ブースト・トゥ・ゲーム!

「やっぱり、どう見てもおかしい」

「おかしいですよね」


 サークル室に置いたままだった私物を取りに行ってみると、2年生が集まって騒然としている。その視線の先にいるのは、釈然としないという表情の大石だ。

 UHBCでもサークルの代替わりが終わり、俺たち3年は実質的引退を迎えた。特に、俺や美奈のような幽霊部員は今後サークルに顔を出すことはそうそうないだろう。大石は秋学期が終わるまではたまに顔を出すそうだけど。


「ツカサ、どうした」

「あっ、石川先輩。これ、ゲームのランキングなんですけど」

「やっぱり何度見ても大石先輩のスコアが常軌を逸しているなって話をしていて」


 UHBCではスマホゲームが流行していて、みんなでアイテムを送り合ったりスコアを競い合ったりしている。俺はやるゲームのジャンルや種類が少し違うからその波には乗れていないけど。

 ツカサのスマホで立ち上がっているのはジャンルで言えばパズルゲームだ。同じ種類のブロックを繋げて消していくタイプの物で、スキルの異なるキャラクターをどのように使うかでスコアの伸びが変わるそうだ。

 サークルでのスコア平均は400万点から500万点くらいだろうか。だけど、それを遥かに上回るスコアが上段に鎮座する。何を隠そうそれが大石のスコアで、並んだ数字は一、十、百……。


「2000万点? これって凄いのか?」

「凄いです」

「鬼です」

「神です」

「まあ、UHBC平均からすれば凄いのか」


 大石は人と競ったり争ったりすることが好きではないそうだ。でも、パズルゲームで延々とスコアを伸ばすとかになると類まれな集中力を発揮する。高校までやっていたという水泳もそうなのだろう。相手はあくまで自分自身。


「大石先輩、どうやってそんなスコア出すんですか?」

「え、普通に、シュシュってやってるといつの間にかそうなってるよー」

「全然参考にならない!」

「大石先輩の何が化け物染みてるかって、あからさまな強キャラを使ってるってワケじゃなくて好きなキャラでそこまで伸ばしてるところですよ」

「でも、なっちはもっとすごいよー、アイテム2コで2500万点くらい出てるし。ほら、見て。俺のランキング。俺の上にいるのがなっち」

「って言うか奥村さんってラインやってるのか。ラインで繋がってないとランキングに反映されないんじゃないのか」

「なんかね、ゲームのためだけに入れてて、連絡ツールとしては使ってはないし本当に2、3人としか繋がってないんだって」


 その奥村さんのラインを大石が知ってて繋がってるのがまた意外だった。接点がどこにあるのかと考えていたけど、そう言えばファンフェスで同じ班だったか。

 ラインを入れていないと出来ないゲームもまあまあある。確かにゲームのためだけに入れてあるという人がいてもおかしくはない。それが奥村さんなら何ら不思議でもないし違和感もない。

 通知が来なかったのも、最初から面倒を避けようとしてそういう通知が人に届かないように設定したんだろう。大石曰く、スマホの初期設定などは野坂君に師事したらしい。


「こないだなっちに会った時も、本題そっちのけでゲームの話ばっかりしてたなあ」

「って言うか、会ってるのか」

「あっ、野暮用で1回話をさせてもらったんだ。幼馴染みの子がミッツに付きまとわれてたみたくて、それをどうしようっていう相談だったんだけど」

「彼は本当に相変わらずだな。で、幼馴染みは大丈夫だったのか」

「あ、うん。なっちから連絡があったんだけど、負け惜しみを言ってもう次の子を追いかけてるって」

「本当に相変わらずだな」


 今度また一緒にご飯食べに行くんだよーと大石は奥村さんとの予定を教えてくれるけど、大石というのが異色でありつつも事件性は感じられないのがまた面白みに欠けると言うか。

 しかし三井君は本当に相変わらずだ。UHBCの人も何人か彼に告白されては振っていたけど、他校にも被害者はたくさんいる。その度に松岡君が定例会で頭を下げていたそうだけど、その話は実に滑稽だった。


「大石、愚問だけどお前はゲームに課金するのか?」

「まさか。ゲームにお金はかけられないよ」

「だよな。知ってたけど一応聞いてみた」

「石川は課金するの?」

「少しな」

「2000円くらい?」

「まあ」


 ……本当はそんな生易しい部類じゃないけど、大石に話してもしょうがないしそこは適当にかわしておこう。自分が趣味で頒布してる物に結構なお金をブーストしてくれる人もいるし、その辺は、まあ。時と状況によりけりで。

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