野暮な数字

 テスト期間ともなるとうちのように授業を休むことの多い連中もみんな揃うからか、食堂の人口密度が凄まじい。とは言え、テスト期間だからこそ座席の確保は逆に簡単だったりもする。

 それというのも、テストは開始から30分が経過すれば教室からの退室が認められる。うちはテストなんて良くも悪くもパパーッと書くことを書いて出てきてしまうから、人がまばらな状態の学食で悠々場所取りをすることが出来る。


「よーう菜月、いたいた」

「あっ真希来た。場所取っといたぞ」

「さすが、音速の筆を持つ菜月」

「何だその二つ名」


 2限のテストが終わって、うちは3限の支度をしていた。ご飯は真希が来てから買いに行くことにしていたから。普段は一人でご飯を食べるのが基本だけど、たまには一緒に食べようと現在に至る。

 ただ、真希はうちよりは真面目にテストに取り組んでいるから、1時間フルで使うことはしないにしても45分くらいはテストに使う。毎度テストになると教室から出ていくうちの姿を見送ることから、真希は真希でうちのおくりびとだ。

 真希の昼食は大盛りのカツ丼に味噌汁、ちくわの磯部揚げに、それからサラダ(マヨネーズ盛り盛り)。うちはいつもの塩ラーメン。真希は本当によく食べる。うちなんかはカロリーや値段を気にしがちだけど、真希はそういうのを気にしない。


「菜月ちくわ好きだろ。1本食べな」

「わーい。ちくわ好きー。ああ、でもカロリーがヤバい」

「ちくわ1本でそんなに変わるかね」

「いや、太るなあと思って」

「菜月は全然太ってないだろ。80キロの戯れ言だけど」

「いや、真希は筋肉で出来てるからその数字になってるんだろ? 知ってるんだぞ、脂肪よりも筋肉の方が重いって」

「それはそうとして、美味しい物を美味しくいただきたい時にカロリーや値段っていうしょうもない数字を気にするなんてナンセンスだ」

「わからないでもないけど」


 最近では太い細いとかじゃなくて己の信じる生き方としてのスタイルやオシャレを貫くことがカッコいいという風潮もあるとは聞いたことがある。太っているとか痩せているというだけがすべてではないとは、真希を見ていれば明らかだ。

 それでも、うちが好きな服を着たりブーツをはいたりするには太ってしまうと大打撃なのだ。特にニーハイのブーツはふくらはぎが、ねえ。あとやっぱり昔よりも運動は明らかにしなくなってるからっていうのもある。


「真希はカロリーとか本当に気にしないよな」

「えっ、食べた分動けばいいだけの話じゃんか」

「簡単に言うけど難しくないか」

「サークルとかバイトとかで動けば何の問題もない」

「真希はなー」

「めっちゃ動くけどその分めっちゃ食べるから体型に変化はそうそうないんだよ」

「だろうな」

「私はもう細胞の大きさがこのように決まってるから動けるデブであり続けることを目標にしてる。何度も言うけど動けない痩せよりも生存率は高いと思うんだよ」

「確かに、真希からは生命エネルギーみたいな物をありありと感じる」


 量は多いけど、それなりにバランスのいい食事。サラダなんてうちは絶対につけないけれど、真希は必ず山盛りの野菜を食べてから主食に入る。だけど、そのサラダには鬼のようにマヨネーズがかかっているのだ。


「あっそうだ真希、これ購買で見つけた新しいチョコ。ちくわのお礼」

「おっ、サンキュー。菜月は新商品を買うのも音速だな、いつもいつも」

「思えば、うちも本当に食べたい物を食べるときは値段は気にしないなと思って。チョコレートとか、最近のって結構いい値段するけど普通に買ってたなと。カロリーは……運動かあ~……」

「体動かしたいなら付き合うけど。お風呂に浸かるって手段もあるかな。体あっためて代謝上げる的な」

「あ、お風呂いいな。お風呂がいい」

「じゃあ運動の後のお風呂だな」

「えー!?」


 ――というワケで、今日のテストが終わったら運動をすることになった。一応テスト期間ですがと聞いてみると、お前がテストだからと何かしたことがあったかと一蹴。事実だけに反論は出来ず。


「何にせよ、3限後だな」

「あ、うち4限もある。レポート出すだけだけど」

「なら全然いいや。教務課?」

「教務課教務課」

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