ナノスパ＠2017 -one's routine life-

カバーのジレンマ

「カン、大晦日の夜にライブ入ったんだけど、やるか？」

「おーう、やるやる！　どこでやるんだ？」

「丸の池公園駅近くにライブカフェあるだろ、ちょっと前にオープンした。あそこを借り切ってやるらしくて」

「マジか！　あそこめっちゃ雰囲気いいから楽しみだー！」

　青山さんが、声をかけれるだけかけてねって言ってたけど、こんな感じでいいんだろうか。大晦日に、いろんなバンドを集めてシャッフルしたり新曲をやり合ったりしてとにかく楽しく年を越そうという内輪の音楽イベントがあるらしい。

　カンはさすがにノリがいい。と言うかカンは心配してなかった。カンさえ落とせれば他のメンバーもカンの勢いとか空気に引き摺られて出て来てくれると信じて話を進めよう。手元には、渡されているCD-R。

「CONTINUEとしてもやるんだけど、とにかく楽しくやるのが目的の音楽イベントで、みんなが普段組んでるバンドをシャッフルして他のバンドの曲もやろうぜって話になってて」

「おー、刺激を受けれて楽しそうじゃん！　やろうやろう！　ウチの曲も誰かがやってくれるんだろ？」

「まあ、そういうことだな」

「すげー、客観的に聞いてみたかったんだよなー！」

　何か、ここまで来るとカンのノリの良さが心配になってくる。ただ、同時にちょっとホッとしている自分もいると言うか。俺の周りって、ポジティブと言うか前向きな人が多いなって思う。

　ただ、カンの言うことも少しわかる。自分たちの曲を客観的に聞いてみたいという思いは割と。カンは作曲を担当しているから、他の人がやるとどういう感じになるのかというのがより気になるのかもしれない。

「で、これがカンのノルマ」

「うわー、知らないバンドばっか」

「まあ、ジャンル関係なく突っ込んであるらしいから。純粋にピアノがいるバンドって意味でブルースプリングがちょっと多めなのかな」

「ブルースプリング」

「えっと、バンド先の先輩がやってるジャズ系のインストバンド。ジャズだけどロックとかクラシックとかいろんな音楽の要素が含まれてて、聞いてて楽しい。誠司さんも面白いバンドだって言ってた」

「おー、すげー、難しそー。でも楽しみだー。で、楽譜は？」

「ない。基本耳コピでーって。そこまで細かいことは言いっこなしみたいな感じの大会らしいから」

「ふーん。ま、やるだけやってみるわー」

　俺はCONTINUEのドラム、それからヴィ・ラ・タントンのタンバリンとして参加することになっている。俺へのノルマはロック色が強めだなと思った。ちなみに、誰がどの曲をやるのかを決めるのは青山さんともう一人の主催者らしい。

　各バンドの音源を主催のどちらかに渡して、戻って来たCD-Rにあった曲を練習して年末に合わせるというシステム。誰とどの曲をやるのかは当日のお楽しみ。曲ごとに誰とやるのかは当然変わる。自分のバンドの曲を別の誰かとやる、なんてことも当然あり得る。

「何か、先輩が言うにはブルースプリングのピアノ君がゲーム系音楽も通ってる人らしくて、その人にCONTINUEの曲をやらせたら面白いことになるんじゃないかーって」

「言っとくけどな、俺の曲をそう簡単にカッコよくされたら何だ、アレ、ほら」

「メンツ？　プライド？」

「まあ、そんなようなアレだ！　カッコよくはしてほしいけど、あっさりとはやられたくない！　わかるかスガ！」

「わかる」

「ならいいんだよ。元々カッコいーんだよ」

　言わばカバー大会、みたいなところがちょっとある。酒を飲みながら楽しく年越しをしつつ、音楽に溢れる楽しい時間を、という平和的なイベントらしいけど、実際のところはカンみたくちょっとしたプライドのぶつかり合いみたいなところもあるのかもしれない。

「カン、これは内緒にしといて欲しいんだけどさ」

「ん？」

「何か誠司さんが夜公演の後で乱入したいとか言ってて」

「えー!?　スガお前素人のお遊びに誠司さん乱入は反則だろ！」

「流しのラッパ吹きのおじさんの体でお願いってさ」

「いやお前それはさすがに無理があるだろ……サックスってそもそもラッパじゃないだろ」

「言うな、須賀親子はこうだって決めたら一直線なんだ」

「あっ、察した。もう何も言わなくていいぞスガ。うん、ラッパ吹きのおじさんがいた方が楽しいんだ！　俺が保証するんだ！」