Winter Death Song
「は~あ。まったく。嫌になりますね、どいつもこいつも浮かれやがってますよ」
「やァー、ウザドルの僻みスわ」
「何とでも言いなさい。いいんですよ、別に。私にとってはクリスマスなんて年末商戦の一環でしかありませんから」
「へーへー」
「――とか言いながらクリスマスのラブソングなんて流すのやめていただけますぅ~!?」
こーたは安定の浮かれたカップルしねしね団みたいなことになってるし、律もそれに対するラブ&ピースを緩めない。今日もMMPは平和だ。
流れて来るラブソングは雪を天使の羽に例えてみたり、鐘が鳴ってたり。浮かれてんじゃねーよと思うのは俺も同じだけど、この場合降ってる天使の羽は律とかいう殺戮の天使の物なんだよなあ。
「ところでこーた、お前はクリスマスの予定は」
「バイトですが何か」
「荒んでるな。バイトなら突発的フラグが立つ可能性だって」
「一緒に入ってるのはおばちゃんですが何か」
「ドンマイ」
こーたはバイト先にいる1コ下の子のことが好きらしい。こーた曰くその子からはいい先輩という風にしか見られていないのはわかっている、と。それでもなお少しでも距離を縮めようと日々怪しくない程度に頑張っているとか。
クリスマスのラブソングを打ち消さんばかりに死ね死ねと歌いながら、こーたはただひたすらに働き煩悩を打ち消すのだと。ただし、浮かれたカップルは呪ってやるというスタンスは継続しつつ。
「まあ、実際アレだよな。実際言うほど街で鐘は鳴らないし、鳴ってるすれば浮かれて委縮した脳が頭蓋骨の中で踊ってる音なんじゃねーかとは思う」
「色惚けした部分しか残らなかった脳がカラーンカラーンって鳴ってるわけですね。あなたの発想には草を禁じえませんね」
「やァー、野坂が言うとこーたよりも迫力と説得力がありヤすわァー。ところで、そんな野坂のクリスマスの予定は」
「溜めに溜めたヒロの課題に付き合わされる予定ですが何か」
「……安定スね、ドンマイ」
「私のにわか仕込みの暗黒など目じゃないですね……野坂さんの闇は根深いですよ」
「しかもヒロだけにリターンが期待出来ないのがキツいスわ」
いいんだ、23日は昼放送最終回の収録だから。26日まで授業があるから、23日は収録だ。菜月先輩とご一緒出来るというありがたき幸せ。最終回に恥じないよう今から気合を入れないと。菜月先輩の集大成に泥は塗れない。……などと考えていると、廊下からサークル室に近付く人の声。
「ねー、日曜日か月曜日の夜さー、一緒にご飯食べに行かない? ねえ、いい店知ってるんだー」
「行かない」
「えー、何で? あっ、お金なら僕が出すし心配しないでよ。ねえ」
「菜月先輩はよーごぜーやーす」
「菜月先輩おはようございます。何やら悪質な勧誘ですね」
「ったく。浮かれやがって。絶対人が多いってわかってる時に外になんか出れるか」
「えっ、じゃあ菜月の部屋で鍋でもやる? 土鍋あったよね菜月の部屋」
「来るな」
ナ、ナンダッテー!? 菜月先輩は嫌がっていらっしゃるというのに何ということを! と言うか三井先輩の下心が見え見えなんですが! イブやらクリスマスに菜月先輩と一緒にいることで既成事実を作ろうという魂胆ですね!
ヒロへの恨み辛みや闇なんて正直可愛いレベルだ。今の俺なら律もびっくりの狂戦士になれる気がする。殺戮の天使が落とした羽さえ血で染め上げてやる。鐘はバトル開始のゴングだろうか。
「三井先輩」
「どうしたの野坂」
「三井先輩であればいろいろな女性に声を掛けられる技量や度胸がおありになられるのですから、菜月先輩にこだわる必要はないのでは?」
三井先輩に備わる「女性に声を掛けられる技量や度胸」というのは結果が伴うことはないし節操もない。誰も相手にしてくれないから菜月先輩に、というのは怠惰であり、手抜き以外に他ならない! 俺が同じことを思うのとは本気度のレベルが違うんだ!
「あっ、野坂はクリスマスどうするの? 彼女とデート?」
ちきしょうMMPの人なら俺に彼女なんていないことはわかりきってるだろうに! 何かもう三井先輩に対する殺意しか湧かない。俺が律ならじわじわと嬲りラブピするのに!
「……ヒロの課題に付き合ってますが何か」
「あ、あー……ドンマイ」
「……ノサカ、お前も大変だな」
「菜月先輩にまでご心配いただき恐縮です」
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