狙いは連撃オーバーキル
「あ、リン君来てくれてありがとー」
「いえ。今日はアレですか、春山さんを陥れる作戦の話ですか」
「それもあるけど、別件もあって。あっ、アオキちゃんとカナコちゃんも来るから話はもうちょっと待っててー」
星港市某所スタジオ。ブルースプリングは大学祭が終われば自然消滅するバンドだとばかり思っていたが、意外にもまだ息はあったらしい。ただ、今回は春山さん抜き。ピアノとドラムの編成だ。
何でも、青山さんは年末に帰省する春山さんにドッキリを仕掛けたいのだと言う。それが、春山さんのいないところでとびきり楽しい音楽イベントを仕掛ける作戦だ。大晦日に路上ライブ、そこまでは決まっている。
最初はこの人は何を言っているのかと思ったが、春山さんへのドッキリ、と言うかオレの場合は復讐と言うべきか。与えられた機会は大切にしておきたい。しっかりと新曲も書き上げ現在に至る。
「遅くなってすみませーん! お待たせしましたー!」
「あ、そんなに待ってないよ!」
「青山さん、来ました」
「あ、さすがアオキちゃん時間に正確」
6時になるとドタバタと綾瀬が、スッと高山がやって来る。
高山は青山さんのバイト先の後輩で、機材関連に強い。曰く、川北と(石川と美奈とも)同じ放送サークルで機材を扱っている上に、高校時代は放送部と写真部を兼部していたとか。今回は機材・中継面でのサポートを担当する。
綾瀬はブルースプリングの合わせに顔を出していた関係で呼ばれたのだろうか。青山さんが演劇部の劇中歌を監修した繋がりで綾瀬がセンターに自称研修生として居座るようになってしまったのはどうにかならんもんかと今でも思っている。
「はい、リン君はこれ。カナコちゃんはこれ。アオキちゃんはこれ!」
「このCD-Rは?」
「皆さん聞いてくださーい。年末、丸の池公園駅近くのライブカフェを貸し切ってシャッフルバンド紅白音合戦を開催することになりましたー」
ドンドンドンドンパフー、と青山さんが自前のドラムとクラクションで鳴らす物だから、突然の話について行けていないオレたちはどんな反応をすればいいか全くわかっていない。
「えっと、ヴィブラスラップも鳴らせばよかった?」
「いえ、結構です」
「雄介さん、ヴィブラスラップって」
「綾瀬、お前は時代劇をやったことはないのか。ああ人生に涙ありで調べろ。それはそうと、このCD-Rは」
「みんな違うはず。渡した曲がノルマ。年末までに出来るようになってきてね。えっと、アオキちゃんは今回エッグシェーカーとアゴゴの曲ね。お勧めのレッスン動画のURLも書いてあるから見てみて~」
「高山もやる側なのか」
「そうだよ? だってヴィ・ラ・タントンのカスタネットとマラカス担当だもん。今アゴゴにも挑戦してるんだよね」
「ヴィ・ラ・タントンとは? オレのディスクには無いようだが」
「俺がバンド先で組んだ打楽器だけのバンド。あっ、ブルースプリングの曲も他の人がやってくれるだろうし、楽しみだね~。あっ、カナコちゃんは歌と踊りで参加してね!」
何やらとんでもないことに巻き込まれたなという感じだ。見ると高山のノルマは初心者だからか少なめだし、綾瀬のノルマは歌物ばかり。オレへのノルマが鬼のようなのは気の所為ではない。謎の力が働いているらしい。
「リン君にはね、たいっちゃんの希望でCONTINUEちょっと多めになってるし、俺が見たいって理由でリバーシもあるし、えっと、これは行ってる美容院の美容師さんの子がやってたバンドで~」
「どこまで話が行ってるんだ。と言うかたいっちゃんとは誰だ」
「私のバイト先の先輩ですね。CONTINUEはゲーム系音楽のバンドです」
「ほう? ゲーム系か、興味深い」
「高校の友達にギタリストのマサちゃんて子がいるんだけど、俺と2人で声をかけれるだけかけててジャンルも何も関係なしの異種格闘技みたいな感じになる予定。お酒飲みながら楽しく年越ししよーって。で、各バンド新曲も用意してねってことになってる」
「何やらよくわかりませんが、春山さんへの復讐になるなら喜んでやりましょう」
「まあ、ついでなので私も」
「私は戦争と帰省が~……でも、所詮山羽なのですぐ帰れます! 東都から戻って夜は歌って実家には元旦に帰ります! 絶対楽しいですもんね!」
いよいよ本格始動か。第1部が路上ライブで第2部がシャッフルバンドのどんちゃん騒ぎということだな。どこの誰が出て来るかはわからんが、どうせなら楽しまねば損だろう。ハイリスク・ハイリターンだ。
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