めぐり、紡ぎ、共に

 年末のイベントに向け、やれることはやろうとする夜。仕事終わりに近場のスタジオで練習に次ぐ練習。今日は高崎と落ち合ってスタジオへ。こうやってガツガツ練習するのも何かすっごい久し振り。


「――って高崎、手ぶら!?」

「スティックは持ってるぞ」


 高崎は自前のドラムセットを持っているけれど、さすがに今住んでいるアパートに持ち込むことは出来なくて練習用のパッドを買った。ただ、スタジオ練習の時はスネアドラムとかキックペダルを持ってくるかなと思ったら! まさかのスティックだけって。

 まあ、さすがに当日は実家からそれらを持ってくるだろうなと何故か俺が俺に言い聞かせて。自分の道具を使うことも大事だけど、高崎の場合はまず本物のドラムを触ることの方が大事なんだろうし、今日はその機会だからってムリヤリ納得して。


「長谷川はぎゃあぎゃあうっせえけど、本当にそのシャッフルバンド音楽祭? あんのかよっていう疑念は消えない」

「あー、でも主催の和泉クンからはちょこちょこ連絡入って来るからあるんだとは思うよ」


 高崎は、もう1人の主催であるバイト先の先輩があまりに胡散臭いものだからまだこの話を信じきれずにいるようだった。ドラムパッドまで買ったのにね。そこはあるんだって思っとこうよ。

 そんなことを話していると、いつの間にかスタジオの真ん前というところまで来ていた。俺たちと同じ目的で歩いてるんだろうなという人も少し。いいね、年末はイベントも多いし楽しそうで。人の事は言えないか。


「あー、リンちゃん!」

「お、川崎。それに高崎か」

「どーしたのリンちゃん、えっ、スタジオから出てきたけどバンドやってんの!?」

「まあ、一応その練習だ」

「つかリン君マスク。風邪か?」

「インフルをな。4日目だから問題はない」

「いや、大丈夫じゃねえだろ」

「それより、お前たちはどうした」

「俺たちも練習ー! 年末にね、いろんなバンドが集まってメンバーをシャッフルしたり他のバンドの曲をやるっていう内輪の年越しイベントみたいなのがあってー、それに向けた練習だね。俺と高崎はブランクも長いから」

「ん?」


 話をしていると、リンちゃんには何か思うところがあったのか、少し考え始める。どうやらこの話に心当たりがあるみたい。


「さては、青山さんという背の高い黒縁眼鏡のへらへらした感じの変人を知っているな」

「ああ、和泉クンのこと? うちの店のお客さんだよー。えっ、もしかしてリンちゃん」

「恐らく、同じイベントでお前たちと顔を合わすことになるだろう」

「えー!?」


 これにはさすがに高崎も驚いた様子で、マジかとポツリ。そもそも、リンちゃんがピアノを弾くのは知ってたけどバンドでやるっていうイメージは全然湧かなかったから。洋食屋さんで弾いてるのも聞いてはいたんだけど。

 リンちゃんがいるのは何て言うバンドなのかを聞いてみると、ブルースプリングだと。和泉クンと一緒にやってるらしい。俺のノルマにはなかったけど、これには高崎が顔色を変える。もしかしてノルマにあったかな。


「あのクソみてえに難しいの、リン君のバンドだったのか」

「ん? 高崎、もしやブルースプリングをやるのか」

「何曲か。他のに比べて難しい。俺があんまジャズやんねえってのもあるんだけどよ」

「青山さんは音楽に対しても変態だから仕方あるまい」

「和泉クン何かもうひとつバンドやってるって言ってなかったっけ」

「軽音のバンドでなければ打楽器のみで構成されたヴィ・ラ・タントンというバンドを組んだそうだが」

「うわ、出た。ヴィ・ラ・タントン」


 和泉クンが変態的なドラマーなんだろうなという想像がついたところで、話はどんどん盛り上がる。予約した時間にはまだもう少しあるからね。


「ちなみにリン君はどこのバンドの曲を演るとかって」

「CONTINUEというゲーム系インストバンドの曲が多めだ。苦戦しているのはThe Cloudberry Funclubというロックバンドか。元々キーボードはおらんそうだから好きなようにやれと言われているのだが、好きなようにと言われてもというのが正直なところだ」

「ウソ! リンちゃんが俺らの曲やってくれるんだ!」

「ほう、お前たちのバンドか」

「ねえリンちゃん時間あるなら今から俺たちと一緒にやろうよ! ねえ、高崎もいいでしょ!?」

「まあ、俺は何でも」

「オレも構わんが」

「やったー! じゃあスタジオ入ろっ!」


 あ、なるほど。こういうノリで今回のイベントも進んで行ったのかな。だとすれば結構面白くなるかも。高校時代は想像も付かなかったよね、まさかこんなメンツで音を合わせるなんてさ。

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