変わらぬ元気なご挨拶

「暮れーの元気なご挨拶ー」

「――とか歌いながら年賀状用意するのは間違ってるっていうのは突っ込まない方がいいか慧梨夏」

「えっ、何か間違えてたっけ! 歌詞!?」

「年賀状は年始の挨拶だろ。その歌はお歳暮だ」

「あそっか」


 ナチュラルにボケをかました慧梨夏に本当に突っ込みたかったのはそれじゃない。年賀状の束の方だ。若者の年賀状離れが叫ばれて久しい。とかいうようなことを聞くけどその波に逆らうような束だ。

 いや、わかってんだ。慧梨夏のそれは大多数が趣味界隈の人に送る年賀状であってリアルの方の年賀状は昨今の若者と同じように離れてしまっていることは。でも、オンの界隈に送る年賀状の束がヤバい。


「毎度のことながら年賀状の束がヤバいな」

「あとは印刷するだけだから、インクもしっかり買ってきてるよ」

「あ、絵はもう描いてるのな」

「年末は忙しいだろうなと思って9月から準備してた」

「段取りすげえ」

「だってジャンル別に絵柄用意しなきゃいけないしさ」

「ジャンル別とは。いや、説明は求めてないけど」


 俺で言えばMBCCの人とIFサッカー部で絵柄を変えるみたいなことだろうか。よくわかんないけど慧梨夏の年賀状は3種類4種類用意するのは当たり前らしい。そら9月から準備するわ。いや、でもハロウィンとかも普通にやってたよな?

 まあ、慧梨夏のバイタリティーなどなどは今更なので、毎度毎度我が彼女ながらワーカホリックぶりにドン引きするしかない。そして、白い葉書の他に取り出してきたのは過去にもらった年賀状だ。


「リアルに来る年賀状って結婚しましたとか子供の成長報告じゃん。ぶっちゃけリアルのって要らないよね」

「えーと、リアルじゃないのって」

「推しの結婚しました賀状なら何枚でも欲しい。新年早々幸せな気分になるし世界平和に繋がると思う」

「#推しの年賀状 #とは」


 言ってしまえば来年の今頃にはもう籍を入れているし、リアルな結婚しました年賀状を送る権利は有するワケだけれども本人がこの様子なので送ることはありませんね。まあ、俺も恥ずかしくてそんなことは出来ませんけど。


「それかさ、見ていて笑えるネタ賀状とか。カズ、京子さんにウェディングドレス作ってもらう?」

「マジレスすればウェディングドレスなら京子さんじゃなくて浅浦のパパさんの管轄だけど、嫌な予感しかしないので作りません」

「うちのは」

「作る」

「カズのは」

「作りません。つか何で俺が着ること前提なんだタキシードならともかく」

「ウェディングコス賀状ならアリかなって」

「ねーよ」

「じゃあうちがタキシード着るよ」

「ねーよ」


 年賀状にするしないは別にして、ウェディングドレスでの写真は撮りたいらしい。いや、ごく普通の結婚写真みたいなのはあってもいいと思うけど、俺もドレスを着るっていうのはどうにかなりませんかね慧梨夏サン。

 何かもうそれ以上言うならドレスは汚すために白いんだ説を推してヤることヤっちまいたいですよねちきしょい。割と真面目に慧梨夏は体で黙らすのが有効なんだよなあ、効果は一時的ではあるんだけど。なんやかんや俺に流されやすい。


「それはそうと、年賀状刷るんだろ?」

「うん。最近ホント便利だよね。名前も住所もわかんなくても届くし。ネットで入稿すれば相手が必要事項を入れてくれて、うちが葉書に触んなくても届くんだよ」

「へー、すごいなー。えっ、そしたらその束は?」

「名前や住所を教えてくれた人の分」

「へー、すごいなー……」


 アヤさんが言うには、雨宮先生の年賀状ともなれば欲しい人で殺到すると思いますよーとのことらしいから、これだけの束にもなるのだろう。見た感じ50枚は軽く超えてるしな。


「そう、カズ見てこれ!」

「おっ、可愛いじゃん。戌年の年賀状だな」

「こういう普通の年賀状描くのが一番しんどかったー」

「えっ、これテンプレとかじゃなくてお前が描いたのか」

「描きました。どやっ」

「いや、やっぱすげーわお前。これは趣味に関係ない人に送るヤツか?」

「そうね。浅浦クンとかに送るヤツ」

「浅浦にも送ってたのか。律儀だな」

「来年は結婚しました報告かって聞かれたから、2人の写真なら使っていいよって返しといた。というワケで、浅浦クンとカズの写真を撮ったらいいと思うんだよ」

「ねーよ」


 また戻ってきた! ちきしょい! ホントお嫁サマは安定すぎで! あーもう、作業が一段落したら絶対黙らす! ドレスを着るような可愛い男じゃないってトコを思い知らせてやらないと。

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