ケアフルグラウンド

「相川、生きてるか」

「まだ死んでない」

「相川、フルグラと豆乳ちょーだい」

「食ってもいいけど食うなら俺の分も作ってくれ」


 週が明け台風一過の緑ヶ丘大学では、荒れ果てた学内の清掃から始まった。大学祭はもう来週。だけど荒れ果てた構内を元に戻さないと、とても次の段階に進めるような状態ではなかった。

 台風が来るとわかってからはてんやわんや。飛んで行きそうな看板の類は全部回収して建物の中へ。建築途中のステージの骨組みは壊れないように補強して。サークル棟の中に入れられない物は飛ばないよう、濡れないように保護するので精一杯。

 それでも自然は時に無慈悲だ。いや、被害が最小限で済んで良かったと思うべきか。建物の中に回収することの出来なかった看板類は案の定ひっどいことになっていた。その修復やらもギリギリのスケジュールに追い打ちをかける。

 被害が大きかったのは主に総務局と情宜局。イベントの看板類と、ブース関連。その責任者である相川と倉橋はしばらくここで寝泊まりをしているし、俺もそれを補佐する意味合いで寝泊まりをしていた。


「飯野、アンタも食べる?」

「あー、俺はそろそろフルグラ飽きてきたしいいわ」

「あっそう」

「飯野、プレーンのフルグラもあるぞ」

「でもフルグラはフルグラなんだろ?」

「会社違うソイグラってのもあるけど」

「だからグラノーラはいいんだって」


 最近では、相川が備蓄していたフルーツグラノーラに豆乳をかけて食うことが多かったからか、飽きが来ていた。台風が過ぎ去っても学食に行くような時間はなく、手っ取り早く食える物という意味でそれらをもらっていたのもある。


「飯野、フルグラ飽きたっつっても何か食っとけ。あっ、そうだ。これ」

「サンキュ」


 相川からパスされたのは、焦げ茶色のブラウニー。つかやっぱ甘いモンっつーか寄こして来るモンがいちいち女子っぽい。それはそうと、それをありがたくいただく。うわ、甘っ。でもフルグラばかりを食っていた口には新鮮な味がする。


「つかここにばっかいてどうやってそんなモンを入手した」

「昨日ゼミにだけ行かせてもらっただろ。そんときにハロウィンだからってお菓子配ってくれた子がいたんだ」


 大学祭前になると授業もそっちのけで準備をすることになるし、俺たちは台風の片付けやら復旧やらで尚更忙しくしていたから「授業」という存在すら忘れかけていたけど、相川の「ゼミ」という単語に思い出す現実が。


「あーっ! 倉橋! 俺らも明日のゼミハロパじゃね!?」

「アタシパス。今日パスした分七夕かクリパのボーナスで補填する」

「俺は断固としてパーティーには行くからな! 相川、俺は卒業がヤバいんだ!」

「自業自得だろ」

「そうなの、飯野のそれは自業自得なの」

「うるせえ! 俺だって安部ちゃんとお菓子食べたいしお茶が飲みたい!」

「はー、問題児ってこれだから。ウチのゼミって問題児ほど得するシステムなのホントどうにかなんないかな」

「ただの問題児じゃねーぞ。安部ちゃんと仲良しな問題児だから良くしてもらえんだろ。それに一応勉強の相談もしてるし」

「アンタのそれは単位の裏口認定交渉みたいなモンでしょうよ」


 問題児ほど得をする、か。倉橋は高崎を目の敵にしてるところがちょっとあるしなー。来ないクセにレポートの成績だけでゼミで一番の評価をかっさらってくからだとは言ってるけど。ちなみにそれを高崎から言わせれば、てめェが俺以上のモンを書けばいいだけの話だろ、とのこと。


「俺は! ハロパに行く!」

「アンタ、出席余らせてるくらいなのにこれ以上ボーナスもらってどーすんの」

「もしかしたらボーナス余らせてる分レポートのダメージをこう、回復出来たりしないかなー的な? でもそんなの抜きにしてパーティーは大事だ」

「ダメだわこりゃ」

「さ、休憩終わったらもうひと作業すっぞー」

「あっ飯野、その前にコンビニか購買行こうよ。さすがにアタシもそろそろグラノーラばっかりってのはね」

「よし、作業の前にコンビニと購買行こう。カップ麺とかパンとかおにぎりとか買い込むぞ」

「やったー! 久々のコンビニご飯!」


 このままいい天気が続いてくれて、当日も晴れてくれれば言うことはない。だけどそう上手くもいかないのが自然との闘いで。無残なことになるかもしれない、だけど時間があるならまだまだ立て直せる。やれるところまでやる。それが大祭実行の意地ってヤツだ。

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