明日が渦を巻く

「はー、疲れたわー」

「ホントだな。ラジドラ組はどうなった」

「知らんけど、りっちゃんとこーたが漫才やっとんとちゃうの」


 MMPでは、今期の活動の集大成となる作品制作に取り掛かっていた。それが俗に年末特番と呼ばれるもので、1時間くらいになる大作だ。過去にはラジオドラマの超大作が作られたり、盛大な企画番組だったりと形式は様々。

 今年の年末特番は30分程度のラジオドラマと30分の通常番組で構成される。律とこーたがラジドラ脚本の最終チェックと収録を担当、俺とヒロはその通常番組の方を担当することになっていて、今はロビーでその打ち合わせをしていた真っ最中。

 ここのところ、ヒロのサークルに対するモチベーションが凄まじかった。先輩方からは覚醒状態にあるとまで言われていたのだけど、一応秋学期の間はそれが続きそうで安心したのは言うまでもない。急に「やっぱやーめた」などと言われようものなら。


「そりゃあ、ラジドラの台本は今回も例に漏れずラブ&ピースの応酬だったからな……」

「菜月先輩が三井先輩をボコボコにしたいゆーことだけははっきりとわかったわ」

「そりゃあボコるだろう。あれだけ自信ありげに演技や作品のことを語っておきながら、いざ作ってきてくださいってなった瞬間それを放棄したんだから。結局今回の話だって菜月先輩と律しか作品を上げて来てないだろ」

「結局のところ、今のMMPって菜月先輩とりっちゃんしかお話書く力がないんやよ」


 それでも2人いれば何とかなってしまうのだ。ただ、菜月先輩と律のラブピ二大巨頭の作品が合わさった瞬間物凄い毒が発生することはみんなわかりきっていた。それをどうにかしてまろやかな毒にまでもっていくのが検閲を担当する圭斗先輩とこーただ。

 ラジドラに関して言えば、俺とヒロは共に演者だ。いや、ミキサーの俺が演者なのは納得がいかないけれどもそれは措いといて。とりあえず、収録で出番がある段階になって初めて呼ばれるらしい。それまでは自分たちの番組に集中していてくれと。

 今期の集大成と言うか、ここしばらくの成果と言うべきか。高崎先輩にも教えを乞うた。そこで指摘されたこともしっかり意識しつつ。あれからBGMのディスクはもう1枚増やした。最近はアニメ・ゲームサントラ以外のインスト音源も探し始めている。


「で、BGMはどれにしようかなあ」

「ボクも聞いていい? ボクの音楽やろ?」

「そうだな。せっかくだしアナウンサーの意見も聞こうか」


 サークル室から引っ張り出してきたロートルのラジカセで俺の思うヒロっぽいBGMを適当に流していく。それにヒロはこれは嫌いじゃないけどBGMとしてはどーなんとか、これはイヤとかと感想を言っていく。俺はその感想を簡単にメモして候補を絞っていくのだ。

 もちろん、ヒロの意見ばっかり聞いていては番組にならないので、自分の意見を推すところは推させていただくけれども。BGMやトークの合間に挟む曲は番組のコンセプトなどに沿って選ぶ必要もあるし。


「そー言えばノサカ明日も来るんやろ?」

「そうだな。昼放送の収録あるし。お前も来るのか?」

「ボクは来んよ」

「だろうな!」

「CDここに置いてったらええんちゃうの、ノサカファンフェスの時音源忘れて取りに帰った結果山口先輩にめっちゃ迷惑かけとるし」

「何故それを今掘り起こす」

「番組、MMPの1年を振り返るんがテーマやん。ノサカのやらかしってすっごい覚えとるんよね」

「そんなことばっかり覚えやがって」


 ただ、CDを置いて行くのは悪い案ではない。どうせ明日も来るし、菜月先輩との番組で使う音源は今更確認の必要もない。そして、何気にホルダーは重いのだ。菜月先輩からお借りしている音源も置いて行くのは少し悪いかなと思ったけど、鍵はかかるから大丈夫だろう。


「おーい。野坂ー、ヒロー。出番スよー」

「今行く。ヒロ、行くぞ」

「はー、よかったー。ロビー寒いんよね。サークル室はちょっとはあったかいかな」

「あったかいんじゃないか、一応ヒーターあるし」

「あのヒーターちっちゃいし古いしいつ壊れてもおかしくないやん」

「ヒーターにどこまでなら金を出せるのか決めるのは会計の仕事じゃないか」

「あっ、そうやん今度会議しようノサカ暖房会議」

「律とこーたも一緒にな」

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