食事のおともと励む友
「お待たせ~」
「うわー、美味しそう」
「ん、これは実に美味しそうなだし巻き玉子だね」
「これは俺が金を出してでも食べたいと思うだし巻きなんだ」
「あっ、今日は出さなくていいからね~」
今日は朝霞君の部屋で卵焼きを食べる会というのが開かれている。自称ムービースターの三井が出たという作品の上映会が同時開催されるけど、そちらはおまけのようなもので、本題が卵焼き。
山口君が焼いてくれるいろんな種類の卵焼きをただひたすらに食べていくという大会。甘い卵焼きから出汁の効いたもの、具が入っているものまで本当にその種類は多岐にわたる。そして堂々のメインがこちら、だし巻き玉子。
「うわー……中が絶妙に固まりきってなくてぷるぷる、それでいて薄く確実に重ねられた層がすンごい」
「菜月さん、食べたらどうだい」
「それでは、いただきます」
箸で一口サイズに切ったそれを口に運ぶと、菜月さんの目がカッと開き、眉間に皺が寄る。それは決して悪い顔ではなく、口の中で味を確かめた後に出るいつものヤツを予感させる。
「う、うまー!」
「わ~、良かった~」
「山口、俺も食っていいか」
「どうぞどうぞ~。あっ、松岡クンも食べてね~」
「ん、いただくよ」
僕もだし巻き玉子を一口。それまでの玉子焼きも食べてはいたのだけど、それよりもふわりと味が口の中に広がってくる。出汁の風味や甘みがぶわっと広がり、しばし口の中に余韻が残る。
さすが、飲み屋で日々作っているだけあって本格派だなと。思わずお酒を注文しそうになってしまいそうだ。朝霞君も、これこれといった納得の表情でだし巻き玉子を食べ進んでいる。それはもう、黙々と。
「朝霞はこんなに美味しいだし巻きをいつも食べてるのか」
「さすがにいつもじゃないけど、金に余裕があるときとか無性に食べたいときとか」
「はー、いいなー。うちは自分で玉子焼きが作れないから羨ましい」
菜月さんはうまうまとだし巻きを食べ続けている。普段はあまり食べないという白いご飯と一緒に。果たして今日だけで卵にして何個分を食べたことだろう。参加者は卵1パックを持ってくることが条件だったけど、なくなりそうだというから怖いね。
「議長サン、玉子焼き作れないの?」
「ウルサイ、料理は最低限やるだけでそんなに得意じゃないんだ」
「最低限って、どれくらい?」
「野菜とかキノコを鍋に入れて市販の鍋の素を入れるだけのスープとか、冷凍の里芋と挽き肉を一緒に煮たりとか。あとはカレー?」
「へ~、いいじゃん。議長サンの煮物か~、イメージよりやってるんだね~」
「菜月さんのカレーは絶品だよ。具はキーマカレーのように細かいんだけど、味が肉じゃがのようでもあってね」
「え~、いいな~議長サンのカレー食べたいな~」
「そこまで美味いのか。俺も興味がある」
「ん、それなら今度はカレパーかな?」
「えっ、作るのか?」
そう言えば、MMPでも最近はカレーパーティーがご無沙汰だなと気付く。今後はそう気紛れでやれるようなことでもなくなるから、やれるうちにやっておかなくてはならないだろう。菜月さんに声がかけやすいうちにね。
「もしこのメンバーでカレーパーティーをするとなったら何を持ち寄ればいいだろうね。今回は卵だったけど」
「ジャガイモとかタマネギかな~」
「いや、米じゃないか?」
「ん、それぞれの思うカレーのおともでもいいかもしれないね」
「なら俺は卵だな」
「朝霞クン結局卵に落ち着くね~」
「いや、カレーに温玉はデフォだろ」
「カレーに温玉を乗せるのかい?」
「やらないか?」
「生卵なら聞いたことあるけど~」
「うちはやるぞ、カレーに温玉」
「だよな! さすがなっち!」
玉子焼きを食べ終えたお皿を山口君が片付けてくれているときも、やるとも決まっていないカレーパーティーの話が盛り上がっていた。米は麦を混ぜて炊くとカレーには合うような気がするとかそんなような話を。
「おーい山口、もうちょっとしたら映画見るぞー」
「は~い」
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