」


 自分で言って思い出したが、次の繁忙期はヌシがいないのか。さて、どう回したものか。とりあえず、センタースタッフ募集の張り紙を増やしてはならんものか学生課にでも聞いてみるか?

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