2月

適材適所を肌で知る

「次はどれをやったらいいですか」

「あっ、もう終わっちゃった!? えっとねえ、次はねー」


 今日は星大の大石先輩がバイトをしている倉庫で働いている。同じ現場には星ヶ丘の朝霞先輩がいて、と言うか厳密にはスーパーで偶然会った朝霞先輩から誘われて今日のバイトに入ることになった。

 仕事内容は、カバンの吊り札付け。カバンの値段が変わるとかで、先についている札を外して新しい物に取り替えるという仕事。言ってしまえば単純作業。時給は950円で7時間。それを6日間で、結構な金額になる。

 現場では基本的に大石先輩の指示に従う形になっている。俺や朝霞先輩の他には、同じように派遣でスポット的に雇われた主婦と思しき人たちがいて、その人たちは雑談を挟みながら楽しそうに作業をしている。

 俺は特に喋ることもなく目の前にある仕事を淡々とこなしていっているだけで、気がつけば積まれていたケースの中身をみんな片付けてしまって手持ち無沙汰。大石先輩に次を催促すれば、想定よりもちょっと早かったようで驚かれる。


「あっ、ゴメン。次の品番平積みされてるから取ってこなきゃ。えっと、一緒に来てくれる?」

「あ、はいわかりました」

「朝霞も来てくれるー? 男手が多い方がいいから」

「おう、わかった」


 大石先輩が台車を引き、その後ろには俺と朝霞先輩。ついて行くと、床にはケースが積み上げられていて通路のようになっている。今まではケースの数が多かったから木製のパレットに積んであったものをフォークリフトで運んでもらっていたけど、これからやる物は数が少ないから台車で運んでこなければならないそうだ。

 これとこれとこれをおねがーいと言われて、一辺が50センチくらいはありそうな立方体の箱を運ぶことに。大石先輩はそれをひょいひょいと台車に積んでいて、さすが慣れた人だなあと。俺も、自分の目の前にあるそれを持ち上げようとするけど。


「……あれっ? うーん、しょ」

「タカティ、大丈夫?」

「うー、ん。あっ」


 持ち上げようとするけど、腰に変な力がかかるだけでちょっとしか持ち上がらない。大石先輩がひょいひょい持ち上げるから軽い物なのかと思っていたけど。同じケースを持ち上げようとする朝霞先輩の様子を見てみると、あ、よかった。


「何だこれめっちゃ重いぞ!」

「え、朝霞もキツい? でも女の人に担いでもらうような品番じゃないもん、頑張って」

「高木君、2人で持ち上げるのはどうだろう」

「うーん。朝霞、狭いし逆に難しいんじゃないかなあ」

「それもそうか」


 ――と言っている間にも、大石先輩は俺と朝霞先輩が数センチ持ち上げるのもやっとのケースを、まるで発泡スチロールの箱を動かすように台車に積んでいる。いつしか俺と朝霞先輩はちゃんと数があるかを数える係になっていた。


「高木君、決して俺たちが非力じゃないんだと思いたいんだ」

「……そうですよね。大石先輩がすごいんですよね」

「体格、基礎体力、腕力、経験などが圧倒的なんだと思いたい、大石が」

「ですよね」

「男手っていう体で呼ばれてるのに役に立ってないっていうな」

「そうですね」

「この品番は特に重たいもん。慣れてないから仕方ないよ。俺は吊り札付けみたいな細かい作業が苦手だから朝霞とタカティは本当にすごいと思うな」


 結局、ケースは全部大石先輩が積んでくれて、3台の台車を1人1台引いていく。ただ、これを引くのにも結構な力が要る。うーん、どうやら俺が持ち上げられるのはアンプまでだったみたいだ。


「大石、着いたぞ」

「……えーと、これは俺が下ろすし、2人は吊り札の作業に戻ってもらって」

「おう」

「わかりました」


 やっぱり俺には吊り札付けの方が向いているみたいだ。ちょっとの間外に出ていたのも、一瞬の気分転換だったと解釈して。ずっと同じ姿勢の立ち仕事っていうのも地味に辛いし。

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