踏み出す景色とファン!ラン!

 2月の中頃にはゼミの卒論発表合宿が控えていて、その準備のためにテスト期間が過ぎてからも足しげくスタジオに通う日々。テスト期間が過ぎているから学内に人は疎ら。歩きやすいのはいいことだけど、人がいないから寒さが身に染みる。

 今日は来年から佐藤ゼミに正式配属になる1年生に対する合宿の説明会もあったようで、タカちゃんも大学に来ている。お腹もすいたし何か食べに行こうかーと学食に向かって歩いていたときのこと。

 緑大は体育系の大学だから、こんな時期、こんな中でもジャージやスウェットの人が歩いてるとかは全然普通。だけど、向こうからやってきたジャージ姿の男子はアタシとタカちゃんがよく知る子だったワケで。


「あらっ、何か見覚えある黄色だと思ったら果林と高木じゃねーの。何やってんの」

「えっ、こっちのセリフだし! ゴティ何やってんの!? ちなみにアタシらはゼミ合宿の関係で出て来てたの」

「あ、五島先輩おはようございます」

「おはよーさん。俺は見ての通りジョギングよ」

「ジョギング? だったら地元でも良くない? わざわざ車で大学まで出て来なくたって」

「あー、後輩と一緒にやってんだって」


 ゴティはいっちー先輩が発起人のIFサッカー部にも参加してるだけあって、元々体を動かすのは好きな方だって知ってる。だけど、車で1時間以上かかるところからわざわざ大学まで出て来てやることがジョギング?


「高校の後輩が来年から同じゼミに入って来るんだって」

「五島先輩て何ゼミでしたっけ」

「西山ね、スポーツ社会学の。まあ、ゼミとはぶっちゃけ関係ないんだけど、その後輩が「ごっちゃん先輩一緒に市民マラソン出ましょうよー」って言うからさ、せっかくだし走ろうかなー的な?」

「へー、頑張るねー」

「すごいです」


 話によれば、後輩の女の子のサークルで走るときに胸が揺れる揺れないの話になったそうだ。その子は自分は揺れないから有利だとテンションが上がってその気になったとか。走るときに揺れたら確かに邪魔そうだなって思う。実際わかんないけど。

 それで、実際体育館をわーって走っても全然バテないし、夏に向舞祭でも踊ってるから体力はあるんだろうなあと思った結果、じゃあマラソンだという結論に達したそうだ。そしてそれに巻き込まれたのがゴティというワケで。


「五島先輩、マラソンってことは42.195キロですよね」

「そーよ。でも別に順位とか狙うワケじゃないし、途中途中でうまいモン食いつつ景色楽しんだりして、自分の足で観光するようなイメージね」

「でもやっぱりすごいです」

「上手くやればスポーツツーリズムみたいな感じの話に出来んかねとも思ってんだけど」

「わー、ゴティ学生っぽーい」

「すごいです」

「あ、そーだ果林。お前元陸上部じゃんな。マラソンやる上で何かコツとかある?」

「元陸上部には違いないけどアタシ短距離専だから長距離は管轄外よ」

「うん、知ってた」

「楽しくやればいいんじゃないの、ケガのないように」

「ですよねー」


 そんな風に立ち話をしていると、センタービルの方からごっちゃんせんぱーいと大きな声が響いて来る。多分あのオレンジっぽいおかっぱ頭をした子がゴティの後輩なんだろうなあ。確かにスレンダー系だし。てか背高い。

 ゴティはそれじゃあまたいつかとアタシたちに挨拶をすると、その子の方に向いて行ってしまった。あっ、横に並ぶとゴティの方がやっぱ小さい。大学まで出てきたのは、ここまで時間をかけてきたからにはちゃんとやらないと、という気持ちの面なのかな。


「果林先輩、五島先輩てすごく健全ですよね生活が」

「そうだね、今のMBCCなら3年生を含めても1番身体を動かしてるんじゃない?」

「まずスポーツが出来るのが凄いと言うか。俺はスポーツがほぼ苦手なので」

「あれっ、でも合宿じゃスキーレンタルするんだよね」

「スキーだけは得意なんです」

「あっ、そうなんだ。それはぜひタカちゃんのカッコいいところを見てみないとなあ」

「カッコよくはないと思いますけど」


 走ろうと思っていきなり42.195キロはなかなか無理があるけど、ちょっとしたところから運動していきたいなって。それでなくてもゼミだ何だってスタジオに籠ってると身体がバキバキになって鈍っちゃうから。


「ところでタカちゃんいつもお金の心配してるけど、スキーレンタルつけちゃって大丈夫なの? 参加費にプラス3000円だけど」

「日雇いのバイトを朝霞先輩から紹介してもらって、何日か行くことになってるんです」

「えっ、何をどうツッコめばいいのそれ」

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