愚民と愉快なラブ&ピース

「さァーて、緊急に集まってもらったのは他でもありヤせんわ」


 向島大学でもテスト期間に入った。しかし、テスト期間にも関わらず律からの召集がかかり、不穏な感じで始まったMMP2年会議。緊急に話し合わなければならない用事に心当たりのない俺たちは、何が始まるんだと戦々恐々。


「どうした律。わざわざテスト期間に集まるような重要さなんだろうな」

「や、自分的にはこっちのが緊急すわ。非常事態としか言いようがないス」

「りっちゃんが言うんやからそうなんやろ。ボクも割とテストはどーでもえーわ」

「いや、お前は留年がかかってんだからテストも重要だろ」

「土田さん、本題を進めていただいていいですか」

「そースね。愚民ども、4年生追いコンっつー行事の存在は知ってヤしたか」

「ああっ!」

「忘れとった!」

「ありましたね、そんな行事が」


 律が俺たちを愚民と言うのも強ち……いや、全く間違いではなかった。MMPでは4年生の追い出しコンパという行事が2月中旬くらいに開かれている。今の今まで俺たちはすっかりその行事の存在を忘れていたのだ。

 送り出す4年生は村井サンと麻里さんのお二方だ。村井サンが卒業できるかは措いておいて、少なくとも麻里さんは確実にご卒業されるので行事の準備をしなくてはならないのだ。何が難しいかと言えば、日程調整。


「まあ、アレすわ。何がネックかっつったら3年生以上の日程調整スね。自分ら現役は全員自宅生なんでどーにでもなるンすけど、3年生以上は全員散り散りになる可能性が非常に高いンす? 最悪エリア外にいる可能性も高いワケで」

「ああ~……日程調整か~……」

「4年生の予定は自分が一応押さえときヤした。何においても4年生優先なンで」

「律有能!」

「で、あとは3年生なンす」

「ああー……」

「まあぶっちゃけ誰が一番問題かっつったら菜月先輩なんスよ、野坂」

「何故俺に言う」

「や、菜月先輩の事情ならお前が一番詳しいだろ。っつーワケで、お前には3年生の日程調整係をやってもらうンで」

「ナ、ナンダッテー!?」


 俺が任命されたのは、律からももらった4年生方のご都合などと3年生の先輩方に提示しつつ、4年生追いコンの開催要項をお伝えするという仕事だ。仕事とは言え合法的に菜月先輩と連絡をやり取りすることが出来てツイていると解釈しよう。


「で、こーたは金の計算と4年生への記念品を頼みヤす」

「わかりました。……というか会計って本来ヒロさんのはずでは」

「ヒロは留年がかかってヤすからね。テスト期間な以上、文系でゆるゆるな自分らとオールSの野坂で準備すンのがいいっショ」

「一理あります」

「ぶっちゃけ金のコトはこーたの方が信頼できヤすし」

「土田さんから信頼されているですって…!? プレッシャーですけど職務を全うさせていただきますよ…!」


 金のことならヒロよりこーた。確かにこれはそうなんだよなあ。アナウンス部長兼会計・ヒロというのは第9代MMP唯一の謎人事だ。総務の仕事が「代表へのツッコミ」ならこーたが会計兼務の方が正直安心感がある。


「とりあえず野坂には速急に3年生の日程を押さえてもらって、それで自分が店に予約を入れヤす。3年生は菜月先輩以外連絡無精なンで、返信がなければ何遍でも催促してソッコー返事をもぎ取るように。それらしい内容のある返信でなかッたら、向こうの意向は無視して決定事項を送ること」

「わかった」

「まるでその筋の団体の親分と構成員ですね」

「圭斗先輩は麻里サンの名前を出しとキャ問題なく動かせるンすけど、めんどくせーのが三井先輩スわ。なンで、本当の本当に最悪の場合はガン無視でもいいくらいス。4年生追いコンは4年生優先スし、3年生の我が儘を聞く場じゃないンで」

「いよっ! さすが律、ラブ&ピース!」

「土田さんが代表で良かったですよ。ラブピばんざーい」


 こうして、留年のかかってヒロ以外は4年生追いコンに向けた仕事を始めることになった。俺はこの場で律の添削を受けながら3年生の先輩方に送るメールの文面を作成し、こーたは会計帳簿や過去の議事録とにらめっこをしながらの予算計算だ。


「律、メール送ったぞ」

「あざーす」


 あとは返信を待って、その返事を揃えて律に提出するのみ。そして留年がかかっているからという理由で今回は仕事のないヒロが暇そうにしている。


「ねーねーりっちゃんりっちゃん」

「ん? どーしたスかヒロ」

「ボク何もしんでえーの」

「そースねェー、そしたらヒロは追いコン当日の仕事にしヤしょうかー」

「当日の仕事てなに?」

「今考えやーす」

「……早っ。律、菜月先輩から返信来たぞ」

「さすが菜月先輩スわァー、ハハァー」

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