やけにクリエイティブに
「……カズ、どうしたのこの大量の挽肉。それと高崎クンは」
「バイト中にすげー腹が立ったのでこねてやろうと思って。高ピーは消費要員」
「俺はハンバーグ作るから来いって言われて来た」
ムカついたから挽肉をこねるっていう意味がわからないが、ヤケクソじゃねえけど、力を入れて挽肉をこねることで多少のストレス発散にはなるのだろう。ちなみに、違うときにはストレス発散でうどんを作ってたとは聞く。
ただ、その挽肉の量が尋常じゃねえ。まあ、ハンバーグを作るにしてもある程度は冷凍保存出来るし問題ないっちゃ問題ないのかもしれねえが。この手のことに一番強いのは伊東だから、外野が余計な口は出さない。
「あと、高ピーがいた方が一方的にお前に当たらなくて済むかなって思った。あ、高ピーゴメンね、こんなことで呼び出して」
「いや、お互いさまだ。あと、俺は純粋にお前のハンバーグを楽しみにして来てる」
「じゃあ張り切って作らないとね」
そこからは基本通りにハンバーグのタネを作っていく。ただ、こねるのと空気を抜くのは少々力が入っていたような気がしないでもないけど。まあ、伊東が作るモンだし味に間違いはないだろう。
ちなみにその間俺と宮ちゃんは、成績の話をしたり就活の話をしたり。来期の履修の話もあったかな。意外にもすげえ真面目に大学生っぽいことを喋ってたけど面白くねえから全部カットだろう。
「出来たよー」
「うわ、めちゃ美味そう。……伊東、飲んでいいか」
「俺はいいよ」
「あっ、それ高崎クン帰る気ない的なことじゃん! しょーがないなあ、高崎クンがマイクラ齧ったことあるとわかった以上一緒にやるヤツですよね!」
「――とのことだから、飲んでもらっていいよ」
「うし、じゃあいただきます」
ハンバーグにビールとかいう最高のヤツだ。伊東の用意のいいところは、しっかりと飯までつけてくれるところだ。パンオアライスのライスだ。当然のようにスープもつけてくるあたり手慣れすぎていて、ストレス発散の域を超えている。
「ところで、お前は何にそんな腹立てたんだ」
「バイト中さ、インフル予防のこともあるし花粉症もあるからマスクしてたんだって」
「えっ、カズがマスク覚えたの!?」
「そーなんだよ、あんま好きじゃないけどしょーがないじゃんな。そしたらさ、昼間から酒飲んでたのか知んねーけどクソオヤジが絡んで来やがってさ」
「うわ、めんどくせえ」
「でしょ? 客商売なのにマスクなんかしてんなとか言い出したワケよ。最終的には店長が何とかしてくれたんだけど後になっていやマジ意味わかんねーよってなって腹立ってさ」
「感染症の予防とか、花粉症もあるなら衛生面もあるだろうから絶対すんなっつーワケにはいかねえだろ」
「で、ハンバーグ?」
「で、ハンバーグ」
伊東の店では酔っぱらいのクソオヤジのいちゃもんは完全スルーだったようで、それでも念のため店の壁には「従業員もマスクするけどよろしく」的な張り紙が出されたらしい。
このご時世、何をしたってしなくたって文句を言う奴は言って来る。いちゃもんに過剰に反応するだけじゃなくて、その質を見て、それに応じた対応の仕方をしていかなければならないのだ。非常にめんどくせえが。
「あっ、そうだ高ピー。高ピーのお土産用にハンバーグ包んどいたから。帰りに持ってってね」
「サンキュ。至れり尽くせりだな」
「当たり前だよ、誰の嫁だと思ってんの!」
「知るかよ」
「と言うか、誰かの嫁だった覚えはないんですけど」
「そんな公式関係ないっていつも言ってるでしょ!」
まあ安定の夫婦漫才だ。
「つかよ伊東」
「なに?」
「お前、よくストレス発散でうどんこねたり挽肉こねたりしてるけど、なんで料理に行きつくんだ?」
「うーん、多分料理してると完成に向かってイメージするでしょ、先のことを。料理してる時は前だけ見てられるんだよね、俺の場合は。それに、食べちゃえば終わりだから」
「なるほど。一理ある。お前くらい周りを見て気遣う奴だと、敢えて視野を狭めてるという風にも解釈できるな。視野っつーか世界っつーか」
「まあなんか、美味かったらいっか的な?」
元がストレスの産物だろうが美味いモンは美味いし食っちまえば確かになくなる。いい発散法を知ってんな、よく辿り着いたなと素直に感心する。誰にも迷惑は現状かかってねえし。むやみやたら当たり散らされるより遥かに建築的だ。
「そうだ高ピー、ロールケーキあるけど食べる?」
「食う」
「じゃあ、食後に出すね」
「本当に至れり尽くせりだな」
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