実力通りに映えさせて
「ちょっと皆さんいいですかー?」
大学祭が近付いてきて、みんなステージと喫茶の準備でてんやわんや。特にさとちゃんはみんなの衣装と喫茶のお菓子を手掛けてくれる関係でフル回転。今年は植物園ステージに限らず2年生が中心になってやってくれてる感が強いよね。
さとちゃんの呼びかけで、みんな手を止める。衣装の話かな、どうしたのかなとひとまず席について。みんな席に着くと、2年生の子たちによってあれよあれよとお茶会のセッティングがされていく。
「喫茶の方で出すお菓子を作ってきたので、食べてみて感想を聞かせて下さい」
「きゃーさとちゃんのお菓子!」
「ヒビキ、がっつかないの」
「クッキーとケーキです」
ステージとは別にやる喫茶は、執事&メイド喫茶として出すことになっている。1・3年生がメイドで2年生が執事。さとちゃんは執事っていう柄じゃないのと、裏方さんとして働くことに。主にお菓子と皿洗い担当。
みんなそれぞれ着いた席に、プレーンとチョコチップの2枚のクッキーとケーキが置かれ、脇には紅茶。当日はクッキーセットかケーキセットか選べて、ケーキは数量限定で早い物勝ち。オプションでおまじない(300円)も付けることが出来る。
ドリンクは紅茶の他にもいろいろあるけど、目玉はアヤネちゃんの家から取り寄せたブドウジュースかな、やっぱり。喫茶のメニュー表なんかもアヤネちゃんがテンプレートをささっと作ってくれたよね。さすが実家のカフェでお手伝いしてるだけある。
「うん、さとかーさんのクッキー安定」
「さとかーさんもう1枚ー、サドニナは育ち盛りなんですー」
「おかーさんて言わないの!」
「ケーキも間違いないし、この感じで大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、このケーキでいこうと思います。メニュー表の写真はどうしますか?」
「そうだよね、それが問題だなって思ってたの。写真が残念だとさとちゃんのケーキもメニュー表も残念な感じに見えちゃうし。この中で一番写真撮るのが上手なのって誰かな」
「はいはーい! サドニナでーす!」
「アンタのはヘタクソな自撮りじゃん」
「うるさいよユキ!」
1年生がわあわあとケンカを始めた中で、さて困ったぞと。フォトショップとかで加工も出来るんだろうけど、加工をするにしても元の写真素材がある程度は良くないといけないだろうし。さて困った。今ここにアヤネちゃんがいてくれたらなと少し思う。
「あっ」
「どうしたのさとちゃん」
「ヒビキ先輩ならきっと綺麗に撮ってくれると思います。インスタとか見ててもすっごい写真が映えてますし、ケーキは多分得意分野ですよね」
「確かに言われるとそうかも。ヒビキ、スマホでさ、インスタ映えする感じで写真撮ってよさとちゃんのケーキのさ」
「えー、アタシ!? 責任重大だなあ」
「いつもの感じでいいからさ。ねえさとちゃん」
「あ、はい。いつもの感じでお願いします」
しょうがないなあとヒビキはテーブルの上を綺麗にして、さとちゃんに敷物があるかを訊ねた。ただの長机じゃ味気ない。だからケーキメインでちょびっとしか写らないとしても何か布でも敷いて少しでもそれらしく。
ケーキの角度や皿の配置まで、それらしくこだわる様は本格的な撮影。まるでお店とかで食事そっちのけで写真撮ってる人みたい。あ、今はそういう感じでお願いしてるんだっけ。映える写真というヤツを。
「ねえさとちゃんさとちゃんこんな感じでどうかな」
「あっ、いいと思います!」
「加工は?」
「過度にならない程度に……アヤネ先輩のメニュー表に合うような感じでお願いします」
「はいはーい」
メニュー表の写真問題も無事解決。ヒビキには同じようにクッキーの写真も撮ってもらって、後は仕上げてラミネート加工。衣装の方もそろそろ完成するそうだから、さとちゃんの残る仕事は当日の小麦粉戦争。
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