やる気の切れ目が縁の切れ目
「アカン、ホンマにアカンよ!」
「勉強の方は全然覚醒してないな」
「そう同時にいくつも一生懸命になんかやれんよ!」
ヒロが大騒ぎし始めると、テスト前だなあという感じがする。ただ騒ぐだけならいつものこととして放置でいいんだけど、今回は何がアレって騒いでいる現場が現場なのだ。よりにもよってプレゼミ生としてお邪魔している研究室だぞ。
サークルの方ではアナウンス部長としての自覚か気紛れか知らないけど妙にやる気のヒロだけど、それが学業の方にも波及しないかなと淡い期待を抱いた俺がきっとバカだったのかもしれない。どこまで行ってもヒロはヒロだった。
「言ってしまえば、春までサークルはないワケだし勉学の方にやる気を振ってもいいんじゃないか?」
「1回切らしたらもっかい付けれる気がしやん」
「わからないでもないけど、留年したら元も子もないじゃないか」
「ノサカはオールSやからそんなこと言えるんやよ」
「意味がわからない」
ヒロがわあわあと騒ぐその脇では、前原先輩がデスクチェアーの背もたれに顎を乗せてキコキコ漕いでいる。そして磐田先輩にテスト対策だけではなくその他諸々の無心をしているところだった。学年に1人はこういう人がいるようだ。
「磐田ー、各種プリントとノートくれー」
「各種っていくつ?」
「履修被ってるヤツ全部」
「前原くんてそんなに来てなかったっけ」
「来てはいたはずだけど、記憶になくてよー。捨てた覚えもないんだけど、見つからないんだよなー」
授業に出ていたかどうかの記憶があやふやという時点できっちり授業を受けてませんでしたと供述しているようなものだけど、ロボット大戦の様子を見ている限りプログラミングの技術は確かだから人がわからない。
前原先輩は他にも磐田先輩にお金の無心をしている。だけど、俺は知っている。前原先輩が帰省に使うというお金をギャンブルでスッた結果磐田先輩から借りっぱなしになっているということを。金の切れ目が縁の切れ目というけれど、果たして。
「あのね前原くん」
「んー?」
「地元で初詣に行ったときにおみくじ引いたんだけど、貸したお金が返ってこないみたいなことが書いてあったんだよ」
「あー、そんなの迷信だって迷信」
「とりあえず、貸してるお金が返ってくるまで新規の申し出は受けないことにしようかなーって」
「そこを何とか! 増やして返す! 当てるし!」
「そう簡単には勝てないと思うよー、パチンコ屋でバイトしてるからこそ忠告するけど」
それじゃあ金はいいから各種プリントとノートはくれと前原先輩が押せば、しょうがないなあと受け入れてしまう磐田先輩の人の良さだ。金じゃなきゃセーフみたいな感覚になってしまっているのだろうか。
それを見たヒロも、自分は何も金をむしり取ろうとしているワケではないのにお前はケチだみたいな感じのことをわあわあと攻め立ててくる。いや、俺はそれ相応の努力をしてるのにそれをくれと言われてはいそうですかと渡す気にはならない。
「ノサカ年末課題手伝ってくれたやん」
「お前のおかげで助かった事柄があったからというだけの、言わば謝礼じゃないか」
「ボクのおかげでノサカも復習出来てオールSにまた一歩近付いてんから、もっと謝礼くれてええと思うんやよ」
「意味がわからない」
「わかった、購買で丼奢るわ。それでボクに1教科教えよう」
「家庭教師代としては安すぎないか。それでいてお前は俺の言うことがわからないだの何だのと文句を言うんだろ、知ってるんだぞ過去の傾向から言っても」
「今回は文句言わんよ」
「言ったな。じゃあ、丼にシュークリームで1教科助けてやろう」
「デザート付けたらええんやね! やったーノサカが安くてよかった!」
何か「安くてよかった」というのが気になるな。サークルの関係で語彙力をつける訓練をやったならもうちょっと何か言い方があったんじゃないかと思うけど、多くを望むとまたうるさいので黙っておこう。
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