舞台転換の裏側は

「よーうミドリ、来たべ」

「あ、エージ。タカティは?」

「部屋の掃除させてるっていう」


 今日はインターフェイスの1年生で集まってタカティの誕生会が開かれることになっっている。厳密に言えば誕生日は昨日なんだけど、昨日は緑ヶ丘の方で誕生会だったから、俺たちは今日やろうってことになって。

 昨日からタカティの部屋にいるエージが会場設営や準備をしてくれている。台所に立つ姿に何故か違和感がない。家主のタカティは、昨日のパーティーで少し散らかった部屋の掃除と、洗濯物の片付けをしているそうだ。


「それでさエージ、これはどこに置いたらいいかな」

「どこでもいーべ」

「じゃあここに置いとくね。って言うか昨日タカティにあげた6ケースはどうなったの?」

「ああ、アイツのおやつ分以外全部捌けた」

「ええー……」


 俺は今日もプレッツェルをタカティの部屋に運んでくることになった。元々ユキちゃんとの連名で買った物を運ぶ係でもあったし、ついでだからって。ただ、昨日のプレッツェルもあるのにまだ増やすのかと思ったら、なくなったって! さすがすぎる。


「カズ先輩がさ、別ルートで入手したとか言う同じプレッツェルをここで分けようっつって持ってきたっていう」

「どこから突っ込んでいいのかわからないなあ」

「で、それを砕いて揚げ物の衣にしたり、ただ食ってても飽きるからっつってフォンデュ鍋を持ってきたんだべ。で、それがすげー美味くて瞬殺したっていう」

「なるほど、フォンデュにする発想はなかった」

「で、せっかくだし今日もやんべっつってカズ先輩からレシピもらって準備してんのがこれな」


 エージが今作っているのはチーズフォンデュ。他にはチョコやキャラメルを用意するそうだ。フォンデュ鍋はカズ先輩が置いてってくれたものをそのまま借りていて、地べたでやるのも難だからと折りたたみの小さな机も貸してくれてるって。

 インターフェイスは女の子が多いし、きっとみんな喜んでくれるだろうなと思う。それに、そのまま食べるよりは絶対に飽きないし。チョコやキャラメルっていう甘いものだけじゃなくてチーズがしょっぱいから、全然イケる。


「カズ先輩すごすぎでしょ」

「まあ、あの人はすでに主夫の域に達してるっていうな。節分豆もなんかすげー化けさせてたっていう」

「それは俺も食べたかったなー」

「どっかその辺ないか? アイツの非常食がうんたらとか言ってた気がするべ」

「あっ、ミドリ。来てたの」

「うん。お邪魔してます。タカティは部屋の片付けしてるんでしょ?」

「そうだね。見てよミドリ、俺の部屋にもとうとう机が」

「わー、コンパクトな折りたたみテーブルだねー」

「お前それカズ先輩が貸してくれてるヤツだべ! お前がドヤ顔すんなっていう」

「えっ、伊東先輩一人暮らしそろそろ終わるし、俺が欲しいならあげるって言ってたよ」


 タカティとエージが折りたたみテーブルを巡ってやいやいとケンカをしてる。タカティはもうもらったものだと思っているみたいだけど、エージはまだ借り物だと思っている様子。

 大きさとしてはノートパソコンとお茶を置いて作業が出来そうなくらいの机。3つのフォンデュ鍋と、ちょっとした具材くらいなら置けるかな。俺の見た感じだと、1500円から2000円くらいって感じ。

 それはそうと、今日も今日でインターフェイスの1年生が何だかんだ10人近く来ることになっている。タカティは部屋の片付けに精を出しているようだけど、エージはそれをとことん信用していない。


「お前、ちゃんと部屋片付いたんだろうな」

「大丈夫だよ」

「掃除機は」

「まだだけど」

「早くかけろっていう。俺はまだソース作るのに忙しいんだっていう」

「はーい」


 もしかしなくても早く来すぎてしまったらしい俺は、何も出来ないまま台所でエージの作業を見守るだけ。って言うか、タカティの部屋の中、暖房ついてる? 普通なら、ひんやりしてる台所に部屋からのあったかい空気が流れ込んできそうだけど。


「ねえエージ、寒くない?」

「俺は火を扱ってるからまだマシだっていう」

「あ、そっか」

「ああ、アイツドケチだから普段から風呂入るとき以外暖房つけないっていう。多分この調子だと女子が来るまで暖房なんかつかんべ。俺はすでに客人扱いされてねーし、お前は寒さに強いって思われてるっていう」

「えー、寒いよー。星港の家は寒さに耐える構造じゃないんだよー」

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