真冬のヒートアップ

「うー、さっむ」

「また寒くなりましたね」


 今日も吊り札付けのバイトは続いている。倉庫の中は寒いけど、作業をしている部屋には暖房があるから手がかじかむこともなく快適に作業をすることが出来ていて、時間はあっと言う間に過ぎていく。

 昼の休憩には食堂でご飯を食べる。仕事中にもお喋りをしている主婦らしき人たちは、休み時間になるとさらに口の動きが活発になる。これにはさすがに従業員の人たちも呆れ果てているそうだ。仕事中には手を動かして欲しいなあって。

 俺は今日で4日目。時給950円を7時間でかけて、さらに4日目。仕事は明日までの予定だから、給料は交通費込みで総額36000円ほどになる。それだけあればゼミ合宿の参加費15000円とスキーレンタル代3000円は余裕で賄えるし、お小遣いだって用意できる。


「高木君おにぎりなんだね」

「節約ですね。コンビニでパンを買うより安いかなと思って」


 ラップを使って丸めただけのおにぎり(具はない)の上にふりかけをかけながら食べる昼食。今はとにかくお金を節約することが大事だから。ゼミ合宿にはお金がかかるとは果林先輩から聞いている。


「節約と言えば、俺、冬の間は電気代がヤバくってさ」

「暖房とかでですか?」

「そう。赤外線ヒーターとかこたつ使いまくるしエアコンもヤバい」

「すごいです。俺はそこまで贅沢できません」


 高崎先輩の暖房の使い方も結構すごいと思っていたけど、朝霞先輩の話を聞いているともしかして俺が暖房を使わなさすぎなのであって、先輩たちが普通なんじゃないかという気がしてきた。

 でも、暖房は熱を発する物だけにものすごくエネルギーを使うだろうし、ジャージの重ね着やあったかいものを飲んで凌げる間はそうしておきたいと言うか。オイルヒーターはあるけどお客さんが来たときしか出さない。


「えっ、普段どうやって過ごしてるの」

「ジャージを2枚重ね着して、あったかい物を飲んで毛布にくるまって、酒を飲みます」

「暖房は?」

「エアコンはコンセントを抜いてますし、小さいヒーターはありますけどお風呂の時にしか使いません」

「ムリムリムリ! えっ!? エアコンのコンセント抜いてるの!?」

「えーと、今からそんなのを使っててもっと寒くなったら困るなあと思って」

「いや、今が底だと思うよ!? 風邪ひくよ、使おうよ」

「一応オイルヒーターも実家から持ってきてるんですけど、お客さんが来たときにしか使いませんね」

「こたつとかないの?」

「そもそもうちには机がないんですよね、パソコンデスクしか」


 どうやら朝霞先輩は結構な寒がりらしく、年が明ける前からこたつはばっちり準備していたし、暖房もしっかり使っていたようだ。俺はまだもう少し行けるかなあと、発熱系の肌着を着ることもなく頑張っていた頃の話になる。


「高木君、うちに来て。ミカンあるし」

「えっ、ミカンですか?」

「こたつにミカン、それからアイスもあるよ。ぬくぬくしようよ、話聞いてるだけで寒いよ」

「あ、まあ、そういうことなら行きます」


 こたつにミカン、それからアイス。冬らしいなあと思う。だけど、やっぱり俺には行きすぎた贅沢と言うか。いや、もしかしたらお金があれば出来るんだろうけどこたつがあったら社会的に死ぬ気しかしないしやっぱり自分の部屋には導入出来そうにない。


「寒いし家でシャワーしてもお湯出しっぱにしがちだし、ガス代もヤバいんだよ」

「それはわかります」

「だから水道代もかさみそうだし」

「うちのマンションは水道代が定額なのでその心配はないですね」

「えっ、どんないいマンションに住んでるの」

「普通ですよ」


 こたつを買うことにしては冬が終わってからまずは机という形で導入しようかという風には考えている。ミカンとアイスはなかなか自分じゃ用意しないし今回はありがたく冬のぬくぬくライフを送ろうと思う。


「寒いし、いっそ鍋でもやる?」

「鍋ですか、いいですね。あっ、ところで酒は持参できますか」

「おっ、いいね。飲もう飲もう」

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